第33話 これは恐らく伝説の始まり
ハミング男爵領に到着して三日目。
僕たちは領地の外れにある目的のダンジョンの前に立っていた。
「おおっ、これが例のダンジョンですね! この威風堂々とした
目を
いや、そこで暮らす人間にとっては微塵も嬉しくない事なんですけどね、ソレ。
今日ダンジョンに入るのは、僕とレイとマックス、それにもちろんダグラス様だ。
これで万が一ダグラス様を置いて行くなんて言ったら、恐らく彼は内乱を起こす。
いや、マジで。
アンジェとヴィオレッタ様はお留守番だ。というか、本来なら僕達も王都からの旅の疲れを癒すべく、まだゆっくりしていたい所なんだけど……。
「さぁ、入りましょうパトリック殿! もう我慢出来ません。いいですか? 中に入っていいですか!?」
……ダグラス様がずっとこの調子なのだ。三日でも持った方かもしれない。
ダグラス様は普段はこんな人では無いのだが、どうも鍛錬だとか討伐だとか戦闘系の話になると、変なスイッチが入ってしまうようだ。
僕が苦笑いしていると、丁度隣にいたマックスが『脳筋……』と、ボソッと呟いた。
うん、これは否定できない。
これからはこのスイッチの事を『脳筋スイッチ』と呼ぼう。
まぁ、そんな事言ってるマックスも、王都を出て暫くしたら目の色を変えてデータ取り始めたんだけどね……。
なんでも、オリジナル版の時の冒険エリアにハミング男爵領方面は含まれていなかったらしくて、この辺りはマックスにとっても初めて知る場所なんだとか。
前世のマックスはデータを収集したりルート分岐の解析をしたりと、とにかく『極める』のが好きだったらしい。
そんな男の前に広大な『未到達エリア』が現れたのだ。こうなるのも無理はないのかもしれない。
昨日の夜も、新しいダンジョンのマッピングと、もしかしたら魔物図鑑も更新出来るかもしれないと遠足前の子供状態で大興奮していた。
言ったら怒るから言わないけど、ダンジョンを楽しみにしている具合は、実はダグラス様といい勝負だと思う。
「ダグラス殿、気持ちは分かるがハミング男爵領の魔物は平均的にレベルが高い。浮き足立っては危険だぞ?」
レイに
うん、助かった。ダグラス様なら大丈夫だとは思うけど、確かにこの浮き足立った状態は危ないもんね。
とはいえ、実はそういうレイも今日は随分と楽しそうなんだけど。
今日は……というか、ここのところ毎日か。男爵領へ向かう旅の道中も男爵領に着いてからも、レイは凄く楽しそうなのだ。
楽しそうというより、リラックスしてる感じ?
七回も死に戻った事で色々な人の色々な面を見過ぎたレイは、知り合いだらけの王都が息苦しい場所になってしまったのかもしれない。
例えば、一度自分を裏切った人間を、時間が巻き戻ったからまた信じられるかというと、正直それは難しいよね……。
まぁ、みんなが喜んでくれてるなら良かった、かな。
父様と母様にはちょっと申し訳なかったけど、みんなは他の高位貴族達みたいに高圧的じゃないし。
一緒に過ごしていく内に、きっと僕の友達として好きになってくれると思うんだ。
弟達はもう既に結構なついてるしね。
「さあ、じゃあ中に入りましょう! 今日はまず様子見なので、探索するのは一階層までです。いいですね?」
「ああ!」
「分かった」
「よっしゃあぁぁぁぁー!!」
……約一名脳みそが筋肉の方がいらっしゃる様だけど、まぁいいか……。
ダンジョンにも色々なタイプがあるけれど、男爵領にあるのは洞窟タイプだ。
一見すると普通の洞窟にも見えるのだが、奥へ行くほど人工物の様になっていく。
誰がいつ何の為に作ったのか、はたまた自然に出来たのか。ダンジョンについては未だ分からない事だらけだ。
「足元、暗いから気を付けて。ここの通路を抜けると明るくなるから」
みんなの先頭を歩きながら、ダンジョンの説明をする。
実は、このダンジョンには僕自身はもう何度も入った事がある。
あまり知られていない事だけど、低層階にいる魔物というのは、放っておくとダンジョンの外に出て来てしまうのだ。
ハミング男爵領では領主一族と領地の自警団で年に数回ダンジョンの魔物討伐を行っていて、僕も十二歳頃から参加していた。
今はさすがにその為に男爵領まで帰って来る事は出来ないから、一番上の弟のセドリックが代わりに頑張ってくれている。
正直、第一階層までなら僕でもソロで行って帰れるレベルなので、今日のパーティなら三階層までは余裕だと思う。
「前方から三体! 魔物が来るよ!」
「ゴブリンか、珍しい魔物ではないな」
「ここは、私に任せて下さい!」
魔物を見ても冷静に分析するマックスと、すかさず剣を構えるダグラス様。
三体のゴブリン位ではダグラス様の相手にはならなかった様で、ゴブリン達はあっという間に斬り伏せられた。
さすがの強さだ。
それからも時々魔物は出て来たけど、一階層にはゴブリンかスライムしか出て来ない。
正直余裕で、ダグラス様とレイで魔物をどんどん倒してしまうので僕に出番が回ってくる事はなかった。
「……あっという間に倒し過ぎてデータが取りずらいな。王都周りのダンジョンにいるゴブリンより全体的に強いがこれは……」
マックスは何やらブツブツ言いながら、以前使っていた小さな箱の様な魔導具を取り出して、ノート位の大きさの白いスクリーンに色々と書き込んでいく。
スクリーンの大きさって変えられるんだ。これなら狭い場所でも使いやすいし、ほんとに便利な魔導具だな。
そんな事をのんびり考えながら周囲に気を配っていると、ダグラス様やレイが戦っているのとは別方向から現れたスライムが、マックスに向かって飛びかかって来た。
「おっと、危ない!」
僕は腰の剣を抜くと、そのままの動きでスライムを斬ろうとした……んだけど。
ズバシャアァァン——!!
僕の剣に触れた瞬間、スライムが凄い音を立てて
「…………へ?」
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