37、11階層の洗礼

「おぉ、前よりも熱くないぞ。これが装備の力か」


 11階層に降り立った金多は思わず快哉を叫ぶ。

 今の彼は新しく設えたリトルシーサーペントの装備に身を包んでいた。ようやくオーダーメイドの装備が完成したのである。リトルシーサーペントの装備には軽微だが環境耐性が付与されているらしく、この11階層でもそう熱さを感じなかった。


 11階層は溶岩流れる火山地帯であった。

 成程これでは今までの装備では耐えられぬだろうし、防御力の点でもそう言えた。これまでに比べれば速すぎるほどの装備交換であって、金多には躊躇う気持ちも強かったが、それだけ今の攻略スピードが跳ね上がっていることでもあって、嬉しい悲鳴と言う奴だったのかも知れない。

 ちなみに陽香、姫織、リリィは装備に頼らない自前の効果や耐性で、この高温地帯に対応しているのだと言う。しかし、


「んー、金ちゃんも装備だけの力じゃあなさそうだけどな」

「え? そうなのか、陽香」

「ああ」


 とニヤリと笑う貌も陽香にはよく似合う。


「金ちゃん、お前、強くなってるぜ。自分の〝力〟だけでこの熱さに耐性を持てるくらいにはな」


 と陽香はそう言った。


「えっ、えぇえっ!?」

「ははっ、やっぱそういう時は可愛い顔するよなぁ」


 :おやおやぁ? 姉御にとうとう春が!

 :だからその二股の上に娘にも手を出す鬼畜男はいけないとあれほど……

 :言葉にすればむしろ存在自体がアカウント停止案件なパパw


 コメント欄も俄に沸き立っていたが、それ以上に金多のことであって、そしてこの環境のことであった。


「マジか、俺、強くなったのか……」

「ああ、まああれだけリリィが食っちゃ吐きしてればな」

「あたしがものぐさなように言わないでよね! しかもおっさんみたいな!」


 だが金多に肩車をされたまま魔石を投げられては食べ、手から〝サキュバス砲〟や〝サキュバス弾〟を吐いていたのは間違ってはいないのだ。実際、リリィはまた少し大きくなっていたのである。どこがとは言わないが。

 頭にのし掛かられてる箇所と頬を挟み込む太股の柔らかさは確実に増していた。

 と陽香は金多に言うのである。


「だからな、自信持っていいぜ、金ちゃん」

「ああ、ありがとう……」


 そう言われて金多は照れくさかったが、この11階層――このダンジョンでは中層と言われる区画――からはますます人類を拒む仕様となるのである。ここに少しでも適応出来ているとなれば、やはり探索者として自信を持って良いレベルだろう。

 金多は、Aランク探索者である陽香から言われ、自分のその成長を噛み締めた。


「んじゃあ行くぜ、と言いたいところだが……」


 陽香は不敵な笑みを流れる溶岩に向かって浮かべると、


「向こうから来てくれたぜ。ほら、金ちゃん、やってみろよ」

「え?」

「大丈夫、パパはあたしが守るから!」

「旦那様の勇姿を見せてください」

「ッ」


 彼女たちの言葉に押されて金多は剣を構えた。すると、


 ザバァアアッ!

 ザバァアアッ!


 マグマの中から羽の生えたボール状のモンスターが現われてきた。まるで火山弾に羽が生えたとでもいうのだろうか。そのモンスターたちは、


「ッ! 来たな!」

「パパ、今のパパなら剣に魔力を伝えれば切れるから♪ 油断しないでイこう」

「ああ!」


 今リリィにツッコんでいる余裕はない。金多は構えた剣に魔力を纏わせると、


 ――ッ、いつもより魔力の流れがスムーズだ。それに、スッキリと流れてくれる!


 これまで、彼女たちが無双している最中に金多もモンスターたちと戦ってはいた。だがスピード重視で来たために、雑魚を蹴散らし、勘を喪わない程度にしか戦ってはこなかった。今のように、今まで出合ったことのないモンスターに気を張って、しっかりと剣に魔力を通すようなことは久しぶりであったように思えていた。


 ――これなら、行けるッ!


