10、リリィたんもぐもぐタイム

「この豚野郎がッ!」

「ぶひぃいいインッ!(悦)」


 :見ろよ、まるで俺たちのようだぜ?

 :ああ、鏡を見てるようだな

 :信じられるか? モンスターが殴られて悦んでるんだぜ?

 :いつの間にか視聴者数が四桁突破して爆上がりしてるんだが、それだけの人数がこの絵面を見ていると思うと……。お恥ずかしい話ですが、とても、昂奮してしまいましてね?

 :本当にお恥ずかしい話だな!?


 ――うぉお、視聴者も登録者も爆上がりしてるんだが、コメント欄がますますカオスになって素直に喜べねぇんだがぁ?


 順調に一階層を突破した金多たちは、二階層にてオークと戦っていた。配信外で潜っている時と同様に、リリィが豚殴り無双を行って、その勇姿を目にした視聴者が拡散、視聴者数も登録者すうも跳ね上がっていたが酷かった。


「キャハハぁ! たーのしー🖤」


 :そうだね、君は豚を殴るのが好きなフレンズなんだね

 :ほら、ここにも豚がいるよ? 殴ってくれないのかな?

 :ブヒブヒ

 :フゴッフゴッ

 :ぷぎぃあああッ!

 :ひでぇw


 ――いや笑えねぇよ!?


 教育に悪いったらありゃあしねぇのだ。と、金多が白目を剥きそうになっていれば、


 :ところでパパは戦わないの?

 :そういやリリィたんに応援してもらいながら戦っていたって聞いたな

 :いや戦うと思うのか? クズパパだぞ?


「………………リリィ」

「ん? なぁーにー、パパー?」


 取りあえず今戦っていたオークがアヘ顔みたいな表情で黒い煙と化した後で――ダブルピースまでしていたように見えたのはきっと目の錯覚だったに違いない――、金多はリリィに持ちかけるのである。


「次は俺がやるぞ」

「おっけー♪ あ、じゃあ今のうちに魔石ちょうだい、あー」

「わ、分かったよ」


 ぽっかりと紅い唇を開いたリリィのお口に、金多は魔石を入れてやった。


「あむっ、ガリッ、ボリッ、ごくんっ♪ パパにもらうと自分で食べるよりもっと美味しいね🖤 パパの汗がついてるからかな?」

「止めてくれ」


 :こうやって餌付けして稼がせてるんですね!

 :飴と鞭の使い方が絶妙! 流石はクズパパ!

 :べべ勉強になりますっ!

 :お巡りさん、こいつら逮捕してやってください

 :私がお巡りさんだが?

 :あっ……


 ――いや本当にお巡りさんだったら仕事をしてくれ?


 と思いつつ、リリィに魔石を食べさせ、


「おっ、来たな」

「ブヒィイイ……」


 :マジか。オークの目がチェンジって言ってるぞ?

 :オークって表情豊かだったんだな

 :この画像保存しました!

 :女騎士の画像の後で。オークの画像(冷めた目で)「チェンジで」

 :こうしてまた、この世界に新たなテンプレ素材が生まれたのであった……


 ――お前ら余裕だな。俺が戦うって言うのに……。いや、それだけ信用してくれてるってことなのかもな? じゃあ、


「行くぜ豚野郎、お前にリリィはもったいない」

「きゃーっ、パパかっこいーっ♪」


 :と、先ほどまでずっと娘に稼がせてた男が申しております

 :ふむ、リリィたんのパパに相応しいか、見極めさせてもらおうではないか

 :何故後方彼氏面?

 :お父さん、リリィたんをぼくにください!

 :よく見てろよ、お前らの末路だぜ?


 余裕のコメント欄を他所に、金多は剣を構えると息を吸った。息を吸って、吐いて。剣を正眼に構えて豚野郎を睨み付けた。


「ブギッ、ブギィイイイッ!」はじめてオークを斃した時とはまったく違う金多の圧に、オークは奮い立たせるような声を上げてから掴みかかった。


 ――するり、


 金多は使いこなせてきているステータスでオークの腕を掻い潜ると、


 重破ズバンッ!


「ブギィイイッ!?」


 オークの肘関節を中程まで断ち切った。彼の剣には魔力が流され、実際は見た目どおりのなまくらであったが、魔力の分鋭さも頑丈さも上がっていた。流石に腕を落とすことは出来なかったが、今はこれで十分だ!


「ハァアアアッ!」

「ブギィイッ! ブギャアアッ!」


 強攻するオークが雄叫びを上げ、腕をぶら下げて反対の腕で殴りかかった。が、

 重破ズバンッ!


「ブギィイイイッ!」


 オークの攻撃を避けてから膝の裏を断ち切った。バランスを崩して倒れるオークの首を、


 グゥッ!


 掻き切ってやればそのまま糸の切れた人形のように倒れ込む。

 オークは、はじめはあれほど時間のかかったモンスターは、