第15話 残る三人の攻略対象(でも、出会わない訳にはいかないらしい)

「そうだな、後の二人をそれぞれ一言で言うなら『腹黒王太子』と『年下ワンコ第三王子』だ」



 学園プリンスどころじゃないじゃん!

 ガチのプリンス揃い踏み!?



「……って、王太子殿下? だって王太子殿下には、婚約者が……」


 ヴィオレッタ様との婚約が内定しているって、レイが言っていたはずだ。

 優しく微笑むヴィオレッタ様の顔が脳裏を過ぎる。


「ああ、隠しキャラの王太子のエンディングは『略奪エンド』だ」



 非人道的!!



「そ、それに第三王子殿下って、確かまだ十歳くらい……」

「ショタ枠だ」



 非人道的!!

 どうなってんだ異世界のモラル!!



「第三王子殿下は、ヒロインが三年生の時に飛び級で入学してくる予定なんだ。登場時期が遅くて一年しか攻略期間がないからオマケ扱いな。ゲーム登場時には十二歳。ヒロインが十八歳だから、おねショタ好きには堪らん感じなんだろう」



 ……おね、ショタ…………?



 何だかマックスが遠い世界の人の様に感じる。あ、転生者って元異世界人か。



「幸い、エターナルトゥルーエンドなら恋愛関係にまで発展する必要はないからな! とりあえずこの二人は置いといて、まずはユーレイ王子と脳筋騎士だ。後、レイモンドは学友としてでいいから、それなりにアンジェと交流を持て」

「んぐぐぐぐ……、分かった。努力する」


 レイ、何か色々大変だな。


「後の問題はやっぱりパラメーター上げだな。幸いアンジェリカの元スペックは高そうだから勉強の方の面倒は俺が見るとして、美容系も金かけりゃ何とかなるだろ。後は……レベル上げと、民衆の人気度か」


「人気度? 初めて聞くけど何それ?」


「うーん、聖女の支持率っていうか、町でどれ位好かれてるかって事だな。これは頼まれ事を解決したり、冒険パートで成功すると自然に上がる」


 なるほど。本当にやる事盛り沢山だね。


「その辺は、上手くアンジェを手伝っていくしかないね」

「ああ。最後に、ゲームで出て来た『お助けアイテム』がこの世界でも機能するのかを試しておきたい」


 お助けアイテム?


「パラメーターを上げたり、レベルを上げたり、疲労度を下げたり。攻略対象者に贈る事で親密度を上げる物なんかもある」


 何それ。ちょっと怖いんですけど。


「学園の高位貴族専用の個室でしか食べられない学食メニューあるだろ? 実はあれもそうだ。『シェフの気まぐれ』シリーズ」


「えぇー!?」



 ちょ、僕食べまくっちゃったんだけど!?

 シェフ、気まぐれにお助けアイテム錬金しないで!?



「まぁ多分、一般人が食べる分には影響ないと思うぞ? 普通に学園で提供されてるメニューなんだし。これからはたまにアンジェリカも誘って気まぐれ料理を食べさせれば、レベルを上げる助けになるんじゃないか?」



 『確か、シェフの気まぐれ料理食べると経験値が少し貰えるんだよなー』なんて呑気に言っているマックスの横で、レイが顔をヒクヒクさせている。


 レイ、何か色々大変だな……。本当に。



「さて、あんまり遅くなるとアンジェリカを誘いにくくなるだろうし、そろそろ行くか」


 そう言うと、マックスは白いスクリーンを消して魔道具をまたポケットにしまう。


「あ、そうだ。クリスフォード殿下自身は自分の事何も覚えてないからな? アンジェリカにもクリスフォード殿下にも余計な事言うなよ?」

「え、えぇ!?」



 そんな重要な事をさらっと言わないでくれる、マックス!?



「ヒロインは、記憶を失くした謎の幽霊と出会うんだよ。で、失われた記憶を取り戻す為に奔走するうち、段々とお互い惹かれあっていく……。しかし相手は幽霊、どんなに好きになっても結ばれる事はない。ってな感じの悲恋匂わせ胸キュンシナリオな訳よ、クリスフォードルートは。いきなり『貴方は毒殺されかかって眠り続けてる第二王子でーす! ホントは生きてるヨ!』とかネタバレかましたら興醒めだろ?」


 いや、ネタバレとか興醒めとか……。


 やっぱりマックスは、どこかこの世界を現実として見てない様な所がある。


 本人からしたらここは乙女ゲームの世界な訳で、その気持ちも分からなくはない。



 —— でもさ、みんな一生懸命この世界で

生きてるんだよ? マックス。



 意気揚々と部屋から出て行くマックスの背中を追いかけながら。

 僕は何とも言えない寂しい気持ちになった。

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