50、攻勢

 ――まさかここまで強くなっているだなんて。貴方たちはもう間違いなくSランクよ。


 容易くモンスターを屠って街を救ってゆく金多パーティを、リンドウはウットリとした様子で眺めていた。

 期待はしていた。

 だが、これほどまでの〝力〟を短期間で手に入れて戻ってくるなんて。


 リリィに選ばれた彼に目をつけていて本当に良かったと思うのだ。はじめは低ランク探検者で、はやくからダンジョン教に目をつけられるようなことがなくて本当に良かった。


 リリィのあの威容。彼女は「魔王」として覚醒を果たしたに違いないのである。

 あれはきっと「色欲」だろう。「色欲」じゃなかったらむしろ驚きだ。


 だがあれで「憤怒」の魔王に勝てるのだろうか。

 それはまだ期待止まりだ。

 だが期待――希望は持てるのだ。


 現在ダンジョンの氾濫は「憤怒」の魔王が現われたダンジョンからはじまり、他のダンジョンに波及していた。まだ日本だけに留まってはいるのだが、今後どうなるかは分からない。そして「憤怒」の魔王を斃しても止まるのかは分からないのである。が、


 海外の国々が自国へと波及することを恐れ、核攻撃を含めて「憤怒」の魔王の討伐を検討していることが伝えられている。しかしあれはSランクモンスター。それも計測不能レベルのSランクモンスターなのである。


 Sランクモンスターはある一定以上の〝力〟を持ったモンスターがカテゴライズされ、それはある上限を突破したという意味であって、SランクモンスターからはSとは言え一律の強さでは語れなくなるのである。これまではSランクモンスターはダンジョンの深層にのみ存在していたため、そうした細かなことはあまり世間には知られておらず、汁必要も知らせる必要もなかった。それを今急に知らせたところで、ただただ不安を煽り、海外からの攻撃の理由にもされてしまうだろう。


 その前に、金多たちに討伐してもらいたい。

 だが、出来るのだろうか。


 ――うぅん、信じなくちゃ駄目よね。日本の運命は、貴方たちに託すわ。そして戻って来た時には……ふふっ、たくさん、ご褒美あげちゃうんだから🖤 皆魅力的な女の子たちだけど、私のようなタイプはいないから、良いわよ、ね🖤? 金多くん🖤


 その時、何故かリリィのパワーが上がったのだと言った。

 ザ・「色欲」の魔王。


 そうして、探索者協会支部のある街を救った金多たちは、「憤怒」の魔王へと向けて出発するのであった。



   ◇◇◇



 金多たちはパーティで「憤怒」の魔王が出て来たというダンジョン方面へと進んだ。時折モンスターの波が来たが、


「『支配ドミネイション』。〝圧搾グラスプ〟!」


 リリィのそれで事足りた。

 屠ったモンスターたちの中には明らかに高ランクのモンスターも混じっていたが、リリィは鎧袖一触。そして高ランクのモンスターの魔石だけを摂取すると、そのまま進みはじめるのである。


 魔力の残量が気になるが、その魔石を足しにして――とは言ってもちゃんと足りるのかは甚だ怪しい。そのため、途中にあるダンジョンに潜ると、高速でダンジョンを攻略してダンジョンコアを破壊、その魔力を吸収して進みもしたのである。


 ダンジョンはおやつに入りますか?

 ラノベのタイトルのようである。


 陽香が焔を扱い、姫織が冷気を纏った刀を、そして金多が桃色の、ラブホカラーに発色する剣を振るって歩みを進めてゆく。

 そうしてついに、「憤怒」の魔王のいるダンジョン、その近くの魔王が座しているという街へと辿り付いたのであった。



   ◇◇◇



「すげぇモンスターの数だな……」

「そりゃあそうだろ、今までのモンスターの波がそれぞれのダンジョンから来ていたにしても、ここからの余波だって話だったから、震源地はそりゃあ、なあ」


 金多の言葉に陽香がぼやくように返す。

 だが圧倒されているままではいられないのである。それにここに来るまでにも何回もモンスターの群れを蹴散らし、ダンジョン踏破までやらかしてやって来た。


 ダンジョンを踏破し、崩壊させて良いのかと言うことだったが、この非常事態では仕方がないと、リンドウから許可はもらっていた。

 しかし、街が完全にモンスターに破壊されている光景も見てきた。それでもこうしてモンスターがひしめくようにして街に居座っているような光景はなかったのだ。


 ――やっぱり、ここに「憤怒」の魔王がいるってことなんだよな……。


 金多は思わず生唾を呑んでいた。

 どれだけ強くなろうとも、流石に「魔王」などと言う相手ならば緊張せざるを得ない。まあ、こっちにも魔王様はいらっしゃるのではあるのだけれど。


「おっしゃ、気張ろうぜ。オレらはここまで来たんだから、このまま押し潰そうぜ。ってか、こういうのは本当は金ちゃんが言う筈なんだけどな」

「あ、あはは……」


 と陽香にジト目を向けられれば笑うしかない。


「流石は旦那様です」


 それは皮肉なのだろうか、姫織。


「じゃあ皆、気張るわよ! あたしが「憤怒」の魔王を斃すんだから!」


 美女の姿になりながらリリィが言った。

 やはり「魔王」と戦うには同じ「魔王」クラスが必要に違いない。


「とっとと終わらせてまたパパとイチャイチャしないと!」


 リリィは今は大きくなった胸を張って宣うのである。


「ああ、そうだな」


 金多も今は素直に返していた。

 美女然とした、「魔王」の姿になれるようになってもリリィは変わらない。それも「憤怒」の魔王との決戦を前にして。なんと頼もしい「色欲」の魔王様であることか。


「行くぞ!」

「イこイこー♪」

「はい」

「おうっ!」


 金多、リリィ、姫織、陽香と、決戦に臨むのだ。

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