33、金多のレベルアップ方針

「りゃぁあッ!」

「フッ!」

「性ッ!」


 森の中に裂帛の気勢が響く。

 順にリリィ、陽香、後は各々のご想像に任せたい。各々方よ!

 破廉恥は行方不明です。


 ――やっぱすげぇな、皆……。


 今の金多の主戦場は6階層となっていた。やはりあれだけのヴォーパルバニーが現われたことは異常事態であったらしく、陽香に言われたとおりに探索者協会に報告すれば驚かれた。だが支部長のリンドウに報告すれば彼女はすでに知っていた。

 まさか仕事中に配信を見ていたなんて事……。


『探索者の動向を把握しておくのは支部長として当然のことでしょう?』


 問えばそう返ってくるに違いないのである。

 金多は確かにヴォーパルバニーには立ち向かえぬ。だが、それ以外の6階層のモンスターたち。Eランクのキラーホーネットやソルジャーアント、キラーアントはもちろん、Dランクのマーダーホーネット、マンイーターなども危なげなく斃せていた。ヴォーパルバニーにさえ出くわさなければ、6階層でも通用はするのである。尤も、ヴォーパルバニーが出現することで、本来ならば5階層が適正な階層であるのだろうが。


 女性陣三人と連れだって、ヴォーパルバニーが出現した際は彼女たちに護ってもらって、6階層の探索を行っていたのであった。

 Aランクの陽香は元より、Bランクの姫織を付き合わせるのも申し訳ない。が、


 ――オレは良いぞ、金には困ってないし、支部長から依頼されてることだしな。後、金ちゃんを見てるのも楽しい。


 ――私が旦那様に付き従うのは当然のことです。もっと亭主関白を効かせていただいても……、私が養っても構いません!


 どうしてこうなった?

 とは言っていたが、


 ――ですが、それはそれとして本音ではありますが、


 本音なんだ。


 ――正直なところ私は伸び悩んでおりました。しかし、旦那様たちに同行することで、少しずつではあるのですが、力量が上がってきているようにも思えるのです。やはり一人でやっていくことには限界があったと言うことなのでしょうか……。護る者がいることも理由かも知れませんね。ですから、是非、コキ使ってください!


 やっぱり破廉恥何処行った?

 破廉恥? 知らない子ですね。


 昨日だってヴォーパルバニーに恐怖心を抱かないようにと、リリィと一緒になって〝夜の探索者〟装備のバニー衣装で……≪不適切な内容を検知しましたのでこのアカウントを一時的に停止します≫。


 ――イカン、余計なことを思い出しそうになった。どうしてロリサイズがよりにもよって探索者協会の装備ショップに置かれていたのかはいつか支部長に訊くことにして……いや、やっぱり止めておこう。今は集中しないと。


 今、皆は何故か出現率を上げているヴォーパルバニーへの対処を行っていた。

 Aランクの陽香は目にも留まらぬ速さで迫るヴォーパルバニーを、手を振れば、相手が燃えて黒い煙になって消えてゆく。

 彼女は炎熱系魔法の遣い手だ。

 Bランクの姫織は冷気を纏わせた刀で切り捨て、そのまま冷気を飛ばして次のヴォーパルバニーを凍らせている。

 リリィは腕にピンクのリボン状の魔力を巻いてヴォーパルバニーを殴り殺し……、


 ――ひたすら兎を撲殺していく幼女……、エロ以上に規制しないと駄目な絵面だろう……。いや、集中!


 だが、


 ――やっぱり見切れないし、ヴォーパルバニーを斃せるイメージが持てねぇな……。


 目にも留まらぬ速さで跳び、その鎌のような爪で首を刈ってゆく。そのヴォーパルバニーたちの速さに対応して彼女たちは容易く屠ってゆくのである。

 まだパワーや頑丈さであれば想像出来たと思う。だが、スピードタイプの相手にあのやり方は、どうしてもセンスも関わっているようで自分が出来るとは想像出来ないのだ。

 それに――、


 ――リリィをテイムしてから俺自身の強さも上がったし、『身体強化』の出力も上がった。陽香たちの御陰で基礎的な体力や技術も上がった。だけど……、


 そうなのだ。

 陽香のブートキャンプによって自分の〝力〟を扱えるようになってきた。それで強くはなっただろう。だが、技術も〝力〟の一つではあるのだが、最近〝力〟自体は上がってはいないのであった。この調子であればよくてDランクの上位には届くだろうが、そこで止まることが金多には見えていたのである。

