第39話 聖女と悪役令嬢は、プリティでつよつよな最強タッグ!?
「やぁ、君がハミング男爵令息だね。王家を代表して迎えに来たよ」
「はっ、はひっ!?」
(『いずれ出会わなければいけない』とか、昨日覚悟したばっかりの対象が、翌朝迎えに来るとか聞いてないよーー!?)
◇◇◇
王都手前の町で一泊し、いよいよ今日は登城するぞ! と気合いを入れて顔を洗って身支度を整えていると、宿の外が異常なまでに騒がしい事に気が付いた。
……お祭り?
なんて呑気な事を考えていると、あまり見た事がないほど慌てたマックスが僕の部屋に飛び込んで来た。
「やられた! 先手を打たれた、王太子だ!!」
へ? え? まさか、この騒ぎは……?
マックスに付いて慌てて宿を飛び出すと、既に周りには人だかりが出来ていて、その中心部にやたら煌びやかな人間が二人立っていた。
一人はレイ。そしてもう一人が……
「やぁ、君がハミング男爵令息だね。王家を代表して迎えに来たよ」
「はっ、はひっ!?」
ロイヤル!!
何とも陳腐な感想だが、もうロイヤルという言葉しか出て来ない高貴さを漂わせるサラサラ金髪の美形が、穏やかな笑顔で立っていた。
「ごめんね、突然来て驚かせてしまったみたいだ。私は、エセルバート。この国の第一王子だよ」
……やっぱり!?
『いずれ出会わなければいけない』とか、昨日覚悟したばっかりの対象が、翌朝迎えに来るとか聞いてないよーー!?
「とんでもございません、パトリック・ハミングでございます!」
膝をつく正式な礼をした方が良いのか!?と思いつつも、とりあえず出来る限り深く頭を下げる。
「大丈夫だよ、頭を上げて。さっきも言ったけど、私は君を迎えに来たんだ。そんなに緊張しないで?」
ニッコリと微笑むエセルバート殿下はどことなくクリスフォード殿下にも似ていて、その穏やかな雰囲気に腹黒さなど微塵も感じない。
あれ? やっぱりアンジェの時みたいに、聞いてたのと違うパターン??
エセルバート殿下は既に準備の整っている僕を見ると、満足気に頷いてこう言った。
「うん、もう準備も出来てるみたいだし、早速だけど王城へ案内してもいいかな? 私の馬車に乗って貰えると嬉しいんだけど」
え、もう? しかも僕だけ?
穏やかな割に有無を言わせぬその雰囲気に少し戸惑って後ずさると、すかさずレイが割って入って来た。
「殿下、先程も申し上げましたが、パトリックには私達が同行して午後に登城すると、昨日先触れも出したはずです」
「うん、それを見て王家なりに礼を尽くして私が迎えに来たのだけど、何か不服だったかな?」
「!!」
そう言われてしまえば、不服だなどと言える訳がない。
あれ? これやっぱりちょっと……。
「殿下、パトリックは初めての登城で緊張しております。せめて学友として、付き添いをさせて頂く訳には参りませんか?」
「パトリック殿が聖剣を抜いた場に私も立ち会っておりました。何かお役に立つ話が出来るやもしれません」
マックスとダグラス様も僕の隣に並び立つ。これはつまり、僕だけが連れて行かれる状況は望ましくないって、みんなも思ってるって事だよね……?
え、怖いんですけど。
「ははっ、何だか随分警戒されてるね? 大丈夫だよ、私もパトリック殿とは歳も近いし友人になれれば嬉しいと思っている。緊張をほぐす話相手にはなれると思うんだが、僕じゃ力不足と言いたいのかな?」
ピシッと空気が張り詰める。
これは駄目だ。
素直に僕が付いて行くしかない。
「みんな、大丈夫だよ。僕一人で……
「あれぇー? エセルバート殿下じゃありませんかー!」
観念して僕が進み出た所で、微妙な空気をかき消す明るい声が背後から聞こえて来た。
アンジェ……と、ヴィオレッタ様!!
「殿下、お久しぶりでございますわ」
ヴィオレッタ様が綺麗なカーテシーを見せ、殿下に挨拶をする。
「あ、ああ。久しいね、ヴィオレッタ嬢。元気そうで何よりだ」
殿下がヴィオレッタ様に挨拶を返すと、すかさずアンジェが追撃を繰り出す。
「殿下、まさか私とヴィーがいるのを知ってて、顔も見ずに行ってしまうおつもりだったんですか? アンジェ、悲しいですぅ」
明らかに僕だけ連れてすぐにその場を立ち去ろうとしていた殿下の顔に焦りが見える。
アンジェが強い。
「まぁ! 私達お邪魔でしたか? 殿下?」
ヴィオレッタ様も追撃の手を緩めない。
あれ? これ、
「まさか。大切な婚約者候補と聖女候補を無視するなんて有り得ないよ。ハ、ハハ……」
「それなら良かったですわ! 私もこの後王城へご挨拶へ行くのを楽しみにしていたのです。ご一緒させて頂いても?」
「あ、アンジェも行きたいです! 側妃様にもお土産買って来たんですよー」
僕を挟む様に両側に立ち、ニッコリ微笑む二人の美少女。
「……もちろんだよ。一緒に行こう」
女子、つえぇ。
こうして僕はアンジェとヴィオレッタ様と共に王家の馬車に案内されたんだけど……。
え、何コレ? 馬車だよね!?
公爵家や侯爵家の素晴らしく豪華な馬車に見慣れた僕は、ちょっとやそっとじゃもう驚かない自信があったのだが、目の前に停まる馬車は、今までの馬車とは一線を画したとんでもなくスペクタキュラーな馬車だった。
とにかくデカい!! そして豪奢!!
中に入ると、ソファの様な座席に、小さなテーブルまで付いている。まるで応接室だ。
恐縮しきった僕が馬車の端っこに縮こまって座ると、窓から心配そうにこちらを見るレイと目があった。
レイ……。
何とも言えない気持ちでお互いを見ていると、向かいに座るヴィオレッタ様が窓の外に向かってスッと親指を立てた。
サムズアップするご令嬢なんて初めて見たよ!? これ絶対アンジェの影響でしょ!?
僕がポカンと見つめていると、ヴィオレッタ様はポッと顔を赤らめて、しずしずと手を下ろす。
こうして僕らを乗せた王家のスペクタキュラーな馬車は、呆気にとられるレイをその場に残して走り去ったのだった。
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