第18話 バイトは出会いの定番です!? 脳筋騎士見習いダグラスとの出会い

「えーっと、あはは、お互い保護者付きみたいだね……」

「ごめんなさい、今日はお友達が一緒だからって断ったはずだったんですけど……」


 何とも歯切れの悪い会話をしながら、お互い苦笑いする僕とアンジェ。


 僕の隣にはレイが。

 アンジェの隣には見た事のない高身長の細マッチョイケメンが立っている。


 ……うん、聞かずとも分かるよ。

 初めまして、四人目の攻略対象者様。


 ◇◇◇



 週末。

 アンジェと待ち合わせをしていた町外れに向かう僕の後ろを、ファビュラスな馬車がゆっくりとついて来た。


 何という尾行に向かない馬車か。


 むしろ普段は町の注目なんて一切集めない僕が、凄い注目を浴びている。ヤメテ。


「レイモンド様、用事があるなら聞きますから出て来て下さい」


 馬車に向かってそう声をかけると、扉からぬっと手が出て来て中に引きずり込まれた。


 驚いて顔を上げると、何故か拗ねた顔をしたレイが、普段より大分ラフな……というか、まるで冒険者の様な服を着て僕を見下ろしていた。


「私も行く!!」

「なにを突然子供みたいな事言ってるんですか? 行くってどこに」

「薬草を採りにだ!」


 え、何でバレてるの? 怖ぁ!?


「……アンジェもいるんだよ?」

「望むところだ! あの女が本当に何も企んでいないのか、この目で確かめてやる」


 う、うーん?


 まぁアンジェなら『レイ様とご一緒出来るなんて嬉しいです♡』とか言いそうだし、大丈夫な気もするけど。


 普通に考えれば、誰かと約束をしている時に、相手に無断でいきなり別の人間を連れて行くのって結構無礼だと思うんだけど……。


「分かりました。でも、アンジェが嫌がったらすぐに帰ってね? 僕が先に約束したのはアンジェリカなんだから」

「ムグッ……わ、分かった」



 と、こんな感じでレイを連れて待ち合わせ場所まで来た訳だけど、アンジェの方も別の人間を連れて来ていたという訳だ。


 いや多分、どっちも付いてこられたって感じだな、これ。


「えーっと、あはは、お互い保護者付きみたいだね……」

「ごめんなさい、今日はお友達が一緒だからって断ったはずだったんですけど……。こちら、私の友人でボールドウィン伯爵家のご嫡男、ダグラス様です」


 アンジェから紹介を受けたダグラス様は、一歩前に出るとキチンと腰を折るお辞儀をして挨拶してくれた。

 何かもうそれだけでいい人っぽい。

 マックスはダグラス様の事を『脳筋』なんて言ってたけど、そんな風には見えないけどな?


「ダグラス・ボールドウィンだ。今日は不躾に同行を申し出て申し訳ない」

「パトリック・ハミングです。こちらも友人と一緒ですし、お気になさらないで下さい」


 こういう場合って、僕もレイを紹介すべきなの? と疑問に思ってレイを見上げると、視線に気付いたレイが自ら一歩前に出てくれた。


「久しいですね、ダグラス殿。アンジェリカ嬢も、突然同行を申し出てすまなかった。パットが町の外に出るのは初めてだというから、少し心配でね」


 爽やかスマイルで挨拶するレイモンド様はまさに学園プリンス。

 馬車の中で『私も行く!!』とゴネていた人間と同一人物とは思えない程の貴公子振りだ。


 レイとダグラス様は面識があったようだけど、まさかこんな所に公爵令息が現れるなんて微塵も思っていなかったであろうダグラス様は恐縮しきりだった。


 そんなダグラス様に、レイが『学校では身分は関係なく、パトリックともアンジェリカとも学友だからダグラスにも同じ様に接して欲しい』と話し、やっと少し打ち解けた雰囲気になる。


 うん、今日はこの四人で行動する訳だからね。変にギクシャクはしたくない。


 何となく和やかな空気になった所で、装備や今日行く採取場所の確認を始める事にした。何だか冒険するぞ!って感じで少しワクワクする。


 レイとダグラス様は実戦でも十分使える立派な剣を腰に挿しているし、アンジェは短剣と魔導士用のローブを装備していた。


 僕は学校の授業で使う練習用の剣しか持ってないから今日もそれを持って来ただけなんだけど……王都の周りの魔物くらいなら、これでも十分だと思う。



 準備が整ったところで、いよいよ町の外へ出発だ。


 王都は、王城だけでなくその周囲の町を含む都市全体が頑丈な城壁に囲まれていて、外敵の侵入から守られている。

 町から出る時は、出入り口を守る騎士に許可証を見せて扉を通して貰うのだ。


「こんにちは! また薬草を取りに行くので通して頂けますか?」


 許可証を持ったアンジェが、扉の前の騎士に声をかける。既に顔見知りの様だ。


「ああ、ダグラスも一緒なら問題無いと思うけど、気を付けて行くんだよ?」


 許可証を確認して、気さくにアンジェと会話していた騎士が、こちらを見てギョッとした顔をする。


「レ、レイモンド様!? 町の外へ行かれるのですか? 護衛の者は!?」


 あ、やっぱりこういう感じになるんだ。


 あまりにも普通にレイが僕と一緒にいるから、学園では周囲も感覚がマヒし始めているけど、レイモンド様は公爵家のご嫡男なのだ。


 ホイホイと町の外に出ていい様な人ではない。


 さっきのダグラス様の態度といい、今のこの騎士の反応といい、やっぱり学園の外に出るとレイとの立場の違いを突き付けられる様な気持ちになる。


 僕はもう慣れたし、初めからこうなるのは分かってた……というか、自分でもそう思ってるから別に今更傷付かない。


 でも、レイが悲しそうにしているのは嫌だ。


 いつものお貴族様スマイルの眉尻が少しだけ下がっている、そんな時は。


 レイが悲しいのや寂しいのを我慢している時なんだって、気付いてしまったから。




「ああ、今日は学友と一緒だから護衛は付けていないんだ。家の許可はとってあるし、遠くへは行かないから大丈夫だよ」



 少し眉尻の下がった笑顔のレイがそう言ったのを聞くと、騎士は慌てて扉を開いてビシッと敬礼をした。


「いってらっしゃいませ!!」




 …………。


 僕は駆け出して、一番に扉を抜けると振り向いて大きな声でこう言った。



「早く行こう! レイ!!」



 騎士が凄く驚いた顔で見てたけど、もういいや。



 これからは人前でもこう呼ぶよ、レイ。



 —— せめて、レイが卒業しちゃうまでは。


 

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