第19話 人の恋路を邪魔する奴のところには、何かが跳ね返ってくる様です

「うわっ、凄い! 薬草ってこんなに沢山群生してるものなんだ!?」

「ふふふ、ここはとっておきの穴場なんです! レイ様もパトリック様も、ここの事はな・い・しょ・ですよ?」


 人差し指を唇にあててシーッと可愛く内緒ポーズをとるアンジェに、レイはヒクッと引き攣り、ダグラス様はポッと赤くなる。



 うーん、リアクションの対比が面白い。


 おっと、そんなことより、薬草お宝薬草お宝



 珍しい薬草は買い取って貰える訳だから、ここはまさに宝の山だ。



「見てアンジェ! この薬草、町で高く売ってる奴じゃない!?」

「甘いですね、パトリック様! 引き取り価格の段階では、こっちの薬草の方が高く売れるんです!」

「そうなの!?」


 久しぶりの自然溢れる空気の中。薬草を採取するのは想像以上に楽しくて、僕はどんどん薬草探しに夢中になっていた。


 アンジェと二人、出来るだけ高く売れる薬草を探してキャッキャとはしゃぐ。



「……もの凄く、楽しそうだな」

「そうですね」

「その、アンジェリカ嬢は、いつもあんな感じなのか?」

「アンジェですか? ええ、今日も普段と変わらず可憐ですね」



 近くで話してるレイとダグラス様の声が耳に入って来るんだけど……。


 これダグラス様、絶対既にアンジェに気があるよね!?


 にわかに振って湧いた恋バナに、不謹慎にもワクワクしてしまう。だってお年頃だし。

 


 ……って、駄目じゃん!!


 少し前にマックスに言われた言葉が甦る。



『攻略対象者との好感度は、低過ぎるのはもちろん、高過ぎても駄目なんだ。誰かとの好感度を上げ過ぎると、そのキャラクターとの恋愛ルートに突入するからな』


 ツーッと、嫌な汗が背中を流れる。


 そうだよ、エターナルトゥルーエンドを目指すなら、アンジェとダグラス様に恋愛ルートに入られると困るんだった!



『恋愛ルートに関しては、特に脳筋には要注意だなー』

『え? 何で?』

『あいつ、めちゃくちゃチョロいんだよ。凄いですー、とか、格好良いですーとか言われたら、秒で落ちる』

『それ、アンジェが息を吸う様に使う言葉だよね』

『『…………』』



 あああああ、どうしよう!?

 いや、待て。

 まだダグラス様がアンジェ好きって決まった訳じゃないし!

 


「? どうしたんですか、パトリック様?」


 さっきまでキャッキャ言いながら薬草を摘んでいた僕が急にスンッとなったので、アンジェが不思議そうに聞いてくる。


「あ、いや、ふとアンジェとダグラス様って、出会ってからそう時間も経ってないのに仲良いよなーって思って」

「ダグですか?」



 もう『ダグ』って愛称で呼んでるー!

 伯爵令息を呼び捨てにしてるー!

 この子、距離の詰め方エグい!!



 キョトンと首を傾げるアンジェ。


 え、天然? それとも剛の者ごうのもの? どっち?


 レイはレイで凄い疑いの眼差しでアンジェを見てるし……。

 お前らその好感度足して2で割れ!!


 

 僕が一人で苦悩していた丁度その時、死角になっていた藪がガサリと揺れる。


 ハッと気付いた時には、一羽のホーンラビットがアンジェ目掛けて飛びかかっていた。



「きゃっ!?」

「危ない! アンジェ!!」



 素早く腰の剣を抜き、アンジェを狙ってガラ空きだったホーンラビットのボディにその剣身を叩き込む。

 練習用の剣は斬れない様に出来ているので、打撃を与えるつもりで使うのが実戦の上では正解だ。



「大丈夫か、パット!?」

「アンジェ!!」



 一瞬の事で出遅れたレイとダグラス様が慌てて駆け寄って来た。

 


「すっごいです!! パトリック様って強かったんですね!!」



 アンジェが目をキラキラさせて僕を見上げてくる。


 さては君、そうやってダグラス様をコロリと落としましたね?



「ホーンラビット位で大袈裟だよ」


 僕が苦笑いしながら答えると、何故かレイとダグラス様がグイグイと来た。



「いや、今のは見事だった!!」

「見かけない型だったが、パトリック殿は剣技はどこで学んだんだ!?」



 ちょ、えっ、圧が凄い!!


 もしかして、都会の貴族ってあまり実戦経験無いの? 僕、なんかマズい事した?



「いや、特に剣技を学んだとか、そんな大層な物では無いんです。領地が田舎なので、普通に実地訓練を積んだというか……」

「成る程! 実戦!!」


 クワッと目を見開き迫ってくるダグラス様。その目が獲物でも見つけたかの様にギラギラしててめちゃ怖い。

 ホーンラビットの百倍くらい怖い。



「ぱ、パトリック殿、良ければ是非私と手合わせを……!」

 

 腰の剣に手を当てながら、ジリジリとダグラス様が迫って来る。



 待て待て待て待て、騎士見習い!!

 君が持っているのは本物の剣だろう!?



 完全に逃げ腰になっている僕とダグラス様の間に、レイがサッと割って入った。


「落ち着け、ダグラス殿。パットの剣と其方の剣では勝負にならない」

「うぐっ、た、確かに……」


 我に返ったダグラス様は、大袈裟な程に肩を落としてショボンとしている。

 

「こんな事なら、私も今日は木剣にすれば良かった……」



 いやいや、僕のことなんか気にせずに、その剣でアンジェに良いとこ見せてやって下さいよ、ダグラス様!!


 ……って、それも駄目か! フラグとやらが立っちゃう!


 僕がレイの後ろに隠れてうーん? と頭を捻っていると、ダグラス様がガバッと顔を上げた。



「じゃあ、明日! 明日のご予定は如何か、パトリック殿!?」




 —— あ、これ多分。やっちゃったわ。

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