51、決戦

「『支配ドミネイション』。〝圧搾グラスプ〟!」


 リリィが本命である筈だが、彼女の露払いでまるで悪夢のヴェールのようにモンスターたちが黒い煙となって取り払われた。中には倒れている人間もいたから、アレは魔変石でモンスターに変わっていたダンジョン教徒たちに違いない。


 ――あいつら、本当に余計なことをしやがったな……。


 憤りそうになるが今はその場合ではない。いや、これは「憤怒」の魔王の策略なのだろうか。流石は「憤怒」である。

 と、


「ほう、貴様が例の魔王か。……「色欲」だな」

『ッ!』


 金多たちが身構えれば、そこにはすでに一人の男がいた。

 紳士的にも見える佇まいだったが、頭らから黒色の角が生え、背中からはコウモリのような大きな翼が生えている。黒い尻尾も生え、まさに紳士系悪魔と言われて想像するような、優男が実は強い系の魔王であったらしい。

 ジロリと彼がリリィを見たので、思わず金多はその視線を遮っていた。


「パパぁ……」


 とぅんく。

 こんな時でもリリィはブレないのだ。


「貴様は……?」「憤怒」の魔王がジロリと金多に目を留めた。「ふむ、「色欲」との繋がりを感じるな」

「そうよ! 奥までずっぽりよ!」

「リリィ……」


 どうしよう、こっちの魔王脳内ピンクだよ……あっ、「色欲」だったわ。

 だからと言って良いという話ではないのである。


「ふむ……」


 と「憤怒」の魔王は顎に手を当て――スゴい、リリィの発言を鼻にもかけない、これが「憤怒」の魔王の力と言うべきか。……こんなことで魔王様も感心されたくはなかったろう。


「ならばその繋がりを断ち、私のものとなれ、「色欲」よ」

「「お断りです!」」金多とリリィがハモっていた。


 繋がりを感じさせるハモり具合だ。血は繋がってないけれど。


「そうか、ならば――力尽くだな」


 ズンッ!


「憤怒」の魔王の圧が増した。


「女を無理矢理従わせようとする男は嫌われるわよ! パパを見てみなさい! 女の尻にいっぱい敷かれて悦んでいるわ!」

「おいッ!?」

「フン、脆弱な男だ」

「……………」マジレスキツい。


「憤怒」の魔王の口撃! 金多は地味にダメージを受けた!


「こらー! パパを弄って良いのはあたしだけよ!」

「リリィ……」


「色欲」の魔王が謎の独占欲を発揮した! 金多は地味に回復した!


「いやそれでほっこりするのはどうなんだよ……」

「旦那様ですから」


 だが、


「貴様ら、私の重圧があまり利いていないだと? 成程、私の前に立つだけはあるようだ」

「あたしが勃って悦ぶのはパパだけよ!」


 シリアスとエロスがぶつかってとってもカオスに見える!


「…………目障りになってきたな。貴様は殺しておいた方が良さそうだ」


 メスガキ(今は美女の姿だけど)のリズムに「憤怒」の魔王は臨戦態勢に入る。

 流石は「憤怒」の魔王、煽り耐性が低かった!

 メスガキの口撃、こうかはばつぐんだ!

 が、


 ンッ!


「憤怒」の魔王が力強い踏みだしで飛び出してきた。


ァあッ!」


 パパパパパァンッ!


 リリィの両手にはピンク色の鞭が握られ、それが高速で「憤怒」の魔王へと襲いかかっていた。だからパパの亜種ではないのである。念のため。


フンッ!」


「憤怒」の魔王が膂力を籠めれば、リリィの鞭は弾かれていた。が、リリィは両手の鞭を高速で繰ると、次から次へと目にも止まらぬ乱撃を繰り出すのである。


「ハァアッ!」「憤怒」の魔王が突っ込んで来た。

「くっ」


 リリィが避ければ、


「さっきよりもデッカくなってる……?」

「そうだ、私は攻撃を受ければ受けるほどに怒りを溜めて強くなる!」


 鞭で叩かれて感情を溜めて、デッカくなる。

 注:「憤怒」の魔王です。「色欲」の魔王ではありません。


「ヘンタイめ……」

「リリィが言うのかー」と金多が白目になりながら。


 だがむしろご褒美としてデッカくなりそうだ。


「戯れ言を。憤ンッ!」


 再び飛びかかってくる「憤怒」の魔王。彼の躰は膨張し、ムキムキと衣服がはち切れそうになっていた。


「あたしの鞭で気持ち良くなってるんじゃないわよ!」

「そんなものは利かん! 足りんぞぉッ!」


 もっと欲しい、と。

 と言いながら更にデッカくなっちゃう「憤怒」の魔王。

 エロスとシリアスの戦いがここにはあった。

 これぞ「色欲」と「憤怒」の領域を押し付けあう戦いだ。


「憤ンンンッ!」

「覇ァアアアッ!」


 パパパパパンッ!


 むくむくぅっ。


 鞭が奔ればデッカくなっちゃう。

 注:真面目な戦闘シーンです。


「憤、ちょこまかと避けるだけしか能のない羽虫か」


 そう言う「憤怒」の魔王はもはや原型を止めないほどに肥大化し、ビクビクと浮き出た血管を震わせながら侮蔑の表情を浮かべていた。


「遅漏なのは良いけれど、程度があるしただデッカいだけじゃ気持ち良くはなれないんだから!」


 相変わらずの「色欲」的へらず口を叩くリリィは両手を重ね合わせると――それはくぱぁと広がりだす。ド●オーラではない、


「〝サキュバスプラッシュ〟!」


 ぷしゃぁああッ!


 と、甚大な量の桃色の光が溢れ出して炸裂した。


「やったか!?」

「だからパパ、それネタなのかしら?」


 リリィたん(美女版)のジト目をいただきました。

 桃色の光が収まったそこには、


「小賢しいわ!」


 ビクビクと浮き出た血管を震わせる「憤怒」の魔王様が。サイドチェストをキメながらピンクの輝きを弾き飛ばしていたのである。


「くっ、こいつ……、どうやったら斃せるんだよ……」


 そう言った金多にリリィは、


「さあパパ、配信をはじめてちょうだい」

「え? 何を言ってるんだよリリィ、こんな時に……」

「良いから! それがあいつを斃す助けになるんだから!」

「わ、分かった……」


 戸惑いながらも、金多はリリィの言うとおりにするのであった。ちなみにドローンカメラは魔力波にも耐えられるようにヴァージョンアップが為されているのである。

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