25、新メンバー加入
退院した金多は住み慣れた我が家へと戻ってきた。ただし、住み慣れたとは言ってもボロくて狭い。住みにくい我が家ではあったのだが。
「はぁ……、なんか家でゆっくりするのも久しぶりな気がするな」
「パパとあたしの愛の巣なんだからー♪」
「私もいますよ旦那様」
「だけどゆっくりするには手狭な気がするなぁ」
「そうだな、四人もいると流石に狭い……あれ?」
金多、リリィ、姫織、そして、……一人多い?
ホラー。
「だっ、誰だッ!?」
「誰って、酷いじゃねぇか」
そう言って口を尖らせるのは明るい髪の女性であった。
ショートカットで見るからに快闊そうで、ニカッと気持ち良く笑えばチャーミングな八重歯が覗く。猫っぽいクリクリとした琥珀色の瞳で、裾をネジって結んだTシャツはたわわなものを包み込む。短いドルフィンパンツからは引き締まって美しいおみ足が伸び、まるで自分もこの部屋の住人のようにして居座っていたのであった。
「朝比奈陽香って言うんだけど、知ンねぇ?」
陽キャ的挨拶だ。挨拶は大事だが陰キャは気圧されよう。
「朝比奈陽香……えっと、」
知っている。
知っているが本当に彼女なのか。
――いや、本人であった。
「ちょっ、なんでAランク人気配信者がここにいるんだよ!」
「何って、お前を助けたから?」
「助けてはいません。ことが終わった後にやって来て運んだだけの担架です」
「酷ぇな。むっつりちゃん、だっけ?」
「殺しましょうか」
「待って! 姫織は俺の部屋を殺害現場にしようとするんじゃねぇよ!」
ナチュラルに台所に行こうとした姫織が恐ろしい。台所は料理をする場所であって決して刃物置き場という意味ではないのである。
果物ナイフもアイスピックも、本来の用途で正しく安全に使いましょう。
破練血です。(!?)
「と言うか、どうしてあなたが……?」
「オレのことは陽香って呼んでれれば良いからさ。な、金ちゃん」
「金ちゃん……っ」
「タマ金ちゃんの方が良かったんじゃ?」
「リリィは黙ってような?」
「破廉恥です……」
妙に姫織の破廉恥が落ち着くのは何故だろうか。
すると陽香はあっけらかんと、「オレが来たのはアレだ。支部長に頼まれたんだよ」
「支部長に?」
「あのエロ支部長……」
「こらリリィ」
「てへ♪」
可愛らしいが騙されてはならぬのだ。まあ、支部長がエロいことは否定しないけれど。
と陽香は鹿爪らしく頷くと、「ああ、どうやらオレに金ちゃんを鍛えて欲しいらしくてな」
「そんなの間に合ってるからぁ!」
「旦那様は私が鍛えます」
「モンスターとBランクが? オレAランクで配信じゃあ初心者講座とかやってるけど?」
「「…………ッ」」
――弱いぞ、うちの二人組!?
「はじめはふぅーんって聞いてたけどさ。あの配信を見て興味が湧いたんだよ。ちゃんと男の子してんじゃん、金ちゃん」
「ま、まあ……」
「お、何? 照れてんの? 可愛いーじゃん。こりゃあ確かにネットが騒ぐのも無理ないかもな?」
と金多も押されていれば、
「………………」
「ど、どうしたリリィ……?」
恐る恐る。
「うぅん、あたしは妻で娘でテイムモンスターだけど、」
「お、おぅ……」
順番は逆な気もするけれど。
「むっつりちゃんはペット枠で」
「違います! 私が妻です!」
「そうすると陽ちゃんは……」リリィは凝(ジ)っと陽香を見て、「この感じで行くと、パパよりも年上そうだし、おば……」ガシィッ!
リリィの可愛らしい頭が陽香の手によって掴まれた。
「ン? 何? オレは何だって? オレ、22だけど。確かに餓鬼んちょにとってみれば二十歳を越えればなんとやらかも知れないけれど、ン? 何だって?」
「お、お姉、しゃん……。陽ちゃんはお姉ちゃん枠だねって」
「ウン、忘レナイヨウニ」
「イエスッ、サーッ……」
――こ、これがAランクか……。
リリィの可愛らしい顔にうっすらとついた手形を見て思うのだ。
「ってことで、いっちょオレに教えられてみない? 金ちゃん。後悔はさせないぜ?」
金多は少しだけ考えて、リリィ、姫織の顔を見て、
――彼女たちは特に否定する様子はないらしい。
「…………分かった。お願いする。俺は、強くなりたいから」
「おっけー、そう言う男の子、嫌いじゃないよ♪」
「やっぱり若干おばさん臭……ひぃあああッ!」
リリィがいたところにボフッと火の玉が膨らんで消えていた。
「チッ」
「危ないわ……」
「おう、俺の家で止めてくれな?」
どうやら、金多ファミリーに一人、姐さん枠が入るらしかった。ちなみに姉御は支部長である。探索者協会ロ●ナプラ支部。……
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