第3話 クラス委員は転生者 侯爵令息マクスウェルとの出会い

「お前は、何者なんだ?」

「またぁぁ?」


 ◇◇◇



 レイモンド様に何故か付きまとわれる様になって一週間。


 スタートダッシュで盛大にすっ転んだも同然の僕の学園生活には、暗雲が立ちこめているとしか言いようがない。


 朝はファビュラスな馬車で迎えに来るし、昼は上級貴族専用エリアの個室で一緒に食べるし、帰りは教室まで迎えに来るし……。


 今日なんてついに、普通の休み時間に図書館に行って本を読んでいたら隣にいた。

 


 え? これストーカ……ゲフンゲフン。



 高貴なお方はストーカーなんてしない。

 いや、たとえしていたとしても、それはストーカーとは見做みなされないのだ。


 現にレイモンド様は決してストーカー扱いなどされない。

 僕の方が『アイツ、どうやってレイモンド様に取り入りやがった?』という扱いを受けている。解せぬ。



 そんなある日。

 次の授業が移動教室の為、いそいそと準備をしていた僕の元にクラス委員のマクスウェル様が近付いて来た。


 マクスウェル様は侯爵家のご令息で、このクラス内では一番身分が高い。

 

 その上、見た目ヨシ、頭ヨシ、教師からの人望もアリ。と、三拍子揃ったカースト最上位の人物で、これまた僕の様な田舎貴族の嫡男に関わる様なお方ではないはずだ。


「君、ちょっといいかな?」


 レイモンド様とはまた違ったタイプの美形のマクスウェル様は、笑顔を安売りしないクールガイだ。シンプルな銀縁メガネが今日も非常にお似合いである。


「はい、何でしょうか?」

「クラス委員として確認したい事があってね。教室を移動しながらで構わない。少し話が出来ないかな?」

 

 何だろう? 身に覚えはないが、もちろん断るという選択肢はない。

 

 僕がマクスウェル様に同意して、連れ立って教室を出ようとするとまたも教室の中がざわついた。

 

 ああ、また注目されてしまった……。


 ガックリ肩を落として、トボトボとマクスウェル様の後ろを付いて行く。


 周りの視線が気になって、下ばかり向いていたのが悪かった。


 マクスウェル様からのたわいもない質問にいくつか答えながら彼に付いて歩いていた僕は、気が付けば何故か人気の無い裏庭に誘導されていた。


 くるりとこちらを振り向いたマクスウェル様の雰囲気が、教室で見るいつもの彼と何か違う。



「さて……、本題に入ろうか?」

「ほ、本題ですか?」


 ジリジリと歩み寄るマクスウェル様に、思わず二、三歩後ずさる。


「ああ、とぼけても無駄だ。身に覚えはあるだろう?」



 いや、全くもって無い。

 強いて言えば、レイモンド様絡みか?

 でもそれ、多分僕関係ないよ?



 僕が特に何も答えないのに苛立ちを覚えたのか、マクスウェル様は僕の直ぐ真横の壁にドンっと強く手をついた。




「お前、何者なんだ?」

「またぁぁ?」



 激しく既視感デジャヴュを感じる展開に、思わず心の声が口から漏れる。


「また? またって何だ!?」

「あぁー、しまったぁー……」


 頭を抱えてしゃがみ込みたいが、壁とマクスウェル様の間に閉じ込められている今、それすら出来ない。


 うう、いくら美形が相手でも、男に壁ドン嬉しくないよ……。

 


「正直に言え。……お前も『転生者』か?」

「お前?」

 


 実はこの世界には、転生者や転移者といった概念がある。


 この国にも隣国にもごく稀に『転生者』と呼ばれる人間が生まれてくる事があって、その人達は異界の知識や能力を使って様々な恩恵をこの世界にもたらしてきたからだ。


 便利な道具を生み出したり、この世の物とは思えないほど美味しい料理を作ったり、農業に発展をもたらしたり。

 革新的なデザインで、服飾の歴史を変えたと言われている人なんかもいる。


 それぞれの時代の転生者達の功績を上げれば枚挙に暇はないけれど、ともかく現れればその国に莫大な恩恵をもたらすと言われている転生者は、誕生すれば国をあげての慶事とされているのだ。


 ちなみに、きちんと国に申請して認められると、国の『認定転生者』として転生手当てが貰えたり、様々な優遇処置を受けられるらしい。手厚いね!



「ええっと、という事は、もしかしてマクスウェル様は……?」

「ああ、私は転生者だ」



 マジか! 転生者なんて初めて見た!

 さすが都会は凄いな、転生者とか普通にいるんだ!?


 ふぉぉ……と、俄かに盛り上がる僕の様子を見て、マクスウェル様が怪訝な顔をする。



「何を他人事みたいに。お前もそうなんだろ?」

「僕が転生者!? まさか、あり得ないですよ。僕はそんな大層な人間じゃありません!!」



 手と首を光速で左右に振って、ナイナイナイナイ、と必死に否定する。

 ああ、これレイモンド様の時もやったな。



「ふ、凄い演技力だな。だがしかし私は騙されないぞ。お前は転生者だ。そしてこの世界が乙女ゲームの世界である事を知っている。

……そうだろう?」


「お、おとめげぇ……む?」


「しらばっくれるな。お前も転生者でこのゲームを知っているからこそ、シナリオを改変する為にメイン攻略者であるレイモンドに近付いているんだろう!? そうはさせないぞ!!」


 マクスウェル様は僕に向かって人差し指をビシィッと刺すとそう言い放った。

 キラリと光る銀縁メガネ。


「お前の様なキャラクターはゲームには出てこなかったんだ! それがこんなにメイン攻略者に絡むなんてどう考えてもおかしいだろう!?」



 ……。


 …………。


 …………知らんがな!?


 え、何言ってんのこの人?

 高位貴族ってこんなのばっかりなの?

 大丈夫かこの国?



「落ち着いてください、マクスウェル様。控えめに言って全く意味がわかりません」


「意味がわからないのはお前の方だ! 私はゲームという文化を愛する人間として、どんなゲームであれその制作者には最大限の敬意を払っている。クリエイター本気マジリスペクト! この世界は俺が守る!!」



 なんか変なスイッチ入った!!

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