第38話 王太子の影
「二人ともごめんね、大騒ぎになっちゃって」
しばらく馬車を走らせ、ようやく人がまばらになって来た所でレイとマックスに声をかける。
ちなみに馬車は二台に分乗していて、僕とレイとマックスで一台、アンジェとヴィオレッタ様でもう一台に乗っている。
ダグラス様? 馬にダイレクトライドです。
後、実は公爵家から侍女と護衛が付いて来てたので、それ用の馬車がもう一台と、馬も数頭並走している。結構な大所帯だ。
「いや、構わない。ハミング男爵にもお世話になったのだ。領民達が喜んでくれたならいい恩返しになっただろう」
確かにお世話はさせて貰ったけど、各家からは、滞在費の名目で十分過ぎる程の対価は頂いてるんだけどね……。
うちは貧乏領地だし、正直助かったけど。
「帰る時になって盛大な見送りをしてくれるという事は、滞在中は騒がず見守ってくれていたという事だろう? お陰で久しぶりにゆっくり出来た」
レイはそう言うと嬉しそうに笑う。
確かに。
思えば、滞在中は外に出たり、買い物に行ったりしてもあんな風に騒がれる事はなかった。
領民達は、僕の友達がゆっくり寛げる様にちゃんと気を使ってくれていたんだ。
何だか心が温かい気持ちになる。
「さすが領主一族がお人好しなだけあるな。領民達も良い人間が多かった。領地ごと他領に騙されない様に気を付けろよ?」
またマックスはすぐそういう言い方する。レイみたいに素直に褒めればいいのにね。
◇◇◇
馬車の旅は順調に進み、僕たちは王都の手前にある街に最後に立ち寄った。
ここで一泊して準備を整えたら、王都に入ってすぐ王城へ向かうのだ。
本当は王都に戻ったら一度は自分の部屋に帰って落ち着きたい所なんだけど、『可及的速やかに』と言われてしまった以上、王都に入ったら王城に直行しないと不敬らしい。
ああ、緊張する。
「大丈夫だ、パット。王城には私達も付き添うからな」
「ああ。男爵領から直行しましたって事で、メンバー全員で突撃してやろうぜ」
僕が宿の部屋で明日の事を考えてカチンコチンに緊張していたら、レイとマックスがそう声をかけてくれた。
確かに、何とも頼もしい
ていうか、一応メインで呼ばれているはずの勇者(仮)の僕が一番貧相な気がする。
「あー、ただ王太子には気を付けろな。もしゲーム通りなら、アレは相当
「そう言えば、前にマックス言ってたよね。『腹黒王太子』って。そんなに酷いの?」
僕がそう聞き返すと、マックスが頭をガシガシと掻きながら唸り声を出す。
王太子の話になったらレイの顔色が曇った気がするし、そんなにヤバい人なのかな?
「リックの場合、下手に色んな事を知ってるとおかしな事に巻き込まれそうだからまだ話して無かったんだが……ユーレイ王子に毒を盛ったのは、その腹黒王太子のエセルバートなんだよ」
「! クリスフォード殿下に……自分の弟に、毒を!?」
何だ、そのお兄ちゃんの風上にも置けない奴は!?
「それと、正直エセルバート殿下は私の事を敵対視していると思う。パットが私と親しい事は当然調べているだろうし、何か影響を与えてしまうかもしれない。すまない」
レイが眉尻を下げてそう謝ってきた。
王太子がレイを敵対視?
普段のレイを見る限り、敵を作る様なタイプには全く見えないんだけどな?
「そんな、レイを敵対視だなんて……。何か心当たりでもあるの?」
「ああ、実は今まで繰り返した生の中でも、一回目の生を除いてはエセルバート殿下との関係は散々だったんだ。ヴィオレッタが悲惨な目に遭うのは、殿下の婚約者である事が関係している事も多くてな。それで何とか婚約そのものを回避出来ないか毎回試しているんだが、それが原因だと思う」
なるほど。王太子からしたら自分の婚約の邪魔をしてくるわけだから、いいイメージは無いかもね。
「特に三回目の生の時には殿下に手酷い裏切りを受けてな。そのせいで私は幽閉され、その間にヴィオレッタが国外に追放されたんだ……。今回の生の殿下がした事では無いとはいえ、気持ちの上では割り切れない」
レイが、幽閉……。
分かってはいたけれど、レイが繰り返していた生がいかに過酷な物だったのかを実際に聞くと身を切られるみたいな気持ちになる。
もう絶対、同じ事は繰り返させたくない。
「まぁ、俺もこんなだしヴィオレッタもゲームのイメージとは全然違うしな? 必ずしも王太子がゲーム通りとは限らないが、実際レイモンドに対する当たりが強いなら注意するに越した事はないだろう」
「分かった。気を付けるよ」
クリスフォード殿下に毒を盛って、レイに辛く当たる人間なんて、現時点では僕にとっても敵同然だ。
「でも、王太子殿下って隠れとはいえ攻略対象者なんだよね? そんな人と恋を育むの?」
「……まぁ、やってる事は悪どいがあっちにもあっちなりの理由があるって奴だな。毒の件も、裏で手を引いてるのは王太子の母親の側妃なんだよ。で、『
あっちにはあっちなりの理由……か。
とにかく、エターナルトゥルーエンドを目指している僕たちにとって、王太子殿下はいずれ出会わなければいけない人だ。
今から覚悟を決めておかないとな。
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