第26話 季節外れの転校生は、鍵を握るまさかの転移者
「転校生? もうすぐ一年生も終わろうかという、こんな中途半端な時期に?」
昼休み。
いつもの様にレイとマックスと一緒にシェフのきまぐれなランチを頂いていると、突然マックスが『明日うちのクラスに転校生が来る』と言い出した。
「フム、今の時期に転校するくらいなら、少し時期をずらして新年度に合わせるのが普通だろう? 何か訳ありなのか?」
レイも不思議そうに首を傾げている。
それもそのはずだ。だって、来週末にはもう年度末の長期休みに入るのだ。
この時期にわざわざ転校して来るなんて、不自然としか言いようがない。
「ああ、俺もおかしな時期だとは思ったが、先生方から直接聞いたから間違いない。それで、その転校生ってのが『転移者』らしいんだよ」
「「転移者!?」」
ついこの前アンジェに衝撃的なカミングアウトをされてどうしたものかと悩んでいたのに、今度は転移者!?
特殊設定持ちの渋滞は、もう
ようやく待ちに待った長期休みだというのに、ややこしい予感しかしない。
ちなみに『転移者』というのは、これまた名前の通りで『異世界から転移して来た者』の事を言う。
生まれ代わりではなく、あくまで『転移』だ。従って、異世界で生きていた姿や記憶をほぼそのまま持っている事が多い。
余談だが、その時に身に付けていた衣服や手に持っていた荷物などは一緒に転移されて来るようで、異世界の資料として非常に重宝されている。
そして、転移者の場合は転生者と同じ様に『認定転移者』という制度があり、国に申請して転移者だと認められると『転移者手当て』が貰えたり様々な優遇措置が受けられたりする。やっぱり手厚いね!
まぁ、それだけ国は異世界の知識を欲しているという事なのだろう。
『前世持ち』にはそういった制度が一切無いので、アンジェがぼやきたくなる気持ちも分からないでもない。
『転生者』『転移者』『前世持ち』の三者は一つに纏められてしまう事も多いけど、こんな風に一つ一つ見ていくと実は結構違うのだ。
それにしても、転生者と転移者と前世持ちが一堂に会したクラスなんて、国内広しといえど、きっとうちのクラスくらいのものだろう。
それとも、実は僕が知らないだけで転生者や前世持ちって結構多かったりするのかな?
現に、マックスやアンジェが『そう』だと知っている人間はほとんどいないのだ。
だから国も、手当てを出したり優遇したりして、何とか名乗り出て貰おうと必死なのかもしれない。
「で、その転校生がうちのクラスに入るから、事前にクラス委員のマックスに話があったの?」
「ああ、ただの転校生ならともかく、『転移者』となればかなり状況は特殊だからな。一人でも事前に状況を知っている人間がいた方がいいと判断したんだろ」
転移者って事は転生者のマックスとは違って、見た目も異世界人って事だよね?
うわ、どんな感じなんだろう!?
ちょっとワクワクして来た僕と違って、レイもマックスも何だか凄く深刻な顔をしてるんだけど、何で?
「二人とも、どうかしたの? その転移者に何かあるの?」
僕がそう聞くと、マックスは顔を上げてゆっくり話を始めた。
「……いないんだよ」
「こっちもだ」
「へ?」
「乙女ゲームの、『プリラビ』の世界には、この時期に、しかも転移者なんて目立つ属性の転校生は来なかった」
「私の今までの生でも、こんな転校生が来た事はない」
それって何か状況が……
「……僕と同じって事?」
「いや、元々この世界に存在していたリックと違って、この転校生は突然転移して来た。いわば、この世界にとってはそもそも『異物』なんだ。そう考えればゲームに存在していなくてもおかしい話ではない」
「私の方も、リックがいてくれたお陰か、現時点で既に今までの六回の生とはかなり違う状況になっているんだ。そのせいで今までとは違う事が起こったと考えれば、これもまたおかしい話ではないのかもしれない」
結局のところ、現状では
『おかしいかおかしくないかも分からない』
という事か。
……これはお手上げだな。
「とりあえず、本人が転校してくるのを待つしかないか。まぁ、一応リックは身の回りに気を付けておけ。正直、お前は何にどういう形で巻き込まれるか全く想像がつかん」
それは多分、僕自身が一番そう思ってるよ、マックス……。
◇◇◇
「ども、
お、おお……?
何か、アンジェの上をいくめちゃくちゃフランクな自己紹介だったな。文化の違いか?
翌日、マックスが言っていた通り本当に転校生がやって来た。
制服もエーデルシュタインの制服じゃなくて、襟までカチッと詰まった少し軍服風の真っ黒な制服を着ている。
髪色も瞳の色も両方黒で、これもこちらの世界ではかなり珍しい。
やけにフランクな自己紹介と、この黒ずくめの姿のせいで異質感が凄いのだ。
うーん、顔立ちもかなり整ってる方だとは思うんだけどな。
最近、なにせ顔面偏差値の高いメンツに囲まれ過ぎているせいで、美形のゲシュタルト崩壊を起こしそうなのだ。
贅沢な話である。
「コホン。席は……、クラス委員の隣がいいか。すまんがその列は一つずつ後ろにずれてくれ。マクスウェル君、よろしく頼んだよ」
「はい。セオ殿、どうぞよろしく」
どうもマックスが転校生のお世話係を任されるっぽいな。
うん、頑張れクラス委員!
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