俺は美紗をファミレスの裏口へと呼び出した。詰め寄られた彼女は「ううっ」と声を上擦らせながらも、戸惑いの表情を浮かべていた。そんな女の肩を推した状態で、俺は怒気を込めて叫んでいた。


「お前はどういうつもりなんだよ!」


 怒りの叫びだとしても……。

 美紗には全く理解されなかった。

 彼女は薄気味悪い笑みを浮かべて。


「ヒロくんのほうがどういうつもりなのかな? 可愛い彼女さんをこんな場所まで連れてきて」


 もしかして。

 そう呟きながら、美紗の瞳が輝いた。


「ワタシをバイト先でも慰み者にするんだ」

「ちげぇーよ! どんなエロゲの世界だ!」

「違うのか……なら、どうしてここに?」

「それ以外の選択肢がお前の頭にないことが逆に怖いよ、俺は」

「えへへへ。褒められちゃった❤︎」

「褒めてねぇーからな! お前のことは!」


 美紗は大人な身体の癖に、中身は子供だ。

 どこまでも無邪気な女の子と接している気分になった。


「うふふふ。照れちゃって可愛いなぁー」

「別に照れてるわけじゃないんだが……」

「照れてるわけじゃなくて発情してるんだもんね、ごめんごめん。間違えちゃったよ」


 美紗との話は疲れた。

 こちら側が誠意を見せたところで全く話が通じないのだから。俺には彼女がいることを伝えても、それが自分だと勘違いする始末。

 流石の俺も限界が来て、思わず叫んでいた。すると、彼女は泣き出してしまうのだ。


 女の涙は卑怯である。

 彼女が泣く姿を見ていると、申し訳ない気持ちになってしまうのだ。罪悪感に駆られ、謝ったほうがいいのではないか。

 そんな思いになってしまうのだから。


「ご、ごめん……俺が悪かったよ」


 本心ではそんな気は一切なかった。

 すると、美沙は先程までの涙はどこに消えてしまったのか。


「許してあげる」

「はぁ?」

「……こ、怖い。また、泣いちゃうかも」

「……それは勘弁してください」

「うん、ならギュッと抱きしめてくれたら許してあげる」

「あのなぁ〜。俺はお前と関係を深めるつもりは……」


 美沙が抱きついてきた。

 さっさと離れろと突き放したいのだが、彼女は意外と力が強かった。


「……えへへへ、許してあげる。ヒロくんがしっかりと抱きしめてくれたから」


◇◆◇◆◇◆


 人間という生き物は相手の弱みを握ると、それを有効活用するようだ。

 バイト先の人間を味方に付けた(鈴夏ちゃんだけは敵意の眼差し)結果、美沙は何かと理由を付けて、バイト先に来るようになったのである。

 もう来るなと心底思うのだが、相手が問題を起こしていない以上、出禁という形を取ることができない。更には、バイト仲間の連中は「美沙ちゃん可愛すぎるだろ」「美沙ちゃんを幸せにしないとか許さない」などと口走るのだ。


 で、現在——。


「ねぇ? ヒロ。これはどういうことなのかな?」


 彼女の亜美に、俺は脅されていた。

 顔を極限まで近づけ、刃物を向けてきているのだ。

 俺は両手を上げた状態で、彼女を宥めているのだが——。


「私のこと好きなんだよね? それなのに他の女の子とも付き合ってるの?」


 亜美が持っているスマホ。

 その画面に表示されているのは、俺と美沙が仲良しそうに喋っている写真。

 どこでこの写真を撮ったのかは知らん。だが、これは大変マズイ状況だった。


「ちょっと待て、亜美。俺と美沙は何の関係も……あっ」


 あ、しまったと思っても、もう全てが遅い。

 美沙という女の名前を出してしまったのが、マズかったのだろう。

 亜美はより一層顔色を歪めて、俺へと怒りの眼差しを向けてくる。

 ほんの少しだけ目を合わせただけ、寿命が数十年奪われた気がしてしまう。


「へぇ〜。美沙さんって言うんだ、この女の名前はさ」

「ええと……そ、その……何か怒ってますか? 亜美さん、そ、その……」

「怒ってるに決まってるよね? 誰が起こらないと思うわけ? 自分の彼氏が浮気してるんだよ? それはおかしな話だと思わない? どうしてそんな簡単なことも分からないのかな? 普通に考えておかしいよね? ねぇ、ねぇ?」


 亜美は口数が少ない女だと思っていた。

 だが、喜怒哀楽を伴う場合は、口数が滅法増えるのだ。

 感情豊かな彼女だと思っていたのだが、それはある意味正しいだろう。

 まぁ、もう半分はただ情緒不安定な女の子とも言えるかもしれないが。


◇◆◇◆◇◆


「……で、お前はどうして当たり前のようにバイト先にいるんだ?」


 美沙はバイト先に入り浸っている。

 それも、俺のシフトを確認しているらしく、それに合わせて来ているのだ。

 本人曰く、ヒロくんにお金を落としたいらしい。全く意味が分からん女だ。


「ヒロくんに会うためだよ?」

「……だからって、ドリンクバーとポテトフライで居座るかよ?」

「それならお仕事を増やして……もっと注文したほうがいいよね?」


 美沙は水商売を始めたらしい。

 俺へ貢ぐためにお金を貯めているというのだ。

 本気で貢ぐなら、ファレミスではなく、俺自身に貢いでほしいのだが。

 まぁ、そこまでのクズに成れるはずもなく……。


「ヒロさん……あの女また来たんですね」


 俺が厨房に戻ると、鈴夏ちゃんが喋りかけてきた。

 鈴夏ちゃんは俺と他の女が喋るのが嫌いなようだ。


「鈴夏ちゃん、言い方言い方」

「まぁ〜あたしは別にいいんですけど」


 俺と鈴夏ちゃんが喋っていると——。


「可愛い子がまた来たぜ」


 チャラ男がホールから戻ってきた。

 鈴夏ちゃんはつまらなさそうな表情を浮かべていた。

 別段、女には興味ない。というか、十分に足りていた。

 けれど、お前も見てこいと強く言われ、俺も行くことに——。


「————ど、どうして亜美がここに?」

「私が来たらダメな理由とかあるのかな?」

「ダメな理由とかはないけど……」

「ふぅ〜ん。それで……女の気配が二人。どっちもヒロの何なわけ?」


 ドラゴンボールのスカウターでも持っているのか。

 亜美は、美沙と鈴夏ちゃんの気配を感じ取ったようだ。

 僅かに目線を移してみると——。

 美沙は冷めたままのポテトフライを食べ、鈴夏ちゃんは指先を噛んだままに「ぐぬぬ」と声を漏らしていた。この二人がバレなければいいのだが……。


 一方で、その頃——。

 3人の女性はお互いの姿を確認しながら、一人の男を巡る戦いに参戦するのであった。


「ヒロ」

「ヒロさん」

「ヒロくん」


「「「彼だけは絶対に誰にも譲らない!!!!」」」


(完結)


————————————————————————————————————

あとがき


 この作品は不出来でしたね(´;ω;`)

 マッチングアプリでヤリ捨てした女がバイト先に入り浸っている。

 タイトルが一番面白くて、それ以上の面白さを作り上げることができなかった。我ながら、自分の発想力に限界を感じましたね(´;ω;`

 色々とアイデアを組んでみたものの、面白さを引き出すことができなかった。

 なので、今回はこれでおしまいという形になりました。

 プロトタイプ版だからこその、低クオリティでしたね……。


次回からは、また異なる作品を投稿していく所存です( ̄▽ ̄)

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