第7話 パトリックは二人の仲を取りもちたい

「お二人とも、こんな所で僕になんて構っていていいんですか?」


 僕がそう尋ねると、二人とも互いに顔を見合わせた後、何故かスッ……と目を逸らせる。


「面白い事を言うね、パトリック。確かに聖女に関心はあるけれど、個人的にお近づきになりたい訳ではないんだよ?」


「ああ。クラス委員として転校生に配慮が必要だとは思っているけれど、何も特別扱いしようという訳ではないからね」


 それぞれにこう、何というか模範的な返事が返ってくるので、首を傾げながらサンドイッチをかじる。


 うーん。お互いの手前、本音は言わない……か。


 実はこの二人、お互いに相手が『死に戻り』であったり、『転生者』である事は知らない。もちろん僕から話したりもしていない。


 それに関しては、他人がどうこういう様な事ではないと思っていた事もあるけど、純粋に僕が半信半疑……というか、一信九疑くらいの勢いで話の内容を疑っていたからだ。


 しかし今日のアンジェリカの登場で、話の信憑性はかなり高くなってしまった。


 うーん、どうしたものか……。


 以前から考えていたのだが、仮に二人の言っている事が全て本当なのだとしたら、この二人こそ手を組むべきなのだ。


 救済ルートがほぼ無い悪役令嬢であるヴィオレッタ様を救いたいレイモンド様と、ゲームのシナリオを何が何でも壊したくないマクスウェル様。


 一見すると対立するしかない二人の目的だが、そこはソレ。アレの存在がある。


 そう、『エターナルトゥルーエンド』とかいう奴だ。


 これを目指すというのなら、両者の思惑は完全に一致する。


 僕の事など放っておいて、是非お二人で手に手を取ってエターナルなトゥルーを手に入れて頂きたい!

 

 この二人が手を取り協力しあえば周りのご令嬢方も至福満面間違いないし、僕も解放されて平凡な学生生活を取り戻す事が出来る。


 まさに三法さんぽうヨシ!!



 という訳で、今日の僕のミッションは、『二人の仲を取り持つ事』に今決まった。



「そ、そういえばー、何だかんだ言って最近はこの三人で過ごす事も多くなりましたヨネー」


「何だ、突然?」

「まあ、それは確かにそうだがな」



 急に話題を変えた僕に二人とも不思議そうにはしているが、とりあえず同意して頷いてくれる。

 よし、ここからの話の持っていき方が肝心だ。


「コホン。えっと、なんと言いますか、こう、もっと親睦を深めると言うか……お互い腹を割って話してみるとエターナルが見えて来るというか……」


「何だ、本当にどうしたんだ? パトリック。大丈夫か?」

「……ブフッ」

 

 ちょっと強引だったか? 

 レイモンド様には何だか心配され、マクスウェル様に至っては笑いを堪えてプルプルしている。

 

 しかし、同じ様に話を振ってもリアクションが両極端な二人だなぁ……。



◇◇◇


「あ! パトリック様ぁー!」


 結局大した進展もなくお昼休みは終わり、僕たち三人が中庭から教室棟へと移動していると、鈴の音の様な可愛らしい声が校舎側から聞こえてきた。アンジェリカだ。


 パタパタと僕の所まで走って来たアンジェリカは、そこまで来て、ハタと僕の両隣にいる高位貴族二人に気が付いたらしい。

 慌ててペコリとお辞儀をする。


「すみません! あの、私、気が付かなくて……」

「いや、構わない」


 口では『構わない』とは言うものの、レイモンド様はすんごい無表情でアンジェリカを見下ろしている。


 ああそうか、レイモンド様からしたら平民聖女が『元凶』なのか。



「やあ、アンジェリカさん。何か困っている事はないかい?」

 

 これまたマクスウェル様は凄く定型文の様な返しをする。

 恐らくこれが『好感度』というものが上がっていない状態の『攻略対象マクスウェル』の返答なのだろう。

 

「あ、ありがとうございます。大丈夫です! クラスの皆さんに良くして貰って、お昼も一緒に食べました!」


 うん、アンジェリカは転校初日にして上手くクラスに馴染めたみたいだね。

 ……羨ましい。


「あ、あの。あの、パトリック様」


 小声で囁き、僕の袖をクイクイ引っ張るアンジェリカ。


「うん? 何、アンジェ?」

「「アンジェ!?」」


 僕がアンジェリカに返事をしたのを聞いて、何故かレイモンド様とマクスウェル様が素っ頓狂な声を出す。


 え? 何? 何で?


「パトリック、女性をいきなり愛称で呼ぶというのは、その、いささか性急なのではないかな?」


 レイモンド様が戸惑う様に言う。


 アンジェリカからそう言われたからそうしただけなんだけど……。


 ああ、そうか。高位貴族の感覚ではそうなのか。田舎では愛称で呼ぶなんて、割と当たり前だったので僕の方がズレていたのかもしれない。


「すみません、田舎の感覚が抜けておりませんでした。私の領地では比較的よくある事でしたので。以後気を付けてあらため……

「いや!」


 反省して訂正しようとした僕の言葉を、何やら考え込んでいたマクスウェル様が遮る。


「丁度いいじゃないか。パトリックも私達ともっと親睦を深めたいと思っていた所だったのだろう? よし、今日から私のことは『マックス』と呼べ」


 ニヤリと笑いながらそう言うマクスウェル様。みんなの前なのにちょっと素が出てますよ!?


「ならば私の事は『レイ』だ!!』


 すかさず加わるレイモンド様。



 よ、よ、よ……



 呼べるかーーーー!!



 こちとら田舎の貧乏男爵家の息子だぞ!?


 公爵令息様や侯爵令息様にそんな馴れ馴れしくできる訳ないでしょ!?


 アンジェと僕は身分が近いからできるんだよ! 分かれ!



「むむむ、無理ですよ! 身分がどれだけ違うと思ってるんですか!?」

「ハハハ、心配するな。学園内では身分の差など関係ない。皆平等だ」


 レイモンド様が爽やかな笑顔で言う。



 そういう事か……。


 どこがだよ!? と思っていたあの学園の理念とかいう奴。

 あれ、こういう時に高位貴族の皆さんが都合良く使う為にあるんだ。

 学校って社会の縮図だな。


 僕がガックリと肩を落とす横で、両手を可愛くパチンと合わせたアンジェが輝く笑顔でこう言った。


「素敵! これからよろしくお願いしますね。レイ様、マックス様!」


「「…………」」



 アンジェ、つえぇ……。

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