第34話 女主人公=聖女。さて、という事は男主人公は……?
ちょ、えぇー!? 何で!!?
「何があった、パット!? 大丈夫か!?」
「パトリック殿! 今の! 今の技何ですか!?」
心配するレイとギラギラしたダグラス様が迫って来る。
ひいぃぃぃー……!!
僕自身何が起こったのかさっぱりわからないし、何なら怖い。
「ま、マックスぅ……」
マックスなら僕の身に何が起きたかわかるのではないかと縋る様な思いで見たのだが、マックスはマックスで目の色を変えてデータを探りながらブツブツ言っている。
あー駄目だ。オタクスイッチ入ってる!
「パトリック殿! 今のもう一回! もう一回!!」
ギャー、こっちは脳筋スイッチ入ってる!
迫り来るダグラス様の恐怖から逃れようと咄嗟にマックスの影に隠れたら、マックスに肩をガシッと掴まれた。
「そうだな。リックもういっぺんだ」
あああぁぁぁーー……。
「何を言ってるんだ、二人とも! まずパットの身におかしな事がないか確認するのが先だろう!?」
「うるさい過保護プリンス。どう見てもリックはピンピンしてんだろうが! 検証が先だ!」
「何だと!? 見た目だけでは分からない異変があったらどうするつもりなんだ、このオタク眼鏡!!」
ああ、レイもマックスの事オタクだって思ってたんだ……って、今そんな事思ってる場合じゃないわ。
「ちょ、二人ともやめて! ダンジョンで騒ぐの御法度だから! 魔物が来るから!」
僕が止めても言い争いをやめない二人のせいで魔物がどんどん寄ってくるんだけど、その魔物を端からダグラス様が嬉々として倒していく。何このカオス。
「あー! もう!! いい加減にしてよ! 二人と……も!?」
僕がレイとマックスに大きめの声で叫んだまさにその瞬間。
突然グラリとダンジョンが揺れる。
—— 地震!?
と思ったのとほぼ同時に、僕の足元の床がガラリと崩れた。
「パトリック殿!!」
咄嗟に近くにいたダグラス様が僕の腕を掴んで引っ張ってくれたけど、床の崩壊は止まらず、ダグラス様の足元まで崩れていく。
「パット! ダグラス!!」
「嘘だろオイ!」
叫ぶレイとマックスの声を聞きながら、ダグラス様と二人、床の崩落に飲み込まれていく。
———— ガンッ
と、体中に衝撃を感じて地面に叩き付けられた。
あの状況と衝撃の割に体に感じる痛みが少ない事に疑問を感じながら、恐る恐る目を開ける。
「ダグラス様!?」
目の前には、苦痛に歪むダグラス様の顔。
—— そうだ。ダグラス様は落下する時に僕の腕を掴んでいた。
そのまま自分の身体で僕を庇って地面に叩き付けられたんだ!
「ダグラス様っ! すみません、僕を庇ったんですね!? 怪我は!?」
慌てて聞く僕に、ダグラス様はニッと笑って言う。
「これくらいどうって事は無い。鍛え方が違うからな。パトリック殿こそ、怪我など無いだろうか?」
嘘だ。
上を見れば天井は高く、ポッカリ空いた穴は暗くて奥までは見通せないけど、その分結構な高さを落ちてしまったのだという事がわかる。
いくらダグラス様が鍛えているからって、あの高さから僕を庇って落ちて無傷というのは考えにくい。
「僕は大丈夫です。でも、ダグラス様が……」
「それなら問題ない。私は大丈夫だと言っただろう。しかし、こんな大掛かりなトラップがあるダンジョンは初めてだ!」
トラップ……?
今までだって何度もあの道を通ったのだ。もちろん今までそんなトラップは無かった。
まさか、
何だか色々と考えてしまうけど、ダグラス様の体も心配だ。
とにかく今はここがどこか調べないと。
「ダグラス様、立てますか?」
「当たり前だろう。心配し過ぎだぞ? パトリック殿」
ダグラス様は涼しい顔をしてスタッと立ち上がると、悠々と歩いてみせる。
……が。
ともすれば意地を張りたがる弟という生き物を四人も面倒見て来た僕の『お兄ちゃんズEYE』は誤魔化されないぞ!
いつも驚く程姿勢が良くて重心がブレる事のないダグラス様の左肩が少しだけ下がっているし、歩く時上げる足も、右に比べて左がやや低い。
左半身に痛みがあるはずだ。
うん! 流石お兄ちゃんズEYE!!
……で?
気付いたところで僕にはアンジェの様な癒しの力がある訳でもなく。
結局は、何も出来ないのだ。
あーあ、同じ主人公でもオリジナルと追加コンテンツじゃやっぱり格が違うのかなぁ。
どうせ主人公だって言うなら、僕にも何か特別な力でもあればいいのに。
そんな事を考えながら周りの様子を窺うと、そこは明らかに今まで探索した事のあるダンジョンのフロアとは違っていた。
ダンジョンの奥に進むに連れて、自然のままの洞窟の様な場所が、段々人工物の様になっていくのは今まで通りなんだけど……。
ただ人工物っぽくなるのとは別格の、神殿や王宮に通じるような格調高い空間が、僕達が落ちた先には広がっていたのだ。
え? 何ここ? 明らかにただのダンジョンの一角では無いよね??
あまりにも嫌な予感がして、思わずここを進むのを諦めて壁をよじ登って穴の中へ戻ろうかとすら思ってしまったそんな時。僕の頭の中に激シブなイケボが響いてきた。
『よく来た、勇者の血を引きし者よ……』
…………。
あ、すみません。
さっきどうせ主人公なら云々かんぬん言ってた奴、全部嘘です。
いらない、いらないです。特別な力とか。
だからどうか……。
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