38、とうとう……

「このケダモノ……」

「待ってくれ! まずは話合おうじゃあないか!」


 人間には言葉があるのだから!

 と手を掲げる金多の前では、顔を真っ赤にしながら服を押さえる朝比奈陽香がいたのであった。金多の後ろには見るからに艶々とシていらっしゃるリリィと姫織さんが。

 昨夜、四人でテントを作って就寝すれば、


 ガサゴソ、ガサゴソ……


『止めろっつったよなぁ! リリィ!?』

『しーっ、声立てちゃダ・メ🖤』

『くぅうッ』

『旦那様、私も……』

『お前は取り締まる側だった筈だよなぁ!?』


 かつては。

 そのうち、


『うっ……』


 ――オイオイオイオイ、今の『うっ』はなんだよ、今の『うっ』は! それにやべぇ、こんな匂いするのかよ……。


 陽香お姉ちゃんが起きない筈がなかったのである。

 そして、


『起きてるの、分かってるんだからぁ♪』


 ビクゥッ!


『ちょっ、リリィ、ダメだって止めろって……』

『パパ、パーティの親睦を深めるには必要なことなのよ!』

『違う! うちはそんないかがわしいパーティじゃありません!』


 説得力はまったくないけれど。

 そのうちに、


『先っぽだけ、先っぽだけだから!』

『止めろよリリィっ、ちょっ、こっち来んじゃねぇ!』

『よいではないか、よいではないか~♪』

『うぉっ、力強ぇえっ!? このっ、このぉおおっ、ちょっ、おまっ、そんなとこ触んじゃねぇえ~~~ッ!』



「このケダモノ……」


 と言うワケであった。が、


「俺は何もしてないよなぁ!?」

「リリィたちを止めなかった……、それにリリィたちとはよろしくやってた……」

「ンぐぅっ!」

「それなのにオレのところには来てくれなかった……」

「ンぐぅ?」

「リリィたちにやらせておいて自分が来ないとはなんてヘタレケダモノなんだ!」

「ヘタレなのかケダモノなのかどっちなんだよ!?」


 つまりはヘタレなゲスということか。最悪である。

 ちなみにリリィはたちは迫っていただけでそれ以上はヤってはいないのだ。決して。


「やぁーねー、ヘタレな男って」

「あんなに女が破廉恥おっけーって言ってるのに……」

「待て、お前破廉恥禁止じゃなかったか?」


 破廉恥さんはご臨終です。


「お姉ちゃん、パパはこういうときヘタレだからね、女の方からガーッといってバーンってしないとダメなのよ」


 それは恋愛ではなく交通事故では?


「ガーッと行ってバーンっ……」

「待て、陽香にガーッと行ってバーンってされたら俺転生しちまうぞ?」


 交通事故だけに。

 だが、陽香の目は据わっていて、


「ガーッと行ってバーンっ、ガーッと行って燃焼バーン……」

「待て! なんで今焔が揺らめいた!?」

「ガーッと逝って、燃焼(バーン)っ!」

「待てっ、陽香、話し合おう、うっ、うわぁああアーーーッ!」


 それは某ホラー漫画家の画風のようになっていただろう。

 昨夜から繰り広げられたリリィと姫織の痴態に、それに巻き込もうとされた寝不足、そして自分もいるのに手を出さないのが紳士と言うよりは興味がないようにも思えて、色々とガーッと行ってバーンっとした結果陽香は燃焼バーンしたワケであった。



   ◇◇◇



 :おっ、配信はじまったぞ、なんでこんなに待たせて……って、えっ!?

 :パパの頬の痩け具合がヤベェw

 :それに比べて女性陣の肌艶の良さよ

 :こいつらうまぴょいしたんだ! パパは夜の三連単を制覇したんだ!

 :夜の三連単w


 正確には夜ではなく朝ではあったのだが。


「燃え尽きたぜ……」

「よっしゃあ行くぜ!」

「たくさんイってたものね」

「大丈夫ですか? はじめてだとまだ違和感が……」


 破廉恥さんは(以下略)


「お前らぶっ殺す!」

「きゃー」「わー」姫織は無表情気味だったがリリィにノっかって逃げていた。


 ――仲良いなぁ……。まあ、こいつらが仲良いのは良いんだけれど……俺、ちゃんと強くなってなかったら持たなかったなぁ……。


 遠い目をしてしまう金ちゃんだ。

 ただ、それだけ仲良くなれたのも事実ではあって、金多――リリィファミリーの結束は固くなっていた。


 この日もマグマボールを斃し、その他にも現れて来たモンスターを斃しながらリリィに魔石をもぐもぐさせていった。その最中に金多はやはり自分が強くなっていることを実感できたのだ。陽香と行ったブートキャンプによって〝力〟の使い方のコツのようなものは掴んでおり、それをますます上がった〝力〟へと応用した。むろん、一朝一夕で出来るようなものではなく、やはり調整し、試行錯誤しながらの一歩一歩ではあったのだが。


 まあ、それはコメント欄の一部界隈の方々にはウケていた。

 コメント欄では陽香と金多の関係について取り沙汰されてもいたのだが、厄介ファンと言うよりは姉御の春を祝福するようなものが多かった。


 :姉御、いい人なのにあんなだから男がいなくて……

 :まあ、パパがいい人かと言われれば女性関係はずるずるなんですけどね?

 :すでに尻に敷かれまくってるけどそれでも自分でも頑張ろうとはしてるから、まあ

 :パパさんだとなんか嫉妬を覚えると言うよりはもはや頑張れ、って気持ちになってる

 :w


 ――クソがッ!


 と言いたいが言えないような複雑な気持ちであった。


 ――だけど俺、随分と遠くまで来ちまったなぁ……。底辺探索者だったのに……。


 ありがたいがありがたくないような。いやありがたいのだけれども。

 複雑であった。

 と、金多の想いは置いておいて、この調子ならば順調に11階層もいけるのではないのかと思った。が、


「今の感じだと、リミットは12階層だな」

「やっぱりまだ俺の力量だと難しい感じか?」

「ああ、まだまだだな。まあでも、これなら鍛えればいけるって感じだから、リリィのパワーアップをして金ちゃんが〝力〟を使えるように鍛錬して、そうして地道に進んでいくしかねぇ感じだな。ま、安心しろよ、俺が付いていてやるからよ」

「陽香……」


 となっていれば、


 :あら~

 :姉御ったらすでに妻面しちまって

 :姉御が幸せそうで何よりです

 :その男他に娘を含んで二人女がいるんですけどね?

 :金ちゃんなら頑張ってくれる!

 :苦労させられるのが男の方が確定しているようですw

 :まあこのメンバーやしw


「おっ、お前ら、黙ってろよ!」


 叫ぶ陽香と共に、今後の方針は定まっているようだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る