第13話 そのエンディング、まさに難易度SS級

『お願いだ。私の姿が見えているのなら、返事をして貰えないか?』


 何か、めっちゃ高貴な雰囲気を漂わせる美形(半透明)に涙目で懇願されている。

 

 ああ、僕の人生こんなんばっかりか。


『もう何年も人と話をしていない……。限界なんだ。孤独の闇に飲み込まれてしまいそうだ』


 なんか、セリフ回しに若干の地雷臭を感じないでもないが、話している内容には同情せざるを得ない。


 そりゃまあ、寂しい……よねぇ。


 何年も人に認識されず彷徨い続けるなんてどれほど孤独か。察するに余りある。


 改めてチラリとそちらを見ると、美形幽霊改めクリスフォード殿下は、目に涙を浮かべながらも期待に満ちた目を僕に向けていた。


 ああー、駄目だぁ。これは無視できない。



「……見えてます」



 僕の返事を聞いて、パアァァッと顔を輝かせるクリスフォード殿下。

 新たなストーカー爆誕の予感がする。



「お、おい、どうしたんだよリック! 頭でも打ったか!?」


「騒ぐなマクスウェル。すぐに校医を呼んで……いや、私が運んだ方が早いな!」


 おもむろに僕を抱き上げようとしたレイから慌てて逃げる。

 やめてやめて、レイにお姫様抱っこなんてされたら、背後に薔薇を背負っちゃう!


「ちがっ、どこも打ってないよ!? ほんとに! 大丈夫だから!!」


 逃げる僕と追いかけるレイと何故か加わったマックスがわちゃわちゃ騒いでいると、クリスフォード殿下がふっと笑って言う。


『ふっ、ここにはキミの騎士ナイトが多過ぎて、ゆっくり話が出来なさそうだね』


 なんて!?


 ヤバい。先程の地雷臭はやはり勘違いではなかったらしい。

 返事したの、早まったかもしれない。



『今晩、キミの部屋へお邪魔するよ。その時にゆっくり話そう、お互いの事をね!』



 内心で冷や汗ダラダラの僕をよそに、クリスフォード殿下はそれはそれは嬉しそうに微笑むとそのままスゥッと消えてしまった。


「おい、リック! もしかしていたのか、ユーレイ王子?」


 ユーレイ王子って……。


「なんだその『ユーレイ王子』って!?」


 レイに肩を掴まれて前後にガクガクと揺さぶられる。

 ちょ、ヤメテヤメテ。レイ、何気に力強いんだから。


「ユーレイ王子ってのはな、攻略対象の一人で第二王子のクリスフォードだ」

「んな!?」




◇◇◇



 放課後。僕はレイとマックスに連れられて上位貴族専用の談話室にいた。


 結局あの後すぐに昼休みが終わり、説明しろとゴネるレイを何とか宥めて『続きは放課後』という事にしたのだ。


 上位貴族専用の談話室は、僕……というか、一般生徒が普段使う談話室とは桁違いの豪華さだった。

 ソファーなんてもうフッカフッカで、つい軽くバインバインしてしまう。


「楽しそうなとこ悪いが、始めるぞ?」


 マックスがそう言って制服のポケットから手のひらサイズの小さな箱型の物を取り出すと、ブィンッと鈍い起動音がして談話室の前方に白い光の壁の様な物が映し出される。


 これは、黒板にチョークで文字を書く様に、自分の魔力で自由に文字や絵を描く事が出来る魔道具だ。

 書くだけではなく、そのまま書いた物を保存する事も出来る優れモノで、値段もその分まぁお高い。



「俺が知る限りのデータと、昨日レイモンドから聞いた過去生の話をまとめて見やすくしてみた。これを見ながら話を聞いてくれ」


 白いスクリーンには膨大な量の情報が見やすく整理され、図やグラフなども入って非常に分かりやすくまとめてある。


 え、マックス凄っ!


「まず確認だが、レイモンドは妹のヴィオレッタを助けたい。これが第一目標で間違いないな?」

「ああ、妹を救う為なら何でもする覚悟だ」


 マックスはレイに頷くと、銀縁メガネをクイッと押し上げ、今度は僕を見た。


「俺は、ゲームのシナリオは絶対に壊したくない。それが製作者をリスペクトするというオタクの信念だ。ついでに言えば、下手にシナリオを壊してこの世界を危機に晒したくないという気持ちも勿論ある」


 世界を守る方がついでなんだ……と、その信念の強さに苦笑いする。


「リックの目的は、何だ?」

「え?」



 僕の、目的?

 だって僕は巻き込まれただけだよ?

 何も目的なんて……。



「僕は……ごめん、よく分からない。最初は無事に学園を卒業出来ればそれでいいと思ってたんだ。今もそれは変わらないけど、でも……みんなの力になれればいいなとも思ってる」


 圧倒的に覚悟も信念も無い自分がなんとなく恥ずかしくて下を向く。


 確かに最初は巻き込まれただけだったけど。それをキッパリと断ち切る事もせず、身分のせいだ何だと自分に言い訳をして、のらりくらりと二人の側にいる事を選んだのは僕だ。


 何となく落ち込んでそのまま下を向いていると、レイに優しく肩を叩かれた。


「私が一方的にパットを巻き込んでしまったという自覚はあるんだ。そんな風に考えてくれているのだと分かっただけでも、私は嬉しい」


 そう言ってまた至近距離から眩しい笑顔を浴びせかけるレイに心のサングラスをかけていると、今度はマックスにポンポンと頭を撫でられた。


「それ位で十分なんじゃね? 俺からしたらリックはお人好し過ぎて心配な位だわ」


 ……なんか、慰められてしまった。



 何故か二人に『ほら、食べろ!』と勧められたクッキーをサクサクかじっていると、マックスがスクリーンの隣に移動しながら再び話しを始める。



「レイモンドは妹を助けたい。俺はシナリオを壊したくない。リックは俺達の力になりたい。……それなら、目指すべき道は一つしかない」



 スクリーンの隣に立ったマックスは、クルリと振り返ると不敵な笑顔を浮かべてこう言った。



「これからその、『エターナルトゥルーエンド』攻略に必要な条件と手順を説明する!

覚悟しろよ? 難易度は超バリ高のS S級だ!」

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