第14話 残る三人の攻略対象(尚、出会いたくはない)

「まず、直近で起こってるイベントで言うと今日の『ユーレイ王子』だな。リック、アイツ何て言ってたんだ?」

「えっと、私が見えるのかー?って。僕が見えるって答えたから、ゆっくり話したいから今日の夜に僕の部屋に来るって言ってたよ」


 僕がそう答えると、レイとマックスが『ピシッ』と固まる。


「ぱ、パット? それはいささか警戒心が薄過ぎないか? 前から思っていたんだが、パットはちょっと押しに弱過ぎるぞ?」

「えぇー、レイがそれ言う?」


 押し切ってきた人の代表格が、間違いなくレイモンド様だと思うんですけどね?


「それ、明らかにヒロインに起こるイベントの筈なんだがな? リック、お前実はヒロインなのか?」

「そんな訳ないでしょ!? 僕、男だよ!」


 ムッとしてそう答える僕をよそに、マックスは疑う様に僕をジロジロと見る。


「……いや、イケメン楽園よろしく、実は男装女子とか……」

「無いからっ! ていうか何そのイケメン楽園って? もう、また僕の事バカにしてるでしょ!?」

「いやいや、イケメン楽園は名作だぞ」


 至極真面目な顔をして答えるマックス。

 前から思ってたんだけど、異世界のネーミングセンスってどうなってんのさ!?


 僕とマックスがギャイギャイと不毛な言い争いをしていると、いつの間にかソファーに移動していたレイが、不貞腐れた声を出す。


「すみませーん、早く話進めてくださーい」


 プッ、口とんがらせちゃってまぁ。

 美形って、こんな顔しててもサマになるんだからずるいよね。


「拗ねんなよ、『学園プリンス』」

「な、何だその『学園プリンス』って!?」

「レイモンドの通称だよ。何かあるじゃん、ゲームキャラにそういうの付ける奴」


 そもそも『ゲーム』という物の無いこちらの世界にそんな文化は無いけれど、通り名みたいな感じかな?


 学園プリンスとはこれまた言い得て妙な。


 まぁでも、『レイモンド様』に最初抱いていた『完璧な貴公子』というイメージは大分変わったと思う。

 僕は今の方が付き合いやすくていいかな、なんて思うんだけど、未来の公爵様にそんな事思うなんて不敬だよね……。



「全く! そんな事はいいから話を続けてくれ。日が暮れるぞ?」


 ムスッとした声でレイが言う。

 確かに、このままじゃ全然話が進まないもんね。


「ああ、悪い悪い。とにかく、せっかく起こったイベントだ。攻略対象者と全員出会うのはエターナルトゥルーエンドの必須条件だからな」


 マックスは沢山の情報が書き込まれたスクリーンを見ながら言う。


「わざわざ向こうから来てくれるって言ってるんだ。ついでにアンジェリカと引き合わせられないか?」

「同じ寮に住んでるんだし、可能じゃないかな。アンジェも部屋に呼ぶ?」


 僕がそう言うと、またレイとマックスが『ピシッ』と固まった。

 

 デジャヴかな?


「はぁー。リックお前、一応貴族階級だろ? さては、頭良い癖に世間の常識分かってないな?」

「あ、そっか。クリスフォード殿下は霊体だし、部屋でアンジェと二人って事になっちゃうのか。それは確かに体面が悪いよね」


 マックスに呆れた様に言われ、素直に反省する。これは僕の落ち度だ。


「体面だけじゃないぞ!? あの女は危険だと言ってるじゃないか! ナニかされたらどうするんだ!?」


 ナニかって何だ、ナニかって。

 無理もないけど、レイの中のアンジェの扱いが相変わらず酷い。


 ……あれ? レイも攻略対象者だよね?


 って事は、レイとアンジェもそれなりには仲良くならないと、エターナルトゥルーエンドの到達条件満たせないのでは??


 新たな難問来ちゃったぞコレ。


 うーん、と僕が考えている間に、マックスも何かを決めたらしい。


「分かった。俺が立ち会おう」

「な、なら、私がっ!」


 マックスはそう言うと、後から声を上げたレイを右手で制した。


「不自然だ」

「ぐっ……」

「俺とリックとアンジェリカはクラスメイトだ。共に勉強しようと思ったとでも、クラス委員として様子を見に来たとでも、何とでも言える」


 正論だ。

 肩をガックリと落として項垂れているレイはちょっと可哀想だけど、こればっかりは仕方ないよね。


「じゃあ、寮の先生に届けを出しておくね!」

「ああ、頼む。そう言う訳だからレイモンド、今日は俺がリックを寮まで送って行くな」


 項垂れていたレイがガバッと顔を上げる。


「そっそれはせめて私が!?」

「いや、レイモンドが馬車でリックを送って行って、その後ろを俺が馬車で付いていったら変だろ?」


 ……うん。

 ただでさえ公爵家の馬車も侯爵家の馬車も目立つからね。ファビュラスとマーベラスの二台走りなんて悪目立ちしかしない。


 また捨てられた子犬みたいな目をしているレイの事は、ひとまず見ない様にしておこう。ほだされたら大変だ。


 スッとレイから目を逸らすと、白いスクリーンが目に入る。


「ねぇ、他にはどんな攻略対象者がいるの? あと三人出て来るんでしょ?」

「メインの攻略者は後一人だな。ヒロインがバイト先で出会う騎士見習いの伯爵令息なんだよ。上手く話が進んでたら、ひょっとしたらアンジェリカがもう出会ってるかもな」


 マックスにそう言われて、僕は一週間程前にアンジェと交わした会話を思い出した。

 アンジェとは席が隣なので話もよくするし、普通に仲良く過ごしている。


「そういえば、少し前にアンジェがバイト始めたって言ってたよ!」

「そうか。じゃあ今日はその辺の聴き取りもしておこう」


 なるほど、アンジェサイドで攻略が進んでるって事も十分考えられる訳か……。

 なにせ、このゲームのヒロインはアンジェリカなのだ。


「後の二人は隠しキャラとおまけキャラだからすぐに出会う事はないと思うが、エターナルトゥルーエンドに到達するには必須なんだよな……」


 『アイツら、キャラ濃いんだよな』とブツブツ言うマックスからは不穏な空気しか感じない。


 ……あ、会いたくない、かも。

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