第30話 アルティメットなエンディングと、追加コンテンツな僕
「そうか。ヴィオレッタが攻略対象者にもなるのは、複雑としか言いようがないが……」
僕の説明を聞いたレイが、本当に心の底から複雑そうな顔をしてそう言う。
「しかしそれなら、もしかするとエターナルトゥルーエンド以外にも、ヴィオレッタが救われる道があるのではないか?」
レイの言葉にハッとする。確かに!!
「あ、皆さんはヴィオレッタ様を助けたくてエターナルトゥルーエンド目指してたんですか? あんな難易度SS級に現実で挑むとか
「それしか、悪役令嬢救済ルートが無かったんだよ。リメイク版では違うのか?」
「はい、もちろんそれ以外にもあります!
ババーン! と効果音でも背負いそうな勢いの転校生のテンションとは裏腹に、僕には嫌な予感しかしない。
何だよ、アルティメットって……。
普通に考えれば選択肢が三つも増えた!
と、喜ぶべき所なんだけども……。
これ、例えば僕とアンジェのエンディングの場合は、その、僕かアンジェのどっちかがヴィオレッタ様と恋愛関係になる……と、いう事、です……よね?
いやー、それは現実的には厳しい!!
ゲームだから何とかなるのかもしれないけど、普通に考えたら支障がありまくる。
え、ていうかその場合、ヴィオレッタ様と婚約内定してる王太子の方もどうなるのさ?
謎が多過ぎる。
「エターナルトゥルーエンドの達成条件は変わってないか?」
「多分。すみません、俺は逆にオリジナルを知らないんで……。でも、基本リメイク版は、グラフィックが綺麗になったのとボイスが追加になった以外はオリジナルと変わらないはずなんで大丈夫だと思いますよ! 変化するのは、あくまで追加コンテンツがインストールされてからなんで!」
…………。
……追加コンテンツ、ね。
いや、良かった。せっかく今までエターナルトゥルーエンドを目指して頑張ってたのに、そこが変わってたら一大事だもん。
つい考えそうになる嫌な事を頭の端っこに追いやっていると、何やら考えていたマックスが口を開く。
「なぁ、もしかして追加コンテンツって、これからも増える予定とかあったか?」
「さすがご明察っす。『どんどん増える追加コンテンツに乞うご期待!』ってCMバンバン打ってたんで、多分増えると思います! 一説には攻略対象キャラが増えるんじゃないかって話もあって」
……ヤメテ?
その後も、結構暗くなるまで転校生に色々な話を聞いた。
「そうは言っても俺自身はこのゲームやった事ないんで、そこまで詳しいかっていうと実はそうでもないんですけどね」
話も終わりかけた頃に、転校生がポツリとそんな事を言うのでちょっとビックリした。
いわく、彼の好きなゲーム実況配信者? が、このプリラビのリメイク版をよくプレイしていたそうで、彼の知識はほとんどがそこから得た物だそうだ。
「あ、でもその配信者さんはマジ神なんで! エンディングも
神……。
マックスはゲームは遊びではなく文化だって言ってたけど、転校生にとってその『ハイシンシャ』というのはもはや信仰の対象なのか。凄いな、異世界。
ともあれ、そのハイシンシャ神の御神託で転校生も一通りのエンディングを全て知っているという事で、その知識は非常に心強い。
「遅くまでごめんね、セオ殿。色々教えてくれてありがとう」
「いやー、こっちこそなんかすみませんでした。俺、異世界に来てちょっと舞い上がってたみたいで、気付けて良かったです。……で、良ければ一つ頼みたい事があるんすけど」
頼みたい事? 何だろうと、思わずレイとマックスと顔を見合わせる。
「大した事じゃないんですけど、出来れば俺のことは呼び捨てで呼んで貰えませんか? 向こうの世界では、様とか殿とか使わないんで正直落ち着かないんですよ……」
「ああ、それはそうかもな」
マックスが納得した様に頷く。
なるほど。文化の違いだな。
「分かった! じゃあこれからはセオ殿の事はセオって呼ぶよ」
そう言うと、セオはほっとした様に笑った。思えば、彼も一ヶ月前にいきなり異世界に飛ばされて来たばかりのただの高校生なのだ。
そりゃ混乱もするし、自分の事で精一杯にもなるだろう。
周りの事にまで考えが行き届かなくても当然だよね、と改めて気が付いた。
◇◇◇
「というか、考えが行き届いていなかったのは僕なんだよね……」
あの後みんなと別れ寮の自室に戻った僕は、行儀悪くベッドの上にゴロリと横になった。
……僕は追加コンテンツ。
そして、もう一人の主人公。
今日あった事を思い出して、つい頭の中でぐるぐると考えてしまう。
僕もゲームの登場人物なんだ。
そう知った時、自分が得体の知れない存在になったみたいに感じて、思わず周りのみんなに助けを求めそうになってしまった。
みんなの事は、深く何も考えずゲームのキャラクターだと思っていた癖に。
「ああ、何か僕、最悪だ……」
自分がゲームのキャラクターだと言われたらショックだったなんて、それってみんなにも凄く失礼じゃないか?
みんなの前ではそんな考えを悟られたくなくていつもみたいにワイワイ騒いだけど、その分一人になってからの反動が凄い。
何の涙か自分でもわからない涙がポロポロ出て来て、僕は枕に突っ伏した。
『泣いているのかい?』
ああ、そうだった。
僕にはプライバシーオール無効化のとんでもない王子様が憑いていたんだった。
—— こんな汚い感情、誰にも見せたくなかったのに。
『リッキー、キミはいつも人に囲まれているっていうのに、何で肝心な時には一人で苦しんでいるんだい? これだからやっぱり目が離せない』
僕はノロノロと枕から顔を上げると、ふよふよ浮いている殿下をジッと見つめた。
この人も、自分がゲームのキャラクターだとは知らないんだ。
でも、ゲームキャラとか関係なく、過去の事を何も覚えていない霊体である自分に不安を抱かない訳がない。
それなのに僕は、『そういう設定だから』位に考えて、殿下の気持ちなんて深く考えた事もなかった。
何が『マックスはどこかこの世界を現実として見てない様な所がある』だよ。
僕の方こそ、全然周りの事なんて見えてなかったんじゃないか……。
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