最終話 僕のやんごとなき御身分の……
「し、信じられない!!」
「まさか勇者というのはここまでの強さなのか!?」
「まさに鬼神の如き戦い振り!!」
王家から遣わされた騎士達が後ろの方で騒めいているのが聞こえる。
ああぁぁぁーー、そんなつもりじゃないのにいぃー!
さっきから僕は何もしていないのに、スライムやらゴブリンやらが勝手に突撃して来ては、勝手に聖剣にぶち当たって弾け飛んでいくのだ。何でだよ!?
困惑する僕を見てマックスとアンジェは笑いを堪えてプルプルしているし、レイは心配そうにオロオロしているし、ダグラス様は『パトリック殿! どちらが多く魔物を倒せるか勝負ですな!?』とか言ってその辺の魔物を倒しまくってるし。
初めての討伐だからと付いてきた騎士団はもはやただのギャラリーだ。
「素晴らしい! この勇者様のご活躍を早く陛下に報告しなければ!」
「広く国民にも勇者誕生の
ひいぃぃぃい!?
「ちょ、そ、それは待って……」
「何言ってんだよリック。しっかり名声広げて貰え!」
大袈裟な話を吹聴しないように騎士達を止めようと思ったのに、マックスに首ねっこをガシッと掴んで止められた。
「な、何でぇ!?」
「何でってお前、アルティメットエンド目指すなら人気度爆上げしないと駄目だろうが」
マックスにもっともな指摘をされて、うぐっと言葉に詰まる。
「それとも何か? 俺に嫁に貰って欲しいのか?」
「ええっ! パトリック様、マックス様の所にお嫁に行くんですか!??」
また耳元でイジワルな事を言うマックスと、それを耳ざとく聞きつけてキャッキャとはしゃぐアンジェ。
こ、このコンビ、タチ悪ぅー!?
「違うぞ、アンジェリカ嬢! 最終的な責任は私が取る事になっている!!」
「あ、そういう……?」
突如乱入してきたレイの言葉を聞いて、アンジェがポッと頬を染める。
ぬあぁぁー、絶対何か誤解してる!!
「ちがっ、違うからね! アンジェ!! レイが言ってるのは……
「皆、魔物討伐の最中ですよ!? もっと真剣に事にあたって下さい!」
慌ててアンジェに釈明しようとした所をダグラス様に遮られた。
言っている事は圧倒的に正しいのだが、その背後に山と積まれた死屍累々の魔物達を見るとちょっと肯定しづらい。
うん、ダグラス様はむしろちょっと手を抜こうか!?
こうして僕の初魔物討伐の報は、勇者パーティの圧倒的勝利として三日で王都中を駆け巡ったのだった。
◇◇◇
そして訪れた新学期。
僕たちは二年生に、レイは三年生に進級した。
ピカピカの制服に包まれた新入生達の姿に僕も先輩になったのだと気が引き締まる思いだが、学年に惑わされてはいけない。
何せここは高位貴族御用達の名門中の名門、エーデルシュタイン学園だ。
後輩だろうが僕より身分の高い人間なんてゴロゴロいる。
身分制度の前には、先輩後輩の関係など風が吹けば飛び散る
そしていつも通りにファビュラスな馬車から降りて、レイ目当てに集まった女子生徒達の花道を通って校舎へ向かう……んだけど。
ん? なんか、違和感が……?
『ほら見て、あれが勇者様ですって!』
『えっ、想像してたより可愛い!!』
『あれでそんなに強いなんてギャップにキュンと来ますわー!』
花道の女子生徒達、僕を見てる……?
「ねぇレイ、なんかいつもと様子が……」
「ああ、これからは学園でもますます油断が出来なさそうだな」
ん? 僕が感じてる違和感とレイが感じてる危機感って何か違わない?
はっ、まさか勇者を狙う刺客が学園内に紛れ込んでるとか!?
まさかの闇討ちの恐怖に怯えながら教室に向かうと、アンジェと、マクスウェルモードのマックスがいつもの様に僕の近くにやって来た。
「うふふ、モテまくってますねー、パトリック様!」
「勇者認定の話は既に広まっているみたいだね。急に環境が変わって大変だろう。大丈夫かいリック?」
「いやほんと、変わり過ぎだよ……」
ガックリ肩を落として席に着くと、隣で空気椅子をしているクリスフォード殿下と目が合った。
ここは変わらんのかい!?
『ああ、これからも、いつでも私はキミの側に付いているからね、リッキー! 心配する必要はないよ』
いやもう、付いてるっていうより憑いてるっていうか。突っ込みどころが満載過ぎる。
さて、今日は始業日なので授業はない。
ホームルームが終わればあっという間に放課後だ。ほとほと疲れ果てた僕には非常にありがたい。
教室を出た所でレイとヴィオレッタ様を加え、いつものメンバーとワイワイ言いながら下校する。
あちらこちらから投げかけられる視線に辟易しながら校舎を出た所で、今度は見覚えのある高身長のイケメン細マッチョが女子生徒に囲まれてきゃあきゃあ言われているのが目に入って来た。
もはや嫌な予感しかしない。
「ダグラス様!? なんで学園に!?」
「おおっパトリック殿! 学園生の剣術指南に来ていた騎士見習いの先輩が、この度めでたく騎士団に配属されたのだ。私はその後任となった!」
『これからは学園でもよろしくお願いする!』と、ニッと笑うダグラス様に気が遠くなっていく。
僕の、僕の平凡な学園生活……。
僕が呆然とその場に立ち尽くしていると、少し先に歩いていったみんなが、笑顔で振り返って僕を呼んだ。
「パット!」
「リック」
「パトリック殿!!」
『リッキー』
「「パトリック様!」」
……自然と僕の顔も笑顔になっていく。
そう、僕にはやんごとなき御身分のストーカーがいるのです。
『おい、見ろよあれ、王家の馬車だぞ!』
『キャーッ、素敵! 王太子殿下よ!』
ひいぃぃぃい!?
慌ててそちらを見れば、校門前に見覚えのあるスペクタキュラーな馬車と、その隣で優雅に微笑むエセルバート殿下が僕に向かって手を振っているのが目に入る。
「やあ、勇者殿。迎えに来たよ!」
—— しかも、まだ増えるみたいです!!
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