 今迫り来るのはDランクモンスターであるマグマボール。見た目どおりにその躰は岩で出来ており、同じDランクモンスターであるトロールのように、柔らかい箇所や、動物的に急所と呼ばれる場所を狙って斃すことは難しい。こいつらは魔法で打撃で叩き潰すようなモンスターなのである。普通なら。だが、


「覇ァあああッ!」


 金多は魔力を纏わせた剣で、


 一閃!


 パギッ、バギッ……


 マグマボールはその正中線で真っ二つとなっていた。


 ざぁっ……


 マグマボールたちは黒い煙となって消えていった。

 後に残されたのはDランクの魔石だけ。


「パパ、ちょうだいちょうだい」

「お、おぅ……」


 今までのCランクよりも低いDランクだけど良かったのか?

 流石の金多でもそのような無粋なことは言わない。


「あむっ、ちゅぷぅっ、レロレロ……」

「俺の指を掴んでしゃぶるんじゃねぇ! 離せッ! くっ、涎でべちょべちょじゃねぇか……」


 :なんてご褒美だ!

 :リリィたんにもぐもぐされてレロちゅぱされるだとぅお!?

 :お巡りさんこいつらです

 :私がお巡りさんだが?

 :あ


「ガリッ、ボリィッ、ごっっっくんっ♪ ふふっ、やっぱりパパにもらうと美味しいわね」

「はっ、今までのオレらのだと物足りなかったってか?」

「そうじゃないけど、なんかねー♪」

「へっ、仲の良いことで」


 コメント欄がわちゃわちゃとし、ご満悦のリリィに陽香が生温かい目を向ける。だが、


 ――本当だ、俺、ちゃんと強くなれてる。これからリリィがどこまで強くなれるのかは分からないけど、俺も一緒に……いや、どこまでだって強くなって見せるさ!


 金多は今の手応えを噛み締めていた。指べちょべちょのままで。


「私が舐め取りましょうか?」


 そんなのもっとべちょべちょになるだけじゃないか!

 と、破廉恥さんにはツッコんだ方が良いのだろうか?(その前にツッコむことがあるだろうと言うツッコみは聞かないのである)

 と、


 ザバァア、

 ザバァア、


「あ、」


 マグマボールたちのお代わりが飛び出してきた。


「ンじゃあ金ちゃん、久しぶりにやってみようか?」

「おしっ、やってやるよ!」


 金多は剣を構えると、何匹も現れて来たマグマボールに、三人が見詰める前で立ち向かっていくのであった。



   ◇◇◇



 ――……いや、斃せるけど、しっかり集中して魔力を研ぎ澄ませてねぇとキツいな……。


 やって来たマグマボールは思っていた以上に数が多かった。それらを練った魔力と『身体強化』で切り捨てていったのは良かったのだが、数が多く、徐々に集中が緩まると手応えが硬く危なくなる時があったのだ。


 ――持続力、それが俺の課題か……。こうも立て続けに来られると、俺だけじゃまだだ危ういな。


 持続力はいつだって男にとっての課題である。――他意はない。


「よっしゃ、まあ及第点って言ったとこかな」

「厳しいな」

「いいや、甘甘だろ? ここまで連れて来てやったんだからよ」

「まあ違いねぇ……」


 ふぅ、と金多は一つ息を吐く。


「で? 今日はここをある程度探索したら、10階層で泊まるんだよな?」

「ああ、そのためにキャンプセット一式も買ったし、持って来てもらったんだからな」

「わぁーい、パパとお泊まりだー♪」


 :男一人と女二人、そしてサキュバスが一匹、ナニも起こらない筈がなく……。

 :俺これ知ってるぞ! エロ漫画でよくある奴だ!

 :はは配信は続けてくれるんですよね!?

 :そんなことしたら問答無用で垢BANですわw


 と金多は言うのである。


「リリィ、分かってるよな?」

「分かってるって、お姉ちゃんをハ●るバキュンのよね?」


 :担当さん良くやった!

 :的確に打ち抜きますなw


「金ちゃんもリリィも、おかしなことをしようとしたら燃やすか潰すからな?」

「やらないぞ?」

「ヤれないの?」

「ヤれねぇよッ!」と陽香が。

「私は一向に構いませんが」

「配信はしなくても自重しようか!?」


 破廉恥?

 知らない子ですね。

 発言的にバキュンされるか微妙な感じでありながら、四人は11階層の探索を続けるのであった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る