第25話 アンジェリカの秘密

「な、なんと! 学年末試験、学年三位だよ、三位!!」

「私は五位です! やりましたね! パトリック様!」


 アンジェと二人、ハイタッチする勢いで喜び合う。

 自分の成績が上がったのも勿論の事ながら、アンジェの成績が伸びてくれたのはエターナルトゥルーエンドを目指す者的にも非常に喜ばしい。



 ああ、それにしてもこの一年、我ながら本当によく頑張った!


 公爵令息に付き纏われたり、侯爵令息に付き纏われたり、王子の幽霊に付き纏われたり、伯爵令息に付き纏われたり。



 …………。


 付き纏われてばっかりだな、僕。



 いや、誘拐もされたな!!


 …………。


 むしろ最悪だな。



 いやでも、それも今日報われたよね!?


 感情の浮き沈みが多少激しいが、だがしかしそれも仕方ない。だって、このエーデルシュタイン学園で学年五位以内をキープ出来れば、将来は約束されたも同然なのだ。


 弟達よ! 兄様はやったぞ!



「それにしても、三位だなんて凄いですね。パトリック様、流石です!」

「いや、アンジェの方こそ凄いよ。貴族教育も受けて無かったのに、転校して来て五位なんてさ!」

「私の場合、伊達に人生二回目じゃありませんからね!」

「そっかー、人生二回目! …………へ?」



 学園の中庭の東屋。



 一緒に勉強を頑張っていた者同士お互いの成績を報告しようとアンジェに誘われ、三位に浮かれていた僕は疑う事なくヒョコヒョコ付いていって、衝撃発言をかまされた。



「は? え? 人生二回目!? って事はもしかして、アンジェも転生者なの!?」


「アンジェって事は、やっぱりいるんですね、転生者♡」


 首を傾げたアンジェが、可愛らしくにっこりと微笑む。



 や、やられたーーーー!!



 ◇◇◇



「で、いるんですよね? 転生者」

「そ、その件に関しては……黙秘権を行使したく…………」


 向かい合わせに座るアンジェから目を逸らし、肩を丸めて小さくなる僕。

 自分の事ならともかく、人の事を勝手に話す訳にはいかない。


「人の事、勝手に話す訳にいかないって思ってます?」


 エスパー!?

 いや、もしかして見逃してくれるのか!?

 さすが聖女!


 僕は顔を上げるとコクコク頷く。


「って事は、パトリック様ではないんですね? まぁ元々、レイ様かマックス様のどっちかかなーとは思ってたんですけど」


 ギャーー!?


 駄目だ。喋れば喋る程ドツボにハマる気がする……。


「そっかー、いいなぁ転生者! 異世界の知識持ちとか強いよねー。手当てとかも色々あるしさ!」


 持参していたパックのジュースをチューッと飲みながらアンジェが言う。


 ……アンジェさん、なんかいつもと雰囲気違いません?


「いいなぁ、って事は、アンジェは転生者じゃないの? 僕を引っ掛けるために嘘ついたって事?」


 思わずジトっとした目でアンジェを見て、責める様な口振りになってしまう。


「転生者ではないですけど、嘘なんてついてないですよ、人聞きの悪い。私、勘違いさせる様な言い方はしますけど、嘘はつかない主義なんです」


 なんか、やっぱりいつものアンジェと雰囲気が違う。


「人生二回目は本当ですよ。私はただの『前世持ち』ですけどね」


 前世持ち!!


 前世持ちというのは、その名の通り前世を持っている者、すなわち『前世の記憶がある者』の事を言う。

 転生者と違うのは、転生者が異世界の前世の記憶を持っているのに対し、『前世持ち』が持っているのは、あくまで『この世界の前世の記憶』だという事だ。



「えっと、それはアンジェにはこの世界での前世の記憶があるという……?」

「そうよ?」

「え、えっと……なんで急に、それを僕に?」


 アンジェは机の上に肘を付くと指を組み、その上に顎を乗せると可愛く微笑んでこう言った。


「パトリック様なら、信用出来そうだなって思ったんです♡」

「……本当は?」

「もうー、だから私は嘘はつかないですって! パトリック様と本当の意味でお友達になりたいなぁーって、思ったんですよ?」



 アンジェは底がしれないとは思っていた。でも、正直悪い人間だとも思ってはいない。


 レイが言っていた、彼の前の生の時の聖女の様に、人をたらしこんで利用する人間にも見えない。



「僕と友達に? 僕はとっくにアンジェとは友達のつもりだったんだけど」

「んー、そういう所ですねぇ。何かパトリック様って、人の懐に入り込むのが異常に上手いんですよ。天然なのか計算なのか見極めが難しかったんですけど、これは天然だなって。一応、パトリック様が転生者の可能性も考えてはいたので、ちょっとカマかけちゃいましたけどね!」


 それに見事に僕は引っかかっちゃったわけだね……。


 うう、せっかくいい成績とったのに、王都の貴族相手に上手く立ち回れる気がしなくなって来た。


「元気出して下さい、パトリック様! 簡単に言えば、私も本音で話せる友達が欲しかったってだけなんですよ」

「それが、何で僕?」

「だって公爵令息や侯爵令息にこんなに気に入られてて、その癖こんなに扱い易くて便利な性格なんて、私にとってもサイッコーの手札お友達じゃないですか♡」


 アンジェの本音が結構エグい!!


「まぁ、一応私も聖女ですし? 前世の人生経験がある分、色々知恵も回りますし? 友達になっておいても損はさせませんよー!」


 エヘン、と胸を張るアンジェ。

 駄目だ、予想外の展開過ぎて頭がクラクラしてきた。


「ち、ちなみにこの事をレイやマックスに相談するのは……?」

「全然構いませんよ! ただその場合……『秘密を明かすのはお互い』じゃないと、フェアじゃないですよね?」


 うぐっっっ! え、どうするコレ!?


「私の秘密を知ってるのはパトリック様だけなわけですから。これからもますますよろしくお願いしますね! パトリック様♡」





『……いや、私も聞いてしまったが?』



 突然頭上から声が聞こえて、アンジェと二人、バッと空を見上げる。



『運命の女神の紡ぎ合わせが悪戯過ぎて……いや、なんか……すまない。代わりに、私の大いなる魅力という名の秘密について明かそ

「あ、結構です」


 珍しく素直に謝る心底気まずそうなクリスフォード殿下の話をスパーンッと遮るアンジェ。



 あ、これ多分。


 本性バレた相手の前では、猫被らなくなるタイプの人だわ。

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