第20話 攫われたパトリック
「ぶはっ! それで今度は脳筋に懐かれてんのか!? いやー、リックは裏切らないなー」
翌日、休み明けの学園。
週末の出来事をマックスに伝えると、何故かお腹を抱えてゲラゲラ笑われた。
うう、僕頑張ったのに酷いよマックス。
昨日は結局あのままレイがダグラス様を何とか抑えてくれたので、そのまま無事解散の流れになったんだけど。
今朝、ダグラス様が爽やかに朝稽古に誘いに来て卒倒するかと思った。
朝早い時間の寮への訪問は迷惑です。
やめましょう。
「いや、でもそれグッジョブだわリック。そのまま放っておいたら、脳筋とアンジェでガンガンフラグ立ってたかもしれないからな。脳筋の興味がリックに移ってる位で丁度いいだろ」
何その身代わりシステム……。
「それにしても、アンジェリカがやり手過ぎるんだよな。エターナルトゥルーエンドを目指す上でヒロインのスペックが高いのは有り難いけど、勉強も教えりゃすぐ理解するし、運動能力も高いし、シナリオも自分でサクサク進めてるし……、ほんとに何者だ? ヒロイン補正って奴か?」
「僕には、その『ヒロイン補正』っていうのがよく分からないんだけど……」
アンジェの底が知れない、というのは少し感じるかもしれない。
「まぁ、アンジェリカが自分でイベントこなしてくれてる分には助かるんだよ。後は変なルートに入られない様に注意だな!」
うーん、例えばダグラス様とアンジェがいい感じになった時に邪魔をするとか、凄い罪悪感があるんだけど。
ヴィオレッタ様を。ひいてはレイを救う為だもん。いざとなったらやるしか無いよね。
……せめて朝稽古位は付き合おうかなぁ。
◇◇◇
「じゃあパット、また明日!」
「うん、いつもありがとうね、レイ」
今日も今日とてファビュラスな馬車で寮まで送って貰い、帰って行くレイに笑顔で手を振る。
……さて。
いつもなら、このまま自分の部屋に戻って授業の予習復習や試験対策をするんだけど、今日は違うんだな!!
昨日、色々トラブルはあったものの薬草自体は沢山とれて結構な値段で買い取って貰えた。生活に必要な物を揃える為にとっておかなければいけないのは分かっているのだが、初めて自分で働いて得たお金だ。
僕はこれで、領地の弟たちに何か買ってあげたい!
僕が王都へ行く事になった時、寂しくて号泣していた弟達。
それでも、『頑張ってね!』と最後には笑顔で送り出してくれた弟達。
くっ、可愛い。思い出し可愛い。
そんな可愛い弟達に、兄として何か贈り物をしたいというのは当然の兄心だろう。
待ってろよー、兄様がとびっきりいい物見つけてやるからな!
鼻歌まじりで町に向かう僕は、多分浮かれ切っていたんだと思う。
物陰からこちらを見ていた人間がいた事に、全く気が付かなかったんだから……。
◇◇◇
「やっぱりお菓子がいいかなぁ? でも男爵領まで送るとなると日数がかなりかかるし、文房具とかの方がいいかな?」
僕には四人の弟たちがいるのだが、上から十三歳、九歳、五歳の双子、と年齢も離れていれば趣味や好みもバラバラなのだ。
一人一人の顔を思い浮かべながら、喜びそうな贈り物を選んでいく。
最後に双子用の小さいドラゴンのぬいぐるみを二つ買ったところで、ふとレイとマックスの顔が頭をよぎった。
最初は付き纏われているとしか思えなかったけど、結局のところ散々お世話にはなってるんだよね……。
二人にも何かお礼の品を買おうかな? なんて思ったけど、僕の持ってるお金で買える様な物なんて、あの二人が喜ぶ訳ないかな。
何せ相手は生粋の大金持ちだ。
そうは思ったものの何となく商品を眺めながら寮までの道を歩いていると、他のデザインに比べてやけにシンプルな、けれども質の良い紙を使った栞が目に入る。
……これ、自分で何か挟める様になってるのかな?
僕が栞を手に取って眺めていると、お店の人が丁寧に説明をしてくれた。やっぱり、中に物が挟める様になっているらしい。
『自分の好きなお花を押し花にして入れたり、自分の描いた絵やお写真を入れるのも人気ですよ?』
説明してくれた店員さんの言葉を聞いて、ふとある事を思い付く。
押し花、か。
「すみません、じゃあこれ、二枚下さい」
すっかり暗くなった帰り道、小走りで寮に向かう僕の耳に、背後から走って来る馬車の音が聞こえた。
背後から迫る馬車の音に、あまり恐怖を感じなくなっている自分もどうかと思いながら振り返ると、一台の馬車が結構な勢いで明らかにこちらに向かって来ている。
ファビュラスでも、マーベラスでも、マジェスティックでもない……知らない馬車だ。
ダグラス様、とか?
いやでも、ダグラス様は馬車が苦手で基本馬で移動すると言っていた。
ドクン、と心臓が鳴り、慌てて体の向きを変えると全力で寮に向かって走る。
嫌な予感がする。
多分あれは駄目なやつだ。
ただ、全力で走った所で馬車を振り切れるはずもなく。
勢いよく僕の横に来た馬車の扉が開いたと思った瞬間、僕の体は中から伸びて来た手に引きずり込まれた。
昨日、同じ様な感じでレイにも馬車の中に引きずり込まれたけど。
あの時レイは、ちゃんと僕の体の事を考えてくれてたんだな、なんて場違いな事を。
馬車の床に乱暴に叩きつけられた痛みを体中に感じながら、僕は考えていた。
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