 何せそうして止まって、Fランクに毛が生えた程度の、Eランク下位としてひたすらギリギリ食っていけるだけの探索者生活を続けてきたのであったから。


 言うなれば、リリィをテイムすることで上がった自分の上限が、最近の鍛錬によって見えるようになってきた。だが、そうして上限を感じてみれば、〝力〟は扱えるようにはなってきたが、その上限の変動はあまり見受けられない。より〝力〟を扱えるようになればまた見える景色は違うのかも知れない。しかし、


 支部長から攻略を目指した期待。上位の探索者である彼女たちを付き合わせている申し訳なさ。

 そうしたものがプレッシャーとなって、焦燥感となって今の金多を苛んでいるのであった。


 ――くそぉ、俺はどうしたら……。


「せぇいっ、これで最後ッ!」


 思わず拳を握りしめた金多の前で、リリィが握りしめた小さな拳でヴォーパルバニーを殴り殺していた。


 :幼女×兎=ハートフル。この公式が不成立だと……?

 :SATUBATU!

 :そうかそれはかけるではなく罰だったのか……

 :お前の罪を数えるんだよぉ! 兎ぼっこぼっこ

 :ヴォーパルバニーだから本当に罪塗れなんだろうなぁ……

 :だけどやっぱりヴォーパルバニー多過ぎだろ。普通に地獄だぞ?


「パパー、兎さんやっつけたー、褒めて褒めてー」

「お、おう……」


 と金多は流されるままにリリィの頭を撫でていた。


 :お父さん! 叱るときはちゃんと叱らないと!

 :その子兎さん撲殺してましたよ!

 :だがヴォーパルバニーだから褒めるのが正解である


「ふふー♪」


 とリリィはご満悦。その顔を見れば、金多の焦燥感も何故か和らいでいくのである。


 ――そうだな、そもそもリリィがいなけりゃこんな悩みも持たなかったんだ。贅沢な悩みって言うことだな。だけどなんだ、リリィを撫でてるとすげぇ心が落ち着いてくるような……。


 リリィの黒洞の眸は薄らと桃色に輝いていた。


 それに陽香が、「リリィ?」

「大丈夫、心を落ち着けさせているだけだから」

「……そうか」

「じゃあ、パパになでなでもしてもらったし、魔石、食べちゃおうかしら!」

「二人とも良いのか? リリィにやって……」

「良いって良いって。Cランクの魔石くらいだったら別に。ドロップ品とかはもらってるんだし」

「いや、それでもドロップ品も分けてもらってるし……」

「支部長からの依頼に含まれてるから、さ」

「……分かった」


 と、陽香の言葉には納得するのであったが、


「共有財産ですから」

「………………」


 誰か、助けてください!

 行方不明の破廉恥さんが重いです!


 ――お、俺、姫織を娶らなくちゃいけないんだよな? ……いや、嫌なわけじゃないんだけど……。


 背筋が寒いのは間違いがないのである。


「ま、まあ、じゃあ、リリィ、ありがたくもらっておくことにしようか」

「じゃあ、いっただっきまーす! ガリッ、ボリィッ、うん、やっぱりCランクの魔石となるとますます美味しいわね。それがこんなにも。ガリィッ、ボリィッ。満ちるわ、満ちるのよ、パワーがっ!」


 いったい何キャラなのだろう?


「ってか、そう言えばリリィ、最近はお腹が空いているとかは大丈夫なのか? もしかして太るとか――ぐふぅッ!?」


 サキュバスの尻尾にどつかれた。


「金ちゃんそれはないわー」

「旦那様、最低です」

「パパ、嫌いになるよ?」

「申し訳ございませんでしたっ!」


 金多は、綺麗な90度の角度で頭を下げたと言う。


 :謝れてエラい!

 :こういうところから男親は嫌われていくんだなって

 :そのうちお父さん臭いって言われるぜ?

 :実体験ですか?

 :実体験です(真顔で涙を流しながら)

 :泣


「あー、それは大丈夫、だってあたし、毎日パパのくっさいの  (バキュンバキュン!)」


 :よくやったぞ探索者協会っ!

 :セーフッ!

 :予測可能からの完全回避!

