第11話 幽霊が攻略対象ってマジですか? 出会っちゃったよ、第二王子クリスフォード

 翌日。

 昨日見てしまった宙に浮かぶ謎の人物について考えていたせいで、僕はひどい睡眠不足に陥っていた。目元のクマもクッキリだ。


 いや、人間っていうか……多分、見えちゃ駄目な奴だよね、アレ。


 金色の長髪を一つに結び、どう見ても高貴なご身分なのであろう衣服に身を包んだの美形が宙に浮いていた衝撃の光景を思い出す。


 結局、そのままは姿を消してしまった訳だが。


 ……レイの事といい、マックスの事といい、僕には『女難の相』ならぬ『高位貴族難の相』でも出ているのだろうか。


 だってどう見ても高位貴族だったもんなぁ、

 

 もし本当に『高位貴族難』なんて物が存在するのだとしたら、王都はもはや僕にとって死亡フラグ多発地帯デッドゾーンだ。




「おはよう、リック。……昨日はあまり眠れなかったのか? クマが凄いな」


 『体調管理は怠るなよ?』と、教室なのでマクスウェルモードのマックスが話しかけてきた。

 そのまま隣の席に座ると、おもむろに耳元に口を近付ける。


「なんだ、そんなに俺とレイモンドのその後が気になっちゃったか?」


 そう呟いて、ニヤリと笑うマックス。


「うーん、それも気になってはいたんだけどね。なんか幽霊みたいなの見ちゃってさ」


 他の人には聞こえない位の音量で僕もコソコソと喋る。


「はぁ!? ちょっとお前、それ……」


 想像以上に大きな声を出してしまったらしく、クラスメイトの注目を浴びて口を閉じるマックス。



「……パトリックの顔色がすぐれないから、医務室へ連れて行く。すまないが先生が来られたらそう伝えてくれ」


 マックスはそう言うと、僕の腕を掴んで教室からズンズン出て行く。


 ああ、ご令嬢方のギラギラした視線(最近、僕とマックスだけの時でもこのギラギラした視線を向けられるんだけど、何で?)と、一部男子生徒の嫉妬にまみれた視線が痛い。



「……で、昨日あの後何があった?」


 医務室の先生は、グラウンドで怪我人が出たとかで丁度部屋から出て行く所だったのだが、先生方の信頼も厚いマクスウェル様が留守番を買って出る事で、僕達はすんなり医務室に入れた。

 信頼って大事だね。



「えっと、昨日はヴィオレッタ様の馬車で学園寮まで送って貰って……」

「は? 悪役令嬢とまで絡んでんのか? お前ほんとにモブか??」


 うう、また人の事モブって言う。それ絶対褒め言葉とかじゃないよね?


「でもヴィオレッタ様、とても悪役令嬢って感じではなかったよ? お優しかったし」

「まぁイメージ違うのは確かだよな。正直俺も戸惑ってはいる」


 二人で、うーん? と首を傾げる。


「とにかくそれで学園寮まで帰ってきたら、窓の外辺りに浮いてたんだよ、人間が」

「…………」


 マックスは、ボスンッとベッドに腰掛けると、何か考え込む様に組んだ手の上に顎を乗せた。


「どんな奴だった?」

「うーん、金髪で髪が長くて……」


 昨日の幽霊の姿を思い出しながら説明していく。


「こう、髪の毛を一つに結んでて、明らかに上位貴族っぽい服を着た美形だったよ。多分歳は十代後半か二十代前半位」


 説明を聞き終わったマックスは、はぁーっと長いため息を吐いた後、手で顔を覆うと、呻く様に言った。


「……何でリックに見えてんだよ……」

「え? マックス何か心当たりあるの!?」


 僕の安眠の為にも、知っている事があるのなら是非とも教えて頂きたい。


「多分それ、三人目の攻略対象者だ」

「ゆ、幽霊が、攻略対象!?」


 とんでも設定過ぎるでしょ!?

 アンジェ大変だな!?


「落ち着けリック。アイツはまだ生きている」

「はぁ!?」


 生きてる?

 半透明で浮かんでる人間が、生きてる??


「今、ふと気付いたんだけどさ」


 真剣な顔をして呟くマックス。


 え、この上何かあるの? 怖いんですけど。


「この『アイツはまだ生きている』って、『お前は既に死んでいる』の対義語っぽくて面白くない?」

「ごめん、ちょっと何言ってるのか分かんない」

「そうか、一時期流行ったんだがな」


 痩せ我慢の反対はデブフィーバーとか、色々流行っただろう? と何やら不満げにブツブツ言うマックス。


 ……よくわからないけど、異世界って平和なんだね。



「まぁとにかく、アイツはまだ生きていて、攻略対象者だ。所謂いわゆる、幽体離脱の状態なんだよ、今」

「ゆ、幽体離脱? 何者なのあの人?」

「うーん、シナリオ上はもっとずっと後で明らかになるんだけど、数年前に毒殺されかかって眠り続けている第二王子、クリスフォードの霊体だ」


 ギャーーーー!? 想像以上に大事件!!


「ゲームでは主人公ヒロイン以外にその姿は見えないはずなんだがなぁ……。リック、霊感とか強いのか?」

「そんなの無いよぉ……」

「うーん、何でリックばっかりゲームの登場人物の問題に巻き込まれるんだ?」


 それな。


 こんなややこしい状況にばかり巻き込まれて、僕の方こそ何でか聞きたい。



「ま、出会っちゃったもんは仕方ないしな。折角だから有効活用と行くか」

「ゆ、有効活用?」


 マックスの真意が分からず聞き返す。


「そう。さっさと出会わせちゃうんだよ、アンジェリカと」

「え、何でそれが有効活用なの?」


 マックスはベッドから飛び降りると、ニッ

と笑って僕にこう言った。



「エターナルトゥルーエンドを目指すなら、時間はいくらあっても足りないからな。巻けるシナリオは巻いて行こうぜ!」



 ……マックス、エターナルトゥルーエンド目指してくれるんだ!!

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