35、快進撃

 8階層も沼地であって、出没するCランクモンスターも増えてきた。


「オラァッ!」

「ハァアッ!」


 ポイズンバイパーを陽香の焔が爆散させ、姫織の冷気がマッドゴーレムを凍結させる。マッドゴーレムとは泥状のゴーレムである。よりにもよって毒沼の毒で泥濘んでおり、万が一にも飛び散らせてしまってはこちらが毒を食らうことになってしまう。そのため陽香よりも姫織が  陽香も跳んでくる泥も含めて蒸発させることが出来るのだが、効率としては姫織の方が良いだろう。それに姫織も、ここに来てメキメキと腕を上げ、氷の技を使いたがったのだ。

 そして、


「はぁッ! 〝サキュバス弾〟っ! いぇあっ!」


 ドォオンッ、ぉおンッ!


 ――俺の頭の上から撃つのは止めてもらえねぇかなぁ……。髪の毛が心配だ……。


 せっせとCランクモンスターの魔石を貢ぐことで、リリィ魔力弾を撃てるようになっていた。以前ダーティナイトに〝サキュバス砲〟として撃っていたが、あれは姫織の〝氷鉄砲〟と同じように、大威力過ぎる上に消耗も大きいため、このように継戦が問われる場面では使い勝手が悪かったのだ。それがせっせと魔石を摂取することで、小さい魔力弾で撃てるようになった。

 言うならば今までは〝波〟でぶっ放すことしか出来なかったが、〝弾〟として小出しに撃てるようになったと言うことだ。

 ――金多に肩車されながら撃てるほどには。


 :パパ砲w

 :固定砲台パパ

 :いやいや移動砲台だろw

 :移動砲台=肩車。合体技だぜぇ

 :パパとして本望なりw


 コメント欄が嬉々として打ち込まれる前で、雑魚敵にはリリィが魔力弾を撃ち込んで薙払ってゆく。

 そして大物の魔石を選んで摂取してゆくのである。


 小物も足しにはなるのだが、今回は行けるところまで行ってリリィの強化に努めようということになっていたため、大物狙いだ。

 途中で姫織製のお弁当を食べて昼食を取りつつ、8階層も駆け抜けて9階層へと到達する。このダンジョンのそれぞれの階層はそれなりに広かったが、次の階層への階段までの距離的に、行こうと思えば10階層程度までならば急いで日帰りで行けたのだ。


 ただし、Dランク以上の探検者のスピードとスタミナありき、と言う条件はついたのだが。

 そうして8階層も突破した。

 9階層は、


「うぇみだーッ!」

「頭の上で叫ぶんじゃねぇよリリィ……」


 と、注意をする金多であったが、


「ごめんなさい、パパ、海に来た事なんてはじめてだったから……」


 :これだから子供とお出かけしてくれないパパは

 :これだから子供と遊ばないパパは

 :リリィたん、そんなパパじゃなくて新しいパパともっと良いところへ行かない? はぁはぁ

 :通報しました

 :通報しました

 :自首しました

 :潔いなw


 ――だってダンジョンにばっかり来ているんだから仕方ないじゃないか……、それに俺、リリィとちゃんと遊んで……いや、遊ばれてる?


 と金多が思っていれば、


「あー、やっぱ沼地の後の海は清々しいぜ! ンじゃあ、この階層も同じように抜けて、10階層で魔石を稼ぐか!」


 陽香がうーんと伸びをする。

 そのたわわが防具に押さえられていることが残念だ。


 ――ってか陽香、今まで以上に元気だな。海に来ると元気になる……やっぱり陽キャか。


 それに青空と太陽に――ダンジョンの中に太陽があるのはもはや気にしてはならぬだろう――彼女の赤髪は良く映えた。


「んじゃあ、出発だ」


 と砂浜で陽香が言えば、


 :出っぱつですな、姉御

 :出っぱつ出っぱつ~


「お前ら、態とチョイス古くしてるだろ? ぁあん?」


 :イヤイヤソンナコトハナイヨ

 :あぁんたすかる

 :あぁ~んっ

 :キモキモリスナーだ! 出合えーッ!


 ――あっちのコメント欄、仲良いなぁ……。


 むろん、今回も陽香の方の配信も行っていたのである。

 そうして進めば、やはり海のフィールドだけあって、魚のモンスターや蟹のモンスターが飛び出して来るのである。ヤドカリも。砂浜を歩いていればざばぁ、と湧き出してきたのだ。


 それらを次々と屠って、ランクの高そうな魔石はリリィたんへ。

 やはりAランク探検者とBランク探索者、そしてAランク相当(いや、上がっている?)モンスターのパーティであれば9階層でも蹂躙できるのだ。だが、


「まずは10階層まで行って、11階層はチラッと見るだけにしておくか。そっからが中層だ。今の金ちゃんの実力と装備じゃあ、探索することも難しいぜ」

「中層……」

「ずっぽずっぽね」


 それは抽挿だ、とツッコんだ方が良いのだろうか。突っ込むだけに。

 と、


「危なっ!?」

「良い反応じゃねぇか……」

「なあ、俺の頭の上でやり合わねぇでくれねぇか……?」


 陽香が放った焔をリリィの〝サキュバス弾〟が相殺していた。金多の頭の上で。

 陽香も相殺できると思って放ったのだったろうが、恐ろしいことこの上ないのである。そうして9階層も通り過ぎて10階層へ。ここでは、


「うぉっ!? 大ウミヘビ……?」

「リトルシーサーペント、Bランクのモンスターだ。ここにはこいつが出るんだよ。だからまあ、ちょうど良いと思ってな!」


 ガィインッ!


 陽香が意気軒昂と鉄甲を打ち合わせた。


「姫織は行けるか?」

「はい、こいつとは相性が良いですし、私の力も増しています」

「じゃああたしはここから牽制で〝サキュバス弾〟撃ってるからー」

「ま、オレ一人でも十分なんだが、こいつはデカいからな。慎重にしておくことに越したことはねぇ」


 陽香の構えた鉄甲が赤熱をはじめる。

 姫織が構えた刀は冷気を帯びはじめ、リリィは腕にリボン状のピンクの魔力を巻き付け、その上で両手の平の間で魔力弾を形成しはじめる。金多の、頭の上で!


「なあ、俺の髪の毛焦げたりしないよな……?」

「大丈夫、パパが禿げてもちゃんと愛せるから」

「それは嬉しいが俺の髪の毛も守ってくれっ!」


 :そう言ってくれる娘が欲しかった……

 :だけど禿げてるだけで済んでるんですか? 太っていたり……

 :ぶきぃいいいッ!

 :オーク様がお怒りじゃああ~~w


 コメント欄が呑気なのはいつも通りだったが、金多も緊張はしていなかった。それはやはり、この三人の女性たちが頼もしすぎたからだろう。


「GIAAAA……」


 リトルシーサーペントは唸り声を上げると、その巨体で一気に――、

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る