第24話 ヒロインアンジェのイベント攻略

 僕が退院して学園に復帰する日。

 

 いつも通りレイが迎えに来てくれて登校すると、学園は今までと何も変わってなくて、ざわついた雰囲気すらなかった。


 レイやマックスによれば、流石に事件翌日やその次の日くらいは学園内も騒然とした空気でみんな落ち着かない様子だったらしいけれど、すぐに鎮静化したそうだ。



 僕のクラスから席が三つ減っていて、間接的にだけど僕に気遣いの言葉をかけてくれるクラスメイトが何人かいて。

 本当に、ただそれだけだった。


 あれだけの事件があって人間が三人もいなくなったのに、まるで何も無かったかの様に普通に戻っているのは何だか薄ら寒く感じたけど、そう感じた僕もまた、普通に戻っていくのだろう。



「パトリック様、退院おめでとうございます! お隣がいなくて、アンジェ寂しかったですぅ」


 うん、アンジェも元気そうで何よりだ。


 でもアンジェ、君の隣には半透明で空気椅子のイケメンがいるよ?



「やぁリック、無事に登校出来て良かったよ。何か困った事があれば声をかけてくれ」


 うん、マックスも教室ではマクスウェルモードだ。通常運転、通常運転。



 今日は僕の復帰祝いという事で、アンジェも誘って一緒にいつもの個室でランチをすることにした。

 久しぶりのシェフの気まぐれメニューが楽しみだ。


「どうだパット、久しぶりの学園だが、何か困った事はなかったか?」

「大丈夫だよ。元々アンジェのお陰で怪我はもう治ってたし。凄いよね、聖女の力って」


 僕がそう言うと、アンジェがちょっと照れた様に笑う。アンジェはここの個室に来るのが初めてだから、それにも少し緊張しているみたいだ。


 うん、わかるよその気持ち。

 メニューに値段書いてないのも怖いよね。


 でもこれ、今にして思えば本当にお金がいらないから書いてなかっただけなんだよね……。時価的な意味なんだと思って、無駄にビクビクしちゃってたよ。


「私の聖女の力はまだまだで……。今も色々特訓中なんです!」

 

 うんうん、頑張ってレベル上げて貰わないといけないからね。

 さぁ、シェフの気まぐれ料理お食べ。


「そうなんだね、聖女の力を強める訓練というのは、やはり教会でするのかい?」


 今日はアンジェがいるから、個室でもマックスがマクスウェルモードだ。


 ……この前、誘拐された僕を助けに来てくれた時に大分マックスの素が出ちゃってた気がするんだけど、あれ大丈夫だったのかな?


「はい! あ、でも近々、王城でもお勉強する事があるみたいです。私、お城なんて初めてなんで緊張しちゃって」


「「「!!」」」


 思わず、レイとマックスと三人で目を見合わせる。


 これは、アンジェが順調に『共通パート』と呼ばれるシナリオをこなしている証拠だ。聖女としてのレベル上げも順調なのだろう。

 

 一人着々とイベントをこなしてシナリオを進めているとは、アンジェ、ヒロインとして有能過ぎる。



「そうか……。アンジェリカ嬢は、その、王太子殿下とお会いした事はあるのかい?」


 ! レイ、結構思いきって切り込んだな。


 王太子殿下は、内定状態とはいえヴィオレッタ様の婚約者なのにも関わらず、隠し攻略者なんだもん。そりゃ気になるよね……。


 とはいえ、エターナルトゥルーエンドを目指す以上は王太子殿下にもご登場頂かなければいけない訳で、そこの所の匙加減が非常に難しい。


「王太子殿下ですか? まだお会いした事ないですね。国王陛下と王妃殿下には聖女の力が発現した時に謁見したのでお会いした事があるんですが……」

「そうか」


 なるほど。ちょっとほっとした様な気もするけど、これが喜んでいい事なのか、残念がった方がいい事なのかわからないな。


「後は、第三王子殿下とならお会いした事ありますよ! 第二王子殿下とはまだないですね」


 いやアンジェ、実は第二王子殿下とはもう何回も会ってるよ。

 何なら今日も君の隣で空気椅子してたよ。



 ……そういえば、アンジェが王城へ通う様になったら、クリスフォード殿下とのシナリオも進むのではなかろうか?


 アンジェにくっ付いて王城へ行ったクリスフォード殿下が、そこで記憶の一部を取り戻す、みたいなイベントがあった気がする。


 ダグラス様もそうだけど、この二人に関しては、いつの間にか恋愛ルートに入られない様にも気を付けておかないと危ないだろうな。


 まさか、レイやマックスといきなりって事はないだろうし。


 ……ないよね?



 恋愛ルートに入られない様に気を付けて、しかもする事といえば人の恋路を邪魔する事な訳だから、精霊にでも蹴られてしまいそうだけど。


 学園を卒業してからなら全力で応援するので、今は少し待って欲しい。




 それからしばらくの間は大きな事件が起こる事もなく、平穏に日々が過ぎて行った。


 みんなで勉強したり、時には一緒に薬草を取りに行ったり、ダグラス様からの手合わせの申し込みをかわしつつ朝稽古には付き合ったり。



 王都にある、様々な領地から生徒が集まって来る様な大きな学校は、大体三月〜十二月が授業期間で、一月と二月は学年末の長期休みとなる所が多い。

 生徒達は、この長期休みの間にそれぞれの領地へ里帰りしたり、暖かい地方へバカンスに行ったりするのだ。


 もちろん、僕は領地へ帰る。

 だって可愛い弟達が待ってるからね!


 

 ただ、楽しい事の前には試練が付きもので。長期休み前の十二月、エーデルシュタイン学園では学年末試験という特大行事があるのだ。

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