第31話 クリスフォードの決意
何で泣いてるのか、聞かれるよね……。
僕はグシグシと手で涙をこすると、全然まとまる気配のない自分の頭の中から必死に理由を引っ張りだそうとした。
『……私の話をしようか』
…………。
まさかの自分語り!?
必死に頭の中を整理しようとしていた僕の気持ちを他所に、自分の話しを始めようとするクリスフォード殿下を思わずポカンと見つめてしまう。
クリスフォード殿下は、基本お喋りが好きだ。というか、多分話を聞いて貰うこと自体数年ぶりで、会話に飢えていたのだろう。
『相手は誰でも、内容は何でもいいから、とにかく聞いて欲しい』
最初の頃はそんな気持ちが痛い程伝わって来て、こっちがノイローゼになるんじゃないかと思う程
最近はだいぶ落ち着いたと思ってたんだけどな? と思いながら殿下を見ると、いつものお喋りとは違うんだとすぐ気が付いた。
僕を労わる様に見つめる殿下の目が、とても優しかったから。
『私もね、自分の存在が不安になる事はあるよ。今の私はまるで水面に浮かぶ露草みたいに不安定なモノだからね』
まるで、僕が自分の存在を不安に思って泣いていたと知っているかの様な殿下の話にドキリとする。
『キミの双子星に付いて、王宮へ行ったんだ。……私は、王家に
……クリスフォードルートのシナリオが進んでる!!
思わずそう思い、また複雑な感情に襲われる。
『キミ達に巡り合うまでの数年間、私は一人でただただ彷徨い続けていたんだ。今思えば、何も覚えていない、誰にも気付いて貰えない日々を数年続けていたにも関わらず私が狂いもせずにいられたのは、本当の私がそれを望んでいたからなのだろうと気付いた』
本当の殿下が、望んでいたから?
『本当の私はきっと、自由になりたかったんだ。誰に気を使う事もなく、誰に怯える事もなく、誰に縛られる事もない。……皮肉な事に、今まさにそうだろう?』
…………。
『毒殺されかかって、眠り続けている第二王子』
その言葉の持つ意味をやっと本当に理解して、身体中を流れる血が一気に冷たくなった気がした。
目の前にいるこの人は、身近な人間に命を狙われ。
—— そして実際に殺されかかってここにいるのだ。
バカ! バカ! 僕は本当に馬鹿だ!
一度落ち着いたはずの涙がまたボロボロと流れて来る。
『リッキーがなぜ泣いていたのかは分からないけれど、今のその涙は私の為だね? ……リッキー、キミは優しすぎる』
僕は全然優しくなんてないのに、殿下はそう言ってまた優しく微笑んだ。
『優しすぎるキミを思うと心配で胸が震えるけれど……でも、きっと大丈夫なんだろうね。リッキーの周りには沢山の星たちが集まっているから』
何だろう。
殿下は優しく穏やかに語りかけてくれているのに、反面、何かを決意したかの様な強さを感じて少し不安になる。
『ふふ、リッキーが拐われた時のキミの星たちの騒ぎぷりったらなかったよ? 大丈夫。例えキミが闇に囚われそうになったとしても、きっと沢山の星が照らしてくれる』
ああそうだ。あの時はみんなが僕の為に駆けつけてくれたんだよね……。
みんなが僕を助けに来てくれた時に感じた、あの嬉しさと安心感を思い出す。
『キミの周りは温かいね、リッキー。この体になってもう何年も経つけれど、こんな事は初めて思ったよ。……生きている内に、キミ達に出会いたかった』
哀しげに微笑んだ殿下に、
『クリスフォード殿下はまだ生きてる!!』
と、叫びたくなった。
でも、それが正しい行動なのか分からない。
それに、そう言ってしまったら殿下が自分で決めた『何か』の邪魔をしてしまいそうな気がした。
『例え本当の自分がどんな人間であれ……私は、私だ。いつまでもこうしてフワフワしている訳にはいかないからね。私は逃げずに、自分の因縁に決着を付けに行こうと思う』
ああ、やっぱり殿下は自分の中で、一つの覚悟を決めたんだ。
『それじゃあ、行くよ』と笑う殿下が、らしくなく拳なんか突き出すもんだから、僕も笑って拳を突き出した。
その拳がコツン、と音を立ててぶつかる事は無かったけど。
きっと気持ちは伝わったと信じたい。
ありがとうございます、殿下。
僕も、……腹を
主人公でも追加コンテンツでもいい。
男爵家の嫡男でも、下っ端学生でもいい。
だって、やる事は結局変わらないんだから。
—— 僕は、僕だ!!
◇◇◇
クリスフォード殿下のおかげでスッキリした僕は、翌日からも無事普通の学園生活を送る事ができた。
学生達の話題は、もっぱら目前に迫った長期休みについてだ。
「その、パットも長期休みの間は実家の男爵領に帰るんだったか?」
何だかソワソワとレイが話しかけて来る。
「うん、僕の実家の領地は王都から遠くて、長期休みでもないと中々帰省出来ないからね。弟達に会うのも十ヶ月ぶりだから楽しみなんだ!」
「そうか、その……学園ではな、長期休みに親しい友人の領地に遊びに行ったりもするもの何だが……その、……」
「レイも一緒に来る? ハミング男爵領」
まさか僕の方から誘われるとは思わなかったのだろう。
ガバッと上げたレイの顔には驚愕の表情が浮かんでいたけど、次の瞬間にはパアァァッと満面の笑顔になった。
うん、慣れるとサングラスがなくても何とかなるもんだな。
「お、何だ、どういう心境の変化だ? 珍しいじゃないか、リックの方からレイモンドを誘うなんて」
急に頭に重みがかかったと思ったら、マックスが僕の頭に腕を乗せてニヤニヤしている。
「もうー、マックス重い!!」
「ははっ悪い悪い。丁度いい高さにリックの頭があるからついな」
ぐぅっ、成長期を舐めるなよ!
僕だってまだ背伸びるんだからな!?
……多分。
「で? レイモンドを誘うって事は当然俺にもお声が掛かるんだよな?」
「マックスも一緒に来たいの?」
「お、言うようになったじゃないか!」
僕の頭をグシャグシャ撫でてくるマックスと、それを止めようとするレイとでいつもの様にわちゃわちゃ騒いでいると、近くで見ていたセオが笑いながら言った。
「なるほど! 皆さんでダンジョン攻略っすね!」
…………違うよ?
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