30、装備新調

「と、とうとうやって来たぞ……」

「キャハハぁ、パパきんちょーし過ぎー♪ そんなに緊張するんだったらぁ、トイレでヌキヌキしてきてあげようかぁ?」

「破廉恥はイケマセン。ですから私がヌキヌキして差し上げましょう」

「あんたら、ここがお店だって弁えなよ?」


 今日の金多たちは探索者協会に併設されている装備ショップにやって来ていた。お姉ちゃんお疲れ様です。様々なブランドがある中でもここを選んだ理由としては、やはり手堅く、そして第一に探索者協会専属配信者と言うことで割引が利くからだ。


 ちなみに探索者協会に併設された装備ショップと言って、ロクデモナイ輩が賄賂で店を構えているようなことはないのである。先代の支部長の際はなくもなかったそうだったが、今代の支部長になってから一掃された。一掃されたどころかケツ毛すら毟り取る勢いで……オッと、誰か来たようだ。

 閑話休題。


 兎も角、探索者協会の建物に店を置くこの装備ショップは信頼の置けるものであって、強くなったとは言えまだまだDランク探索者である金多はここで十分なのである。尤も、たとえランクが低くとも期待の持てる探検者であれば、低ランクの頃から企業が支援して自社の装備を使わせることもあるのだが。支部長から期待されている筈の金多には、そのような話はとんと来ないのである。何故だろうか?

 コンプライアンス? リスクヘッジ? 知らない子ですね。


「えっと、こっちがDランク相当の装備売り場だな……うわっ、やっぱ高っけぇ!」

「そうかぁ? Dランクだとこんくらい出せるだろ」

「自分の命を預けるものですし」

「………………」

「パパかいしょー見せてー」


 地味にリリィの言葉が一番心にずっしりとキた。だが、確かに自分の命を預ける装備であって、Dランクであればこれくらいは稼げるらしいのだ。それでも金多にとってはまだまだ高いのだが。

 ……以前とは比べものにならないほど収入は上がっていた。しかしそれは主に採集の結果であって、モンスターはではたまに落ちるドロップアイテムしか換金出来てはいなかった。――だってリリィたんに貢いでいるのだもの。


 ――まあそもそもリリィがいなかったらここまで来れていないから必要経費だと思うし。……なんか、最近リリィに魔石を食べさせてやるのがクセになっていると言うか……。


 これを沼と言わずになんと言おう。リリィたんのお口は沼のように空いていた。


 ――後はスパチャの金ももうすぐ入ってくるから、これくらいなら多分使っても問題ないとは思うんだが……、だけどあいつらすげぇな。リリィも調子にのって煽るから、何というか、探索者チャンネルというよりは、


 メスガキキャバクラ配信。むろんリリィは煽っているだけであって、ラインを越えてはいなかったが、

 破廉恥です。


 ただ、まだそのお金は入ってきていないのであって、それにまずはリリィに買ってやるのがスジなのではないかと想っている金多パパである。


 ――まあ、今あるお金は探索で稼いだものだし、これで装備を買うのは良しとしておくか。


「あーっ、これ良さそう!」

「おい、お前はブーメランパンツ一枚で探索に出かけろと? ってかこれマジで一枚で装備として完結してんのかよ。確かに防御力は強いみたいだけど、他の衣類を着用すると防御力が落ちますって、なんて呪いの装備だ……」

「むっつりちゃんにはこっち。もっとオープンになりなさい?」

「ッ、これ、なんでこんなものが売られているのですか……こちらもこれ単体で着用とは……っ、破廉恥です」


 そうび〝あぶない水着〟。

 それは、所謂スリングショットと呼ばれる水着型の装備だった。上も下も大事なところがみえてしまうような、キワドイどころか完全にアウトな代物だ。


 ――ってか本当になんてものが売られているんだよ……。ここ、探索者協会だよな……?


 あの支部長ならば……いや、あの支部長でも流石に置かないとは思うのだ。


「んじゃあ、オレはどんなのが良いのかよ」

「えーっとぉ、おば……ぐぇっ、お姉さんはこれかな」

「おーっ、確かにオレに似合いそう……って、なんだよ! 特攻服にさらしって! お前はオレをなんだと思ってんだよ!」


 と、リリィの首根っこを捕まえたままの陽香が言う。

 まあ、だから、そういうことなのだろう。


「……ってか本当にこれが探索者向けの装備なのかよ……」


 と金多がチラリとコーナーの名前を見れば、

〝夜の探索者〟コーナー。


「クソがッ! そんなコーナー作るんじゃねぇよ!」


 支部長だ。

 これならばあの支部長なら許可を出すに違いないのである。


『探索者人口を増やさないと、ね?』


 とかなんとか。

 そして〝夜の探索〟のパンツに防御力が必要な理由とは? それ以上は考えてはイケナイのである。

 と、


「………………」

「姫織がそっとスリングショットを買いに行こうとしてるし……」


 やはりむっつりちゃん。


「旦那様はお嫌いですか?」

「…………大好きだけどさぁ! チクショウ!」

「ふふっ、あたしの目に狂いはなかったわ」

「オレの特攻服もか?」

「………………。あっ、痛い痛い痛い」

「一応売り場だから静かにしようか? 俺が言えたことじゃないけれど」


 ファミリーでワチャワチャとやりながらも、金多は彼女たちの意見も取り入れつつ装備を購入したのである。


「えーっと、パパのサイズは――」

「なんでお前が知ってるの?」

「えぇー? だってあれだけ毎日躰で測ってれば分かるでしょう? きゃっ🖤」

「恥ずかしがるタイミングが遅いっ!」


 サイズ合わせも行ってもらって、満足な買い物が出来たと思う。

 購入したのはモンスターの皮を使ったレザーアーマーだ。これまでの戦い方からすれば金属鎧では重く、動きの妨げになるためにそうしたチョイスとなった。剣も二段階ほど良いものに替え、すでに初心者は脱却していた筈だったが、ダンジョンで最低限の生計を立てていくのではなく、より高みを目指すのであればむしろようやくはじめの一歩を踏み出せたと言ったところ。


「よっしゃ、身が引き締まる思いだぜ」

「えっ、どこが? どこの一部分が引き締まって硬くなったの?」

「旦那様、ご立派です」

「ははっ、なんか金ちゃん初々しくて良いなぁ」

「………………」


 意気を高める金多を他所に、皆はやはりいつも通りのようだった。

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