第40話 勇者パトリック、認定!(尚、本人は涙目)
「おおっこの聖剣の輝き!! 間違いない、この者こそ伝説の勇者じゃ!!」
早っ!!
あの後、スペクタキュラーな馬車でつつがなく王城まで運ばれた僕は、驚く程スムーズに謁見の間に通された。
そして、あれよあれよという間に国王陛下に謁見し、
その奥の謎の魔法陣が描かれた小部屋に連れ込まれ、
言われるがままに聖剣を掲げると、魔法陣がそれはそれは神々しくペカーッ! と光を放ち、
……めちゃくちゃスムーズに勇者に認定された。←イマココ
何かもう流れ作業の様に気付けば勇者にされていて、いっそ嵌められた感が半端ないのだが、その間も当然の様に王太子殿下はピッタリと僕の隣にいた。……逃げないよ?
聖女に認定される為には色んな条件やら試練やらクリアしないといけないはずなのに、何故に勇者はむしろ『逃すものか』とばかりに囲い込んで来るのか。
冷静に理由を考えると普通に怖い。
「さて勇者パトリックよ。早速だが、君には勇者として引き受けて貰いたい任務がある」
ほら来た!?
正直、こちらの意思をのっけから無視したこの展開に不満しかないのだが、もちろん僕に断るという選択肢はない。
「勇者の誕生は喜ばしい事ではあるが、それは同時に倒すべき脅威の復活が近いという意味でもある。幸い、今代の聖女候補も揃っておる事だし、二人には魔王の復活阻止の為に是非力を貸して欲しいのだ」
一介の学生にムチャ振りが過ぎるだろ!?
何とか声を出すのは堪えたけど、『ヒョッ』と喉から変な音が出てしまった。
いかんいかん、陛下の御前だぞ。
「陛下、そう仰いますが具体的に私達は何をすればいいんですか?」
僕がグッと喉と気持ちを引き締めている横で、アンジェが可愛らしく首を傾げながら国王陛下に質問する。
すんごい
いっそアンジェが勇者の方が納得するわ!
「うむ、実は最近各地で魔物が活発化しているという報告が届いていてな。勇者と聖女候補にはその討伐と浄化に向かって貰いたい」
学生! 僕たち学生です!!
「学園はどうするのですか?」
「もちろん、学業に影響の無い範囲で構わない。月に一度、王都から二、三日で往復出来る程度ならよかろう」
影響するわ!!
こちとらレイみたいに、
『もう七回目だからね、正直試験問題も暗記してるよ』
なーんて死に戻りアドバンテージも、
マックスみたいに、
『異世界の義務教育の方が進んでたから勉強系は楽勝だわ。歴史や語学? ガキの頃にもう覚えた』
とかいう異世界知識無双もないんですよ!
毎日毎日、地味に予習復習して成績キープしてるんだよおぉぉー。
と、嘆いた所で、もちろん僕の方に断る権利など(以下略)
「あの、せめて学園を休まないといけない時の救済措置とかがあると非常に有難いのですが……」
アンジェに
「勿論じゃ。勇者活動に関わるあらゆる便宜を図るように学園に通達しておこう」
勇者活動……。
何かもう、課外活動みたいに言うじゃん。
いっそ、奉仕活動みたいに成績にプラスされないかなぁ?
「陛下、お話は終わりましたか? 私も勇者様に是非ご挨拶させて頂きたいわ」
ちょうど話がひと段落ついたかな? というタイミングで、扉から圧倒的なオーラを放つゴージャスな美女が現れた。
本来ならその人物に目が釘付けになってもおかしくない程の美貌とオーラと、……その、ちょっとセクシーなお衣装なのだが、僕はそんな事より彼女の斜め後ろの空中の方に目が釘付けだった。
だってそこには、久しく会っていなかった僕の……あれ、僕の何だ?
知り合い? 友達? ……ストーカー??
まぁとにかく、そこには、僕とアンジェを見つけて満面の笑顔で手を振るクリスフォード殿下の姿があったのだ。
良かった! 殿下元気そう!
殿下と顔を合わせるのは、『自分の因縁に決着を付けに行く』と殿下が言っていたあの日以来だ。
僕が領地へ帰っていたせいもあって、もう二ヶ月近くも姿を見ていなかった。
殿下は、僕とアンジェに向かって必死にアイコンタクトとジェスチャーで何かを伝えてこようとしてるんだけど、どうせ殿下の声は僕とアンジェにしか聞こえないんだから、普通に喋ればいいじゃん……。
しかも、何かアンジェには通じてるらしく、真剣な顔をして頷いているし。
「……なの。いいかしら?」
はっ!!
しまった、僕が殿下のヘンテコジェスチャーに釘付けになっていた間に、先程の迫力美女が何か言っていたらしい。
「あ、えっと……」
何と言われたのかも分からず、思わず口ごもっていると、アンジェにそっと小声でこう言われた。
『パトリック様はこのままお茶に付き合って、側妃様と王太子殿下の気を引いておいて下さい。……わたし、その間に調べたい事があるんです』
クリスフォード殿下も、僕に向かってしっかりと頷く。
なるほど、殿下絡みか……。
というか、この人が側妃様だったのか。
つまり、この人が王太子殿下の母親で、クリスフォード殿下を亡き者にしよう裏で手を引いていた人物、という訳だ。
え、怖いんですけど……?
一刻も早く帰りたいけど、側妃様にお茶に誘われて断れるはずがないし、クリスフォード殿下とアンジェの方も気になる。
よし! 腹を括ってお茶くらいなら付き合おう!
僕が緊張しながらも首を縦に振ると、側妃様は満足気な笑顔を見せた。
「ではこちらへどうぞ。サロンにお茶とお菓子の用意をしてあるのよ」
サロンへの移動中。
長期休みの間来れなかったからお祈りをしておきたい、とススッとアンジェだけみんなから離れる。
幸い側妃様も王太子殿下も不審には思っていない様だ。
というか、二人とも僕にグイグイ来るのに夢中っぽい。ヴィオレッタ様が一緒で良かった……。
なんて思いながら、別方向へ去って行くアンジェの背中を見つめていると、アンジェと一緒にいたクリスフォード殿下が振り返り、思い出した様に慌てて僕にこう言った。
『リッキー、出された物には手を付けないで! いいね?』
え、これから一緒にお茶するのに?
……難易度、高過ぎない?
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