26、陽香ズブートキャンプ

 そして陽香による特訓がはじまった。


「ほらほらぁ、腰を入れて振って!」

「そうよ、パパ、夜のように!」

「ちょっと巫山戯るのは止めてくれねぇ?」

「あっ、ハイ、ごめんなさい」


 流石はAランク探索者。リリィが素直に謝った。いや、おばさん呼びに対するアイアンクロー制裁が効いたに違いない。

 金多ファミリーは三階層の草原へとやって来て、金多はそこで素振りをさせられているのであった。


 その様子は配信中で。

 ただ訓練しているだけではあったのだが、金多の無事を報告し、今の様子を見せるということで陽香に勧められ、配信を行っていたのである。


 :陽香ズブートキャンプw

 :マンツーマンとは羨ましいことで

 :羨ましい? 本当に? 見ろよパパの顔

 :羨ましくないです!

 :w


 だが、金多だけではなく姫織も刀を振っていた。

 金多が自身を不甲斐ないと思ったのと同様に、結局は自分の方こそ守られることとなった姫織も不甲斐ないと思っていたのである。尤も、あの時のことを思い出してキュンと来て潤と来て、リリィに背中を蹴られて一線を越えてしまったのではあったのだが。


 :なんか、前よりもクールプリンセスとパパの距離が近くない?

 :守ろうとした筈の弱々男性に自分が守られちゃえば?

 :キュンっ

 :潤っ!

 :あがっ、あばばばばばっ!

 :ナイトの皆ー、見てるー? 君らの不始末がこんな結果になったよー

 :寝取り(健全)生配信

 :健全な寝取りとは?

 :実はけっこういっぱいありそうw

 :そしてこれは実際はNTRではなくBSS案件なような……


 陽香による金多のブートキャンプ。そこに便乗する姫織。陽香を警戒しつつも健気にパパを応援するリリィがいて、カオスに見せかけたコスモスと見せかけた結局はカオスであった。

 ただ、初心者講座配信などを行っているだけはあって、陽香の教え方は理に適って上手いもの。金多も素直に従うことが出来――ちなみに隣で刀を振っている姫織はすでに氷川流剣術の遣い手であるため、陽香に教えを受けるのではなく自主練だ。


「はいはい常に『身体強化』を使って剣を振る! それで剣に振り回されないように制御する!」

「くっ、おぉっ」

「それで無駄な力は抜くー!」

「ヌくのは得意……ゴホン、なんでもないわ」


 ジロリと陽香に見られればリリィは口を閉じる。

 金多の〝力〟、そして『身体強化』は以前とは比べものにならないものとなっていた。それこそ、下手をすれば振り回されてしまうほどに。

 どうやら配信を見返したところ、リリィの「成長」と関係があるのだろう。今のリリィはロリ体型に戻っていたが、エネルギーは食うがまた少女の姿になれるのだと言った。


『今度はあっちでヤろうね🖤 ぱーぱ♪』

『…………おう』


 しょうがないじゃない、だって男の子だモン。

 それはそれでたいそう良かったが、今まで以上の能力強化に振り回されることになった。陽香の特訓は、その意味でもちょうど良かったと言えたのだった。


 ダンジョンで目覚めたスキルや魔法には、熟練度と思われるものが存在していた。実際のところ感覚でしかないのだが、例えば『火魔法』が使えるとして、初期の頃は丸い火の玉しか形成できなかったものが、しばらく使っていれば長く伸ばして槍状、矢状の火を打ち出せるようになる。そうしたところである。

 それは『身体強化』であろうとも同じ。


 今は常に『身体強化』を発動し、その力を使いこなそうとしていた。今までも『身体強化』は使っていたのだが、陽香――だけではなくリリィや姫織にまで!――に言わせれば全然であったらしい。習熟度に関しても熟練度に関しても。

 そりゃあ、半分腐って惰性で使い、斃せるモンスターしか斃してこなかったのだからそうなのかも知れない。だが、――キツかった。


「はい体力ないよー! 次のメニューにはランも組み込むから!」


:相変わらず陽香姐容赦ねぇ……

:女の子に囲まれて男一人汗だく……だけど羨ましくない……

:え、俺は羨ましいが?

:性癖のるつぼ、リリィチャンネル!


 ――死ぬ……。これが登録者数60万人越えのスパルタ方式……。


 金多は死にそうになりながら剣を振った。

 有名配信者には様々な種類がいたが、陽香は確かに華もあってその陽キャ的コミュ能力、カリスマで登録者数を稼いだ。が、一番の理由としてはその熱血的ストイックさにあった。鍛錬のためならばロリサキュバスリリィの破廉恥をもアイアンクローで押え込む。


 どこぞのBランク止まりの拗らせ破廉恥とは違うのである。

 だがその拗らせ破廉恥はと言えば、


「旦那様、私もお供もします」


 ――なんか、あれ以来丸くなったと言うか、ズレてたのがそれなりに治ってくれたと言うか……。まあ、結局ヤっちゃったし……。ヤバいな、姫織がすげぇ可愛く想えるようになってきた……。


 :やっぱりクールプリンセスとの距離感が……

 :ヤったんだろお前ら! こいつらうまぴょいシたんだ!

 :もはや今となってはなつい単語じゃ……


「はいはいイチャつくんじゃなくって躰を動かす!」

「破廉恥したいです……」

「何言ってんでよ姫織ぃ!?」


 陽香によるブートキャンプは、みっちりと続けられたのであった。

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