36、VSリトルシーサーペント

「ハァアッ、オラァッ!」


 鼻先から突っ込んで来たリトルシーサーペントのその鼻先を、陽香は赤熱した鉄甲でぶっ叩いていた。リトルが付いていても奴は巨体であった。ポイズンバイパーよりも尚デカい。口を開けば人の身長ほどもある大きさの相手を、真正面から相手取るなど正気の沙汰ではない。流石に真正面から受け止めることは出来ないらしいが、その鼻面を殴って逸らすなど、度胸も膂力も恐るべきもの。


「GIOOOOOッ!」


 憤怒の声を上げ、リトルシーサーペントは今度はその巨体を以て陽香を押し潰そうとしてくる。が、


「そんな簡単にやられる分けねぇだろうが、〝爆焔イグニス〟」

「GIOOOッ!?」


 跳び退ったと思えばすぐさま蹴ってリトルサーペントの横っ面に向かうと、陽香が拳を打ち込んだ箇所が爆発した。


「まだまだ行くぜぇ! オラオラオラオラオラオラァ!」

「GIッ!? GIAAAAAッ!」


 陽香の打ち込む拳が爆発し、リトルシーサーペントが圧倒される。だが、Aランクだからと言ってBランクモンスターを瞬殺できるワケではないのである。探索者のランクは、一つ下のモンスター相当と考えてくれれば良い。尤も、Aランク探索者、Bランクモンスターの中でも幅はあるのだが。


「GIAAAAAッ!」


 打ち込んでくる陽香に苛立ったリトルシーサーペントは、その巨体を振って陽香を薙払おうとする。

 と、


「氷川流剣術〝氷鉄砲〟」

「GIIッ!? AAAAAAッ!」


 姫織の刀から打ち出された氷が、リトルシーサーペントの胴体に着弾して氷の華を咲かせた。


 ビキッ、ビキキキキッ……


「GII、AAA……ッ」


 その氷がリトルシーサーペントの躰を蝕むように広がると、見るからにリトルシーサーペントの動きが悪くなっていた。そこに、


「ははっ、こりゃあイイや」


 両手の鉄甲を赤熱させ、尚且つ赤いオーラのようなものを纏わせた陽香がその手を組むと、

 縦に一回転。


「流星、〝赤星〟」


 ぉおおオンッ!


 リトルシーサーペントの頭がひしゃげるほどに打ちつけられた。


「GOOッ、GIIIッ……」

「相変わらずタフだなぁ。だが、もう一丁っ!」


 陽香がもう一回転して打ちつければ、それでリトルシーサーペントの頭は叩き潰されて黒い煙となって消え始めた。

 残されたのは、かつて姫織にもらったような、一目で高純度と分かるBランクモンスターの魔石。


「すっげぇ……っ」


 金多は二人の勇姿に、圧倒されていたのであった。

 が、


「あたしだって出来るんだからーっ! 次はあたし、あたしがやるからね!」


 今のやるはヤではなく殺であったに違いない。


「ああ、良いぜ、リリィ、ま、その前にBランクの魔石、食っとくか?」

「うん、食べるー、あ」

「え、お前、そこまで投げろってこと? まあ、ほら」


 ぽいっと陽香が投げた魔石はリリィたんのお口へとホールインワン。


「ガリッ、ボリィッ、ごくんっ、漲るわ、ぱぅわぁがっ!」


 ――Cランクでも同じようなこと言ってたけど、ちゃんと変わってるん、だよな……?


 頭の上から聞こえた咀嚼音に、金多は不安にも思っているのだった。


 そ・れ・か・ら――、



   ◇◇◇



「〝サキュバス砲〟ッ!」

「GIIAAAッ!」


 ――だから俺の頭の上からやるのは止めてくれないかなぁ、すげぇ髪の毛が心配なんだがぁ?


 と、頭の上からうちら出されたリリィの〝サキュバス砲〟でリトルサーペントの鎌首が大きく吹き飛ばされれば、


「オラァッ! 〝赤星〟ィッ!」

「氷川流剣術裏伝〝氷断ち〟」


 斬ッ!


 陽香のフィストハンマーがリトルサーペントの頭を叩き伏せ、その首を姫織が氷の刃で刎ねていた。

 陽香の〝赤星〟二連撃よりもこちらの方が素早く確実に斃せたのだ。


 :見ろ、Bランクモンスターがゴブリンのようだ!

 :いやそれはない

 :上手いこと言おうとして言えてないの草ぁ!


 ――なんてーか、よくもまあこれだけBランクモンスターを容易く斃せるもんだ……。


「パクン、ガリガリごっくん。よぉし、次ぃ!」

「おっしゃあ、釣ってくるぜぇ!」

「すぅう……」


 頭の上のリリィが魔石を呑み込むと吠え、陽香が嬉々として次のリトルサーペントを湧かしにゆく。姫織は精神統一。流石に10階層と言えどもリトルサーペントはここで上位のモンスターだ。数は少なく、しかし湧きポイントは要注意地帯として知られているため、それぞれのポイントを回りつつ確実に狩っていた。


 魔石はリリィに回しているため溜まってはいないのだが、金多の背負っているリュックサックにはリトルシーサーペントンの素材がぎっしりと詰まっていた。11階層から先に向かうためには、装備を充実させる必要があるらしく、これを使ってオーダーメイドで装備を作成してもらう必要があるらしい。

 それって、お幾ら万円……?

 と心配になったのだが、


『もう結構稼げるようになってきてるだろ。それに配信でのスパチャも入ってくるだろうに』と陽香には言われていたのである。


 メスガキキャバクラ配信的に?

 もしも対面で行っていたのなら、胸の谷間(リリィに谷間はないけれど、まだ)やパンツの中に札束をもらっていたことだろう。パパは許しませんが!

 配信のスパチャで助かったなぁ……。と思った金多ではあった。

 しかし、


 ――俺のリュックサックにはBランクモンスターの素材がぎっしりって……、怖ぇえな……。


 今まで、リリィと出合うまではモンスター素材はFランクモンスターのものであって、1階層や2階層の浅ところで取れる素材をチマチマと採集していた身であった。それがBランクモンスターの素材とは。


 ――俺が斃したワケじゃないけど、ポーターとしても本来は俺じゃあ連れてきてもらえないくらいだからな……。まあ、怖いけど気合いを入れ直すか。


 ぐっと丹田に力を込めれば、


「ほら、お代わりだぜ!」

「〝サキュバス砲〟撃つわよ! パパ、薙払えって言って、薙払えって」

「……私もお願いしても?」


 ――姫織は何をする気だ?


「じゃあ、薙払え」

「薙払えはいりましたー! はぁッ! 〝サキュバス砲〟っ!」

「GIAAAAAッ!?」


 ――そんなドンペリみたいに……。


 メスガキキャバクラ配信。スパチャもチラホラと飛んでいた。

 それで斃されるリトルシーサーペントたちには、金多は憐憫の情を禁じ得ないのだ。



   ◇◇◇



 そうしてリトルシーサーペントを乱獲して、リリィに魔石を食べさせ、必要な素材以外は売って資金の足しにして、金多にはとうとうオーダーメイドの装備が届いて、11階層へと進む準備が整ったのであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る