第17話 僕の普通の学園生活

「薬草取り?」

「はい! 前にパトリック様も町の外に行ってみたいって言ってたので、一緒にどうかなって」


 ◇◇◇



 早いもので、ユーレイ王子の出会いイベントから数週間が過ぎた。


 僕は相変わらず、毎日普通の学園生活を送っている。



 朝からキラッキラの学園プリンスがファビュラスな馬車で迎えに来ても。

 

 学校へ着いてからはどこへ移動するにもエリート眼鏡がついて来ても。


 休み時間の度に隣の席のアイドル聖女が話しかけて来ても。


 安全だと思っていた授業中にさえユーレイ王子が突撃して来ても。←NEW!

 


 ……そう、最早こっちが僕のなのである。え、泣きたい。



 ちなみに、今もクリスフォード殿下は僕とアンジェの頭上をふわふわ飛んでいる。

 そして、いつも授業中は僕とアンジェの間に座っているていで、中腰になった姿勢で存在している。

 当然机も椅子もないので空気椅子みたいな感じになっていて、見た目相当シュールだ。


 今思えば最初に教室に現れた時注意すれば良かったのだが、

『こうしていると、まるでクラスの一員になれたかの様だよ! 幸せだなぁ』

と満面の笑顔で言われてしまい注意し辛かった。


 アンジェはアンジェで、『良かったですね!』とか言ってたし、凄いわこの子。


 さすがヒロインである。肝の座りっぷりがひと味もふた味も違う。



 で、そんなアンジェが今、僕に町の外へ出るお誘いをしてくれているという訳だ。


 え? クリスフォード殿下?

……いるよ、ほら、そこに(もはやホラー)



 ちなみに、確かに僕は以前町の外に出てみたいと言っていた。


 王都は都会で何でもあって凄いなとは思うのだが、僕みたいな田舎育ちはどうしても時々自然が恋しくなるのだ。



『珍しい薬草を見つけたらきちんと買い取って貰えるからお小遣い稼ぎにもなりますよ』少し声を落としてアンジェがそう囁く。


 う、正直それはかなり魅力的かも……。


 本当は僕も王都に出て来たらすぐバイトしようと思っていたのに、気が付けばもう半年近くが過ぎている。


 僕は特待生なので授業料と寮費は免除されてはいるが、授業で使う文房具や参考書、昼食代なんかはもちろん自腹だ。

 (ちなみに、朝食と夕食の費用は寮費に含まれている。ありがたやー)


 僕がこうしてバイトもしないで過ごせているのは、実は昼食代や学内でかかる費用がほぼ全てレイやマックス持ちになっているからなのだ。


 といっても、レイ達が僕の料金を直接負担しているかというと、ちょっと違う。


 なんと高位貴族の中でも一部の超上位層の方々は、学園内ではお金いらず。すなわちオールフリーなのだ。

 まぁ、その分凄い金額の寄付金を払っているって事なんだけどね。


 そしてレイもマックスもこの層に当たる。


 従って、彼らと行動していると僕もほぼお金がいらないのだ。

 なんという小判鮫ポジション。


『え!? 一緒にいる人間もお金かからないの!?』と最初は驚いたのだが、彼らくらい上位層の人間になると、側近や取り巻きを連れている事の方が普通なので、それが当たり前らしい。


 ならば何故レイもマックスも取り巻きを連れていないのかと不思議になって一度聞いてみた事がある。


 マックス曰く『マクスウェルはそういうキャラじゃないから』らしいが、レイは、実は最初の方の生では取り巻きを引き連れていたらしい。

 ただ、何というかその……。

 過去六回の生でヴィオレッタ様を助けようと奔走する中、裏切られたり手のひらを返されたり、色々あったそうだ。


『こんな事を言うと情けないんだがな、実は怖いんだ。向こうから近寄って来る人間が』


 そう言って無理に笑うレイが痛々しくて、僕は彼の過去の生についてあまり詳しく聞いた事がない。

 レイも、僕が聞けば答えてくれるけど、自分から話す事はあまりない。


 多分、その辺はマックスの方が詳しいと思う。前に二人で話した時、事実確認の為にお互い相当根掘り葉掘り聞きまくったそうなので……。

 高位貴族の腹の探り合い、怖すぎる。



 あの時は僕だけ話し合いに入れなくて何かちょっと悲しかったけど、今なら分かる。

 多分あれは、僕への気遣いだったのだ。




 さて、話は戻るけど、薬草採取かぁ。



 ……行ってみようかな?



 実家の男爵家に負担はこれ以上かけたくないし、これからもずっと小判鮫生活を続けていけるとも限らない。

 自分でお金を稼げる手段は持っておくべきだ。



「うん! ありがとうアンジェ、お願いするよ!」

 

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