第12話 僕の心がラビリンス
昼休み。
レイとマックスと連れ立って、すっかり常連と化した上位貴族専用フロアの個室へ向かう。
学校行事の関係で今朝は珍しく別々に登校したので、レイと顔を合わせるのは昨日の放課後のあの時以来だ。……多分。
多分というのは、過去に『僕は気付いていないけどレイ的には僕を認識している』というシチュエーションが数回あったからだ。
何週間か前。寮の近くの公園に可愛い町猫がいたのでつい構い倒していたら、翌日レイに『ふふ、パトリックは猫が好きなんだね!
レイには、そう言う時は声をかけてと頼んでおいたけど、正直今はもうこんな状態にも慣れたかもしれない。
グラウンドにいてなんか視線感じるな? と思ったら校舎からレイが見てたり。
(目が合うと手を振る)
学園内のカフェテリアでこっそり生クリーム増量のパフェを食べようとしてたら、隣で僕以上に生クリームを増し増しにしたパフェをマックスが食べてたり。
(目が合うと何故かドヤる)
……なんか、付き纏いに慣れてしまうのもどうかとは思うのだが、これも弱小貴族の生存戦略だ。
適応力の高い自分に感謝して、甘んじて受け入れよう。
「パット、私の事で心配かけてしまった様ですまなかったな」
いつもの個室の中、笑顔の素敵な給仕が部屋を出て行くと、レイがそう話を切り出して来た。
眉尻を下げて心底申し訳なさそうな顔をしているレイモンド様を前にして、許さないという選択ができる人類はそういないと思う。
心配、だったのかな?
レイが僕と一緒にいるのは、あくまでも『未来を変える為』だけなんじゃないかと思った時の、モヤモヤとしたあの気持ちは。
「いえ。……で、その、お二人はお互いの事情なんかは……?」
「ああ、間に入ったパットを苦しめる訳にはいかないからな。私の事情は全てマクスウェルにも話した」
何とも複雑そうな顔をしながらレイが切り出し、その隣でマックスも頷く。
「死に戻りとかあり得ないだろ? って思ったんだけど、レイモンドの過去の生の話がちゃんと本来のシナリオと一致するんだよな。そうなると信じない訳にもいかないだろ」
マックスも若干腑に落ちない顔をしているものの、そう言うと腕を組んで椅子にふんぞり返った。
転生カミングアウトと共に、ネコを被るのもやめたらしい。
「こちらこそ、まさかマクスウェルが転生者だなどと思いもしなかったよ。その上この世界が乙女ゲームの世界だの何だのと言われても、とても信じられなかったのだが……、私しか知らないだろう過去の生の内容を、何故かマクスウェルは知っているのだ。信じない訳にもいかない」
二人の話を聞いて、僕は大きく胸を撫で下ろす。
ああ、良かった。
この二人が協力すればきっと大丈夫だ。
もう、僕みたいな小物の出番は終わり。
これからは、地味で平凡だけど堅実で無難な、僕の望む学園生活が始まるんだ!
ようこそ普通!!
グッバイ、気まぐれミステリー!!
僕は、これが最後になるかもしれないな、と思いながら今日のランチ、『シェフの気まぐれパスタ〜明日への想いをエビに変えて〜』をしっかり味わう。
レイやマックスと一緒じゃないとシェフの気まぐれ料理を食べられなくなるのは残念だけど、背に腹は変えられない。
いつか自力で出世して、可愛い弟達に王都で美味しいものをお腹いっぱい食べさせてあげたい。
その為にも、雑念は捨ててますます勉学に
……本当は。
昨日ヴィオレッタ様と話をして、この人がそんな悲惨な目に遭うのは嫌だなと思ってしまった。
シナリオを変える為とはいえ、マックスと敵対する事になるのは嫌だなと思ってしまった。
レイが未来を変える為だけに僕といるのなら……嫌だなと、思ってしまった。
もう潮時だ。
どう考えても深入りし過ぎた。
この人達は本来僕とは住む世界がちがうんだから、手遅れにならない内に自分から離れないと——
自分でも気が付かない内にそんな暗い思考に囚われていたそんな時。
目の前に、逆さまの金髪美形の顔がぶら下がった。
「うぅぅわぁおぎゃあぁあ!?」
「パット!?」
「リック!!」
自分でも訳の分からない凄い叫び声を上げて、椅子から転げ落ちる。
いやだって! 顔! 顔!!
なんか人がちょっとアンニュイな気持ちに浸ってたのに、現実への引き戻し方が斬新過ぎるだろ!!??
『キミ、私の姿が見えるのかい……?』
…………。
ああぁぁぁあー、コレ絶対、僕の出番終わらない奴だあぁぁ……。
お帰り、気まぐれミステリー。
お早いお戻りでしたね。
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