34、7階層へ突入
『ぼくは配信中にテイムモンスターのロリサキュバスにキスをして一時的にアカウントを停止されたエロパパです』
「――なぁ、これ、外しちゃ駄目か?」
「駄目です」
「………………」
ひそひそ、ひそひそ
ダンジョンに這入った金多は、姫織ぴしゃりと言われ、周りからひそひそ声が聞こえていた。
前回、自分はまだ強くなれると知って、感激のあまりにリリィにキスをしてしまった。キスなんて毎日している――と言うかされてもいるが、世間的には、配信的にはアウト判定をされてしまったようで、アカウントを一時停止されてしまった。が、それはケジメのようなものであったらしく、探索者協会の担当がアカウントの一時停止を行って、すぐにまた停止を解除していたのである。そんなやり方をして大丈夫か、とも思うのだが、まあ、良いのならば良いのだとしておこう。それでアカウントの停止は即解除されたのであったが、姫織にこんな札を首からかけられてしまったのであった。
「あはははははっ、ぶひゃひゃひゃひゃひゃひゃっ」
――おいリリィ? 指を指して嗤うんじゃありません。後、お前の笑い声、キモキモリスナー混じってるからな?
そしてコメント欄やスレで、「来たー! アカウント停止芸人w」と言われたのは忘れてやらないのである。
と、そのようないつもとの違いはあったのだが、今日は6階層に突入して相変わらずヴォーパルバニーを狩ることにした。しかし普通6階層でここまでヴォーパルバニーが出現することはないらしく、これではBランクならば複数人、ソロならばAランクは必須とされる状況らしかった。
――その条件は満たしていた。
そうして謎の大量発生ヴォーパルバニーを狩って、リリィたんのもぐもぐタイムを繰り返して、そうしているうちのことであった。
「もういっそ先に進んじまうか」
「え?」
陽香が提案していた。
「いや、今はオレたちが狩ってるんだから、リリィを強くするためだって割り切って、別のCランクやBランクのモンスターの魔石を取ってきても良いんじゃねぇかって思ってさ」
「それは――……」
以前であれば断っただろうが、今の金多としてはまずはリリィを強化しないことにはどうにもならないことが分かっていた。それは陽香にしてみれば支部長からの依頼の範疇であって――一探索者に破格の待遇ではあったが、金多は探索者協会専属配信者となったのだ、これは投資であって専属配信者へのバックアップに入るということらしい。向こうだって、リリィたんグッズとか作っているのだし――、問題はないそうだ。
姫織はまあ姫織だから。
今の金多には断る理由も拒否感もないのであった。
「そうだな、陽香が良いならお願いしたい。リリィも姫織も、良いか?」
「あたしは問題ない」
「私は何処まで行くかにもよりますが、進むこと自体は問題ありません」
「おっしゃ、じゃあそうしようか」
金多ファミリーの方針はそうなったらしかった。
◇◇◇
6階層でヴォーパルバニーを駆逐した後は、その先に進むことにした――何故かは分からないが、そう決めた後では明らかにヴォーパルバニーの出現率が下がったのだ。
――まさかとは思うけど、俺たちに強い魔石を与えるためとか? ……ははっ、まさかな?
金多――だけではなくパーティメンバーも訝しがりながら森を進めば、7階層へと向かう階段が見えたのだ。
「じゃあ、まずはオレが前衛で、次に姫織、んで金ちゃんと、リリィは後ろな」
「分かったわ、後ろからパパを狙うのね!」
妙にサキュバスの先がハートマークになった尻尾がうねっていた。
「止めろよ! 絶対に止めろよ!?」
「ふふっ♪」
「ふふっ、じゃねぇんだよなぁ……」
思わずお尻を押さえそうになってしまう金多であったが、流石のリリィであっても、危険度の上がるこの先で可笑しな真似はしないだろう。……しない、よね?