 :いや完全ではなくないかw

 :だけど、ってことはあの時のP音は……

 :それ以上はイケナイw


 もぐっ、ガリィッ、ボリィッ


 その後もリリィはCランクの魔石をどんどんと食べていったのだ。

 と、


「ン? おぉっ?」

「どうしたリリィ?」

「うぅん、えっとね、パパ、手貸して?」

「うん?」


 と金多はリリィに言われるがままに手を貸すと、リリィは自然な、あまりにも自然な動作でその手を自分の胸へと――、


≪不適切な内容と見なされる恐れがあるため、一時的に映像を中断しております≫


 :探索者協会ぃッ!

 :これが人のやることかよぉッ!

 :あぁんまりだぁあッ!

 :ぷぎぃいいーーーッ!

 :キモキモリスナーたち大激怒w

 :だけどこれ……w


 配信には、デフォルメされた姫織を刀を抜いて怒っている画像が映し出されていたのであった。


 :可愛い

 :可愛い

 :破廉恥さんようやく破廉恥仕事した

 :破廉恥仕事てw それはただの破廉恥やw

 :くそう、怒るところだけど怒りきれないっ!


「ね? 大きくなってたでしょ?」


 パッと画像が戻れば、リリィのそんな言葉からはじまった。


 :どこが!? どこが大きくなってた!?

 :胸だ!! 胸だろう!? なあ胸揉みだろうその画像、画像置いてけ!! なあ!!!

 :いいや、尻だ!! 尻だろう!? なあ尻揉みだろうその画像、画像おいてけ!! なあ!!!

 :妖怪胸揉み画像置いてけVS妖怪尻揉み画像置いてけ

 :日の本侍の恥ですなw

 :ではここで私は太股に一票を

 :これだからリリィチャンネルはw


 だが、確かにリリィのそこは成長していたのである。


「昨日の今日で……?」


 金多は自分の手を見ながらそう言った。コメント欄は嫉妬の嵐。


「それは魔石を食べたからよ。あたし、ようやく成長にエネルギーを使えるようになったみたい!」


 :おお、めでたい!

 :え、だけどそれって今までリリィたんが欠食児童だったってこと? パパさん!

 :いやいやちゃんと初期のパパさん見てみ? 文字通り身を削ってリリィたんにご飯をあげてたんやぞ? あの頬の痩け具合ときたら……

 :ぶわっ(泣)

 :ロリであれなんやからサキュバスのテイムは本気でたいへんやなって……


 コメント欄で古参が声を上げるのを他所に、リリィはちょっとだけ大きくなった胸を張ると、


「あたし、これでパワーアップ出来るようになったから、パパに流れる力も上がるようになると思うの! 一緒に強くなろうね、パパ♪」


 金多は一瞬呆気にとられると、


「……あ、ああ! ああ!」


 物凄い勢いで頷いて、


「きゃっ、ちょっと、パパぁ?」

「リリィ、お前は最高のパートナーだ」

「ななっ、あたしはテイムモンスターなんだけどぉ……ウン、あたしがパパのパートナーよ♪」


 金多はリリィを抱き締め、嬉しそうに二人で破顔したのであった。

 ロリサキュバス――幼女を抱き締め満面の笑みを浮かべる青年。


 :≪不適切な内容を検知しましたのでこのアカウントを一時的に停止します≫

 :≪不適切な内容を検知しましたのでこのアカウントを一時的に停止します≫

 :≪不適切な内容を検知しましたのでこのアカウントを一時的に停止します≫


 探索者協会の担当者は悩んだ末に、


≪不適切な内容を検知しましたのでこのアカウントを一時的に停止します≫ ※実際には停止されません。

 と、画面内に文字を打ち込んだのであった。


 :きたぁああッ!

 :っしゃおらぁ!

 :なんでアカウント停止なのに喜んでるんだかw

 :やりますね、実際にはアカウントを停止せずに文字でお気持ちを表すことでリスナーのニーズを満たす。担当の鑑やなってw


 探索者協会の担当者、仕事し過ぎ、で、あるのだった。

 ――が、


 金多パパは、


「ははっ、リリィっ、ちゅっ」


 :あ

 :あ

 :あ


「あ」

「あ」


≪不適切な内容を検知しましたのでこのアカウントを一時的に停止します≫


“:ああぁああああっ!?”


 今度は本物、で、あるのだった。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

ストックも溜まりましたので、本日より二回更新にいたします!

――エイプリルフールじゃあないよ?

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