第16話 僕とアンジェと幽霊と
「マックス様とパトリック様に誘って頂けるなんて、アンジェとっても嬉しいです!」
「いや、クラスメイトの生活を気にかけるのは、クラス委員として当然の事だからね」
今僕の目の前では、至極ご機嫌でニッコニコのアンジェと、絶賛マクスウェルモード発動中のマックスが和やかに食事をしている。
ここは、寮にある来客用の個室で、客人を招いた時などに一緒に食事をしたりお茶を飲んだり出来る様になっているのだ。
あの後、寮の先生に無事許可を貰った僕はアンジェに、
『マクスウェル様が僕に勉強を教えに寮に来る。夕食を一緒に食べる予定だから、アンジェも一緒にどうか?』
といった内容の手紙を書いて渡して貰った。
アンジェは二つ返事で誘いを受けてくれて、今のこの状況という訳だ。
「そういえばリックから聞いたんだけど、アンジェリカさん、何かアルバイトを始めたって本当かい?」
「あ、はい! 教会で紹介して頂いた町の薬局でお仕事してます」
聖女の力を発現した事で、平民のアンジェは『未来の聖女を保護して教育を与える』という建前の為、この学園へ転校させてこられた。
そう、未来の聖女だ。
実はアンジェリカはまだこの時点では正式な聖女として認められていない。
マックスによると、『聖女になれない』パターンのバッドエンドも存在するらしい。
その場合、当然魔王が復活し国も滅びるそうだ。怖っ!!
基本、バッドエンドではもれなく周囲も不幸になる。さすが
ヒロインの不幸はみんなの不幸なのだ。
「凄いね、どんな事をするんだい?」
「最初はお店番が多かったんですけど、最近はお薬の調合も教えて貰える様になったんです。薬草を探しに、町の外へ出かけたりもするんですよ!」
出た! 冒険パートだ!!
町の外へ出ると、魔物と出会う危険性がある。とはいえ、王都の近くは定期的に騎士団が魔物討伐をしているので比較的安全だ。
僕が住んでいた男爵領なんて、相当田舎だから危険な魔物もゴロゴロいたもんね……。
騎士団が遠征に来てくれる事もあるにはあったけど、そんな
もっと街道を整備したり、騎士団の駐在所を作ったり。国にして欲しい事はあるんだけど、その為には領地の発言力を高めないと聞き届けて貰えない。
そう、僕は田舎の期待を背負っている。
「町の外に出るなんて危なくないのかい?」
「そうですね、たまに弱い魔物は出ますけど……。あ、最近は騎士見習いのダグラス様が護衛として同行して下さってます」
「! 騎士見習いでダグラスというと、もしかしてボールドウィン伯爵家のご嫡男のダグラス殿かな?」
「はい、そうです。わわ、やっぱり有名な方なんですね! 私、最初はダグラス様が伯爵家のご令息だなんて知らなくて、ビックリしちゃいました」
ニコニコと話すアンジェ。やっぱりもう四人目の攻略対象者に出会ってたのか。
さすがのヒロイン力である。
「うん、ダグラス殿は気安い性格だしね。腕も立つみたいだから、それならアンジェリカさんの事も安心だ」
「はい! 心配して下さってありがとうございます、マックス様」
それにしても現れないな、クリスフォード殿下……。
もうすぐ夕食が終わりそうだ。
僕の部屋に来るって言ってたし、
とはいえ、そもそもクリスフォード殿下は僕の部屋なんか知らないはずだし、僕がいる場所に現れると思ったんだけど。
そう思いながら、食後の紅茶を飲んでいると、窓の外から嬉しそうにフリフリと手を振っているクリスフォード殿下の姿が見えた。
「ブッ!? ング、ゲホッ、ゲホゲホッ……」
驚いた拍子に紅茶を盛大に吹き出しそうになり、それを堪えたら今度は激しく咽せた。
「きゃっ、大丈夫ですか、パトリックさ……
きゃああぁぁ!?」
あ、良かった。やっぱりアンジェにもちゃんと見えたみたい。
僕を心配して立ち上がったアンジェは、窓の外をバッチリ目撃してくれた様だ。
ちょっと申し訳ない位に驚いてガタガタ震えている。
一方のクリスフォード殿下は『アンジェにも自分が見えている』という事実に気が付いた様で、パアァァッと顔を輝かせた。
ここだけ切り取ってみると、まさに『突然現れた変質者に驚く被害者少女と歓喜する犯人』の様な構図で非常にいたたまれない。
いやだって、普通相手に悲鳴上げられてこんな喜ぶってないからね?
『ああ! 今日はなんて素晴らしい日なんだ!! 何年もの孤独に差す光をついに見つけたと思ったら、双子星だったなんて!?』
……なんか勝手に双子にされた。
双子といえば、領地に残してきた僕の弟たちはみんな元気だろうか。
弟たちよ、兄様は王都で頑張ってるよ。
「パパパパパ、パトリックさまっ! あれって! あれって幽霊!? えっ、見えてますか!?」
僕の腕をガクガク揺さぶりながらアンジェが訴えかけてくる。何かごめん。
『驚かせてごめんね。確かに私に身体は無いけれど……、貴方に危害をくわえる様な事は決してしないと誓うよ』
壁をすり抜けてフワリと部屋に入って来たクリスフォード殿下は、そう言ってアンジェの前に跪いた。
おおっ、凄い絵になる!!
これがヒロインと攻略対象者の出会いって奴か!
◇◇◇
「いやー、上手くいったなリック! ユーレイ王子はアンジェリカの方に付いて行ったんだろ?」
「ああ、うん。僕にはナ……マックスが付いててゆっくり話せそうにないからって」
あの後、マックスには全く幽霊が見えていない事。僕にはうっすら見えるけど、話している事はあまり分からない事(嘘です)、をアンジェに伝え、後はお任せする事にした。
あの状況で幽霊を女の子に押し付けるのもどうよ!? とは思ったのだが、アンジェの方も、
『きっとこの霊は悪いものではないと思うんです!!』
とか言って、除霊師を呼ぼうとしたマックス(演技です)から、何故か殿下を庇っていたので、まぁ何かあれで良かったのだろう。
「よし、これでメイン攻略対象四人とヒロインの出会いイベントはクリアだな! じゃ、やる事やったし俺もそろそろ帰るわ」
「え? もう帰るの?」
アンジェやクリスフォード殿下と別れて僕の部屋に来てから、まだ十分くらいしか経っていない。
一応、一緒に勉強するって建前で寮に来たはずなんだけどな。
「おっ、何だ何だ? 寂しくなっちゃったかリック?」
「違うよ! 勉強しないのかなって思っただけ!」
もう! マックスはすぐ僕を揶揄って遊ぶんだから……。
「しょうがないな、もう少し側にいてやろうか? ん?」
「結構です!! はい、さようなら。気を付けてお帰り下さい!」
そう言ってグイグイとマックスを部屋の外へ押し出す。
笑いながら部屋から出たマックスは、扉の外まで行くと、振り返って少しだけ真面目な顔をした。
「なぁリック、誰でも彼でもこんな風に簡単に部屋に入れんなよ?」
「え?」
「じゃあな、また明日!」
そう言うとマックスは僕の頭をグシャグシャに撫でて行ってしまった。
はぁー、マックスは本当にガサツなんだから……。
その一時間後。
僕は、突如カベから現れた金髪頭の幽霊に絶叫する事になる。
『やぁ! 今度はキミとゆっくりお話をしに来たよ!』
—— いやあぁぁ、マックスー! 勝手に入られた場合はどうしたらいいですかー!?
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