一抹ではない不安があったが、今はもう信じる他ないのである。
「んじゃあ、行くぞ」
「ああ、」「はい」「おっけー♪」
陽香の言葉に、金多、姫織、リリィが頷くのであった。
◇◇◇
7階層は沼地のフィールドとなっていた。
如何にも毒がありますと言わんばかりの紫の色彩で、森のように視野が利かないワケではなかったが油断できる筈がない。
「ゲコッ、」「ゲコッ」
トード。
中型犬ほどのサイズのガマガエルである。ランクはEランクであって、金多でも斃せるが、如何せん毒の沼に潜んでいただけあって毒、麻痺の状態異常を持っている。囲まれて麻痺液や毒液をかけられてはたまったものではなく、態と毒沼を巻き上げて浴びせかけようとしてくるところも質が悪い。
ボンッ!
「はっ、雑魚が」
陽香が手を振ればトードが爆ぜていた。彼女の火炎でトードも毒沼の飛沫も容易く蒸発させられる。
ベチャッ、と魔石が落ちていたが、
「あれはいらないよな?」
「「いらないいらない」」金多とリリィがハモっていた。
「ま、Eランクだしな。Eランクとかちまちま集めるよりも、さっさとCランクが出て来るところまで飛ばすぞ。走るぞ」
「ああ、」「はい」「じゃあパパに乗ってこー♪ 訓練訓練」
「ぅえ? まあ、良いぞ」
「羨ましい……」
リリィが金多に肩車で乗っかり、破廉恥さんは破廉恥とは言わない。破廉恥にカウントされなかったのか、或いは――、
金多ファミリーは走り始め、毒沼を尻目に進んでゆくのである。
「はぁッ!」
「やっ!」
「GO、GO! パパー♪」
――ダンジョンって走るものだったっけ?
陽香が焔を、姫織が氷を。
そしてリリィが金多の肩車で拳を振り上げる。
チラっとではあるが他の探検者たちもいるのである。
ギョッとした顔をされ、
『あ、リリィファミリーだ』
『7階層を走り抜けてやがる……』
:ちょいとお先失礼しますぜ
:何キャラなんだ……
:家族の和気藹々……、と言えるのかなぁ? モンスター爆散したり氷で射貫かれたりしてますけれどw
転がる魔石やドロップアイテムを尻目に、金多たちは進んでいったのだ。
そして辿り着いたのが、
「オラァアアッ!」
:オラァいただきました
:オラァたすかる
:おらぁたすかるだべ
:またいるぞw
毒沼から外れた裏寂れた木立が乱立する林で、陽香の叫びと爆音が響き渡った。
「KISYAAAAッ!」
それによって悲鳴を上げながら斃れてゆくのは紫の大蛇であった。
ポイズンバイパー。
巨大な毒蛇であって、Cランクのモンスター。
この七階層に点在する主と呼ばれる類いのモンスターであった。ここ七階層には数えるほどしかいないがCランク上位のモンスターが存在しているのである。
「すっげぇな……」
「あそこまで容易くはありませんが、私も斃せますからね、旦那様」
「あたしだってー」
「あ、ああ、分かってるって……」
姫織とリリィが金多に念を押していれば、大蛇の巨体が黒い煙となって消えた後に残された魔石を陽香が取ってきた。ヴォーパルバニーもCランクモンスターではあったが、あちらよりも見るからに魔石の色艶が、濃度が高いように見受けられた。
「ほらよ、ヴォーパルバニーの時みたいに量は手に入らねぇが、あれよりも力は上だぞ」
「ありがとう、あーん……」
「オレが入れるのかよ、ほれ。こらぁっ、指までしゃぶるんじゃねぇよ!」
――仲良いなぁ。
と金多見ている前でリリィは魔石をバリボリと噛み砕くと呑み込んでしまうのだ。
「ごっくん、うん、まあまあね」
チロリ、とリリィはピンクの舌で唇を舐めながら言っていた。
「それはオレの指のことじゃあねぇだろうな?」
:姉御の指ペロペロ
:ちゅぱちゅぱ
:ぢゅぶるるるるぅッ!
:やっぱ俺らキモキモリスナーだぜいぇあ!
「クソどもが」と姉御が独り言ちる。
「ま、ここは繋ぎぐらいだからな。試しにやってみたがやっぱりそれほどじゃあなかったか」
「あの兎さんたちよりは美味しかったけどねー」
「やっぱもっと先に行かなくちゃいけねぇってことだな。じゃあ、ドンドン行くか」
「おう!」「うんっ♪」「はい」
金多ファミリーは歩み続けるのだ。
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