第36話 悲報。あれ、ラストダンジョンだってよ。

「これは……一体?」


 自分達が一瞬でダンジョンの外に出た事に気が付いたダグラス様がゴシゴシと目をこすっている。


 そうか、ダグラス様にはあのイケボは聞こえてなかった訳だから、何の心構えもない内にいきなりワープしちゃったのか。


「この剣を抜いた事で、何らかのギミックが作動したみたいですね」

「そうなのか、凄いダンジョンだ! これはますます攻略しがいがある!!」



 怪我までしたのに懲りてないんかい!?



 手元の聖剣とギラギラしたダグラス様を見て思わず小さく溜め息を吐いたところで、レイとマックスの声が聞こえて来た。



「リック! ダグラス!!」

「良かった、二人とも無事か!?」



 二人は丁度助けを呼ぶ為にダンジョンを出て来たところだったらしく、僕たちの姿を見つけると凄い勢いで駆け寄って来る。



 良かった、すぐに二人に会えて……。



 僕が二人に簡単に状況を説明すると、レイがすぐにダグラス様に肩を貸して馬車まで連れて行ってくれた。


 一方のマックスは僕と聖剣を見比べて、何やら難しい顔をしている。


「これ、どう考えてもイベントだよな?」

「やっぱりそうだよねぇ。ダグラス様には聞こえない謎のイケボが、僕の事『勇者』だって。で、この『聖剣』を抜けって」

「……そりゃお疲れだったな」


 マックスはそう言うと、またグシャグシャと僕の頭を乱暴に撫でる。

 マックスにこうされると髪が乱れるので嫌な反面、ちょっと安心してしまう自分がいる事に気が付いた。うーん、複雑。



「詳しい話は帰ってからだな。早いとこダグラスをアンジェリカの所へ連れて行こうぜ」

「うん!」



 ◇◇◇



 邸へ帰ると、丁度弟たちがアンジェとヴィオレッタ様に庭を案内している所だった。

 馬車を見つけた双子がこっちに向かって駆け寄って来る。


「「にい様ーー!!」」


 はい、可愛い。


「ただいま、エリック、デリック」

「「きゃー!!」」


 抱き付いてきた双子を順番に抱き上げてくるくる回していると、上から二番目の弟、ヘンリックが首を傾げながら近づいて来た。


「兄様、予定より早いお戻りですね?」

「うん、ちょっとダンジョンでトラブルがあってね。父様はいるかな?」

「はい、先ほど畑から戻られましたよ! お時間取れるか聞いて来ましょうか?」

「ありがとう、頼むよ」


 僕がそう言うと、ヘンリックは急ぎ足で邸へ入って行く。うちの弟達はみんな素直で可愛いのである。


 

 ヘンリックから話を聞いた父様は、すぐに時間を作ってくれた。


 ダグラス様は安静の為に残り、アンジェとヴィオレッタ様がそれに付き添うとの事だったので、父様への報告は僕とレイとマックスの三人でする事になった。

 



「そうか状況は分かった。それで、ボールドウィン伯爵子息の怪我の具合は?」

「アンジェリカが聖女の癒しの力を使ってくれたので大事はありません。……ご本人は、そのままダンジョンに引き返そうとしたほどお元気です」

「そ、そうか……」


 アンジェにすっごい怒られて、さすがに諦めてたけどね。


「父様、何故あのダンジョンに聖剣が安置されていたのかご存知ですか?」

「それなんだがな。確かに我が男爵家は勇者の血筋で、あのダンジョンはかつて魔王が根城にしていた所謂『ラストダンジョン』だという説はあった」

「!! 初耳ですよ!?」


 僕が驚いて詰め寄ると、父様は何とも言い辛そうにゴニョゴニョと説明を始めた。


「うむ……その、ラストダンジョンと勇者の血筋については諸説あってな。うちの他にもいくつかあったんだ、もっと力のある領地で『うちこそが本物』と名乗る領地が」


 あー……。


「魔王がおらずとも生まれる聖女と違い、倒すべき脅威が現れなければ勇者が生まれてくる事はない。平和な時が何百年と続く今の世では、勇者の扱いなんてもはや御伽噺の類いでな。話がどんどんあやふやになっていく中で、力の無い我が領地が伝承地争いから早々に脱落したのは、当然の成り行きだったのだよ」


 せ、世知辛せちがらい。


 確かに今でも『勇者生誕の地』だの『名物ラストダンジョン』だの、嘘か真か分からない眉唾物の勇者ビジネスはあちらこちらにあるんだけど、よりにもよって、早々に脱落して名乗る事すら許されないレベルのうちの領地が本物だった訳か。



 ていうかみんな、勇者を名産品みたいな扱いするのやめようよ。

 何だよ伝承地争いって。

 


 しかもうちは今まで何の恩恵にも預かれなかったのに、勇者の務めは果たさないといけない的な事になるの?

 貧乏くじ引き過ぎじゃない??



 そこまで考えて、僕はハタと恐ろしい事に気が付く。



 …………ん?


 勇者の……務め?

 


 僕の顔からサーッと血の気が引いて行く。



「と、父様? まさか本当に僕が勇者って事になるんですか? いや、それ以前に勇者が生まれたという事は、まさか魔王が復活するのですか!?」


 

 嘘でしょ? アンジェが無事に聖女になれば魔王は復活しないはずでは!?



 ゲームの様に数字が可視化出来ないこの世界では、はっきりレベルだの人気度だのは分からない。

 分からないが、どう見てもアンジェの聖女としての力は確かだし、町での人気も上々だ。聖女認定に失敗するとは思えない。



「うむ……私にも正直よくわからないのだが、国に報告しない訳にはいかないだろう。

とりあえず事のあらましを伝える使者を王都へ送ろう」



 ……なんてこったい。

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