「ブスに用はないですって……」


 末松正樹が消えたあと、私は一人呟いてしまう。


「マジで舐めやがってる……人様を小馬鹿にするなんて」


 思い出しただけで、イライラが止まらない。

 それに。


「ほっぺたのヒリヒリも全然止まらないんですけどぉー」


 先程殴られた箇所が痛むのだ。

 このまま言われっぱなしでは、気が済まない。

 こちら側からも反撃返しと行こうではないか。


「覚えていやがれよ……あのイケメン野郎め」


◇◆◇◆◇◆


(末松正樹サイド)


 折角の昼休みを、本田理沙に潰された末松正樹。

 本来ならば、可愛い女の子と楽しく食事を取っていたはず。

 それなのに……。


「ったく……ブスが気安く俺に喋りかけるんじゃねぇーよ、マジで」


 以前から、本田理沙に好意を抱かれている。

 とは、気付いていた。

 ていうか、むしろ好意を抱かせる行動を取っていた。


「まんまと俺の罠に引っ掛かったとでも言うべきかな」


 今までも、何度も何度も女子を騙して。

 女子を振るゲームを、末松正樹は続けていたのだ。


「やっぱり……人の気持ちを踏みにじるのは楽しいな」


 末松正樹は可愛い女の子が大好きだが。

 可愛くない女の子に好意を抱かせ、告白させるのも大好きなのだ。


「学園の王子様というブランディングも大変だぜ……」


 末松正樹は、少々頭が回るのだ。


 モテる男は何か?


 と、男子諸君ならば、誰もが思ったことがあるはずだ。

 その答えを、末松正樹は知っている。答えは——。


——多くの女にモテる男なのだ——


 男性アイドルを例に出してみよう。

 彼等全員が絶世の美少年だろうか?

 答えは違う。意外と、平凡な少年であることが多い。


「こっちは社交辞令で優しくしてるだけってのになぁー。あのブスが」


 多くの女の子に支持されるからこそ。

 その存在は雲の上の存在へと変わってく。

 そして、多くの女性が独り占めしたいと思うのだ。

 つまり——。


「あぁ〜早く可愛い女の子がさっさと引っ掛からねぇーかな?」


 末松正樹は、モテない女子を踏み台にして、モテる女子を手に入れようとする悪どい男なのである。

 それにしても。


「さっきのはちょっとまずかったな。ムキになりすぎた」


 計算高い男なのだが、少々今日は言いすぎてしまった。

 本田理沙は、地味な文学少女。友達もいなくて、本が友達とか言い出しそうなぐらい根暗だ。だから、少々キツイ言い方になってしまった。


「特にあーいうのが一番ヤバイんだよな……ストーカーになる可能性が高いし、あれぐらいこっ酷く言っておかねぇーと何をしでかすかわからん」


 無意識な優しさは相手を狂わせるだけなのだから。


「ただ……一応口止めすべきだったかもな……」


 本性をバラされたら、溜まったものではない。

 学園の王子様という肩書を失ってしまう。それだけは大変困る。


「まぁーいいさ。アイツが何か言ったところで、全て無駄だ」


 学校という世界は、人気者の意見が全てまかり通るのだから。


 と、余裕な表情を浮かべていた末松正樹だったのだが——。


 その笑みは、昼休み終わりの授業中に全て崩されてしまった。


「お、本田理沙……お前……い、今までどこに行って……ひぃひぃ」


 授業開始十分が経った頃、一人の女子生徒が教室へ入ってきた。

 先生が咎めようとした瞬間、奇声を発した。

 それと同時に、クラスの奴等も思わず二度見、三度見してしまう。


「せんせい……い、痛いです……めちゃくちゃ……痛いです……」


 授業に遅れて現れた女子生徒——本田理沙が血だらけで現れたから。


「本田……お、お前どうしたんだ? そ、それは……?」


 先生が尋ねると、彼女は泣きながら答える。


「…………末松正樹くんに殴られました……」

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