第28話 パトリックの正体

「そうか、そんな事が……。それでマクスウェルはその転校生に付いているのか?」

「うん。先生にも頼まれてるし、自由にするのも心配だからって」


 昼休み。レイと二人で食事しながら午前中に起こった出来事を話す。


 マックスに、自分は転校生を見張っておくから、リックはレイモンドに事情を説明しておいてくれ、と頼まれたのだ。



「そうか、心配だな」

「うん……」

「かなり癖物の様だからな。マクスウェルが我慢し切れなくなって、その転校生の前で本性を現してないと良いんだが……」

「そっち!?」


 僕は、『あの転校生は何を知っているんだろう?』とか『あの転校生が現れた事で何かが変わってしまうんじゃないか?』とか、少し未来の事を心配していたけど。


 レイは、今まさにマックスが何かしでかしていないかを心配していたのか。



「……プッ、ク、アハハハ……」



 いきなり笑い出した僕を見て、レイがキョトンとした顔になる。



「あはは、レイとマックスってさ、何だかんだで仲良いよね?」

「そ、そうか? まぁ、あんな無遠慮に接してくる人間は今までいなかったからな。最初は無礼な奴だとも思ったが、今はこんな感じも悪くないと思ってるんだ」


 少し嬉しそうにそう言ってパンを千切るレイを見ていると、僕も嬉しくなってくる。

 レイとマックスが仲良くしてくれるのは単純に嬉しい。



 七回もの死に戻りの中で色々な人に裏切られたらしいレイは、その人当たりの良い外面に反して人を信用していない。


 貴族家の……しかも公爵家の嫡男ともなればそれはそれで正しい事なのかもしれないけれど、実は本来のレイは結構な寂しがり屋だ。

 公爵令息扱いで距離を置かれると、思わず眉尻が少し下がってしまう位には。


 僕の時は、『僕といればヴィオレッタ様を助けられるかもしれない』と、それこそわらにもすがる気持ちだったから、いちいちわらなんて疑ってもいられなかったのだろう。


 僕は『藁枠わらわく』だ。

 そんなもん聞いた事もないけど。


 

 もし。


 もし、エターナルトゥルーエンドの攻略に失敗して、再びヴィオレッタ様が悲惨な終わりエンドを迎えてしまったら……。



 レイはまた一人で死に戻り、八回目の生を迎えるのだろうか?



 そこで出会う僕やマックスは、レイを他人を見る様な目で見てすれ違うのだろうか?



 —— 想像しただけで、背筋が凍りそうだった。



 ◇◇◇



 放課後。


 上位貴族専用の談話室で、レイとマックスと僕に囲まれた転校生は非常に気まずそうにしていた。


「おい、リックに言う事があるだろ?」

「パトリック様、今日はすみませんでした。何か訳の分からない事言っちゃって……」


 マックスに促されボソボソ謝る転校生。

 

 レイ、どうやらマックスは本性出しちゃったっぽいよ……。



「うん。あの……聞いていい? セオ殿に聞かれた、『、自覚ない系主人公?』って言葉の意味」

「すみません、意味わかんないですよね。俺、ちょっとびっくりして変なテンションになってて……。俺がいた異世界のゲームで、この学園に似た学校が舞台のゲームがあったんです。それの主人公に、パトリック様が似てて、つい……」



 ドクン、と心臓が音を立てる。


 やっぱり聞き間違えじゃなかったんだ。

 僕が、主人公……?


 動揺する僕に代わって、マックスが質問を続ける。


「なぁ、主人公ってアンジェリカじゃないのか? そのゲームって、『学園プリンス⭐️ラビリンス! 恋は気まぐれ、ミステリー♡』だろ?」

「あ、マクスウェル様も知ってるんですか、そのゲーム? マクスウェル様の口からそのタイトル聞くと面白いっすね!」


 やっぱり少し緊張感が足りないのか軽い感じで喋る転校生に、レイが苦虫を噛み潰したみたいな顔をする。


 ていうかこの感じだと、マックス、自分が転生者だって転校生に話したのかな?


「質問に答えろ、そのゲームの主人公はアンジェリカだろ? パトリックはゲームと関係ないはずた」

「あ、分かった! マクスウェル様が言ってるのってオリジナル版ですか? 俺が言ってるのは『リメイク版』です」



「「「リメイク版!?」」」



「は? いや、あのゲームにリメイクも続編も無かっただろ!?」

「オリジナルからかなり時間経ってから作られましたからね……マクスウェル様も知らなかったんじゃないですか?」


 ケロリと話す転校生に対して、こちら側の三人は動揺が凄い。

 特にマックスなんてかなりのショックを受けているみたいだ。


 ……いや、僕の動揺も凄いんだけど。



「すまない。よく分からないのだが、とにかくその『リメイク版』の主人公がパトリックなのか……?」


 比較的動揺が少なかったレイが何とか話を続けてくれる。


「正確に言うと、そのリメイク版に『追加コンテンツ』として足された主人公ですね!」


 

 ……追加、コンテンツ……?



「選べるW主人公! ってのがリメイク版の売りで、凄い話題になったんですよ。元は乙女ゲームなのに追加コンテンツの主人公は男だし。今度はBLも楽しめるっていうので客層も増えて、バカ売れしたとか……



 転校生は続けて色んな事を喋ってたみたいだけど。



 僕は衝撃が強過ぎて、途中から話が全然頭の中に入って来なかった。




 —— 僕が、追加コンテンツ……?




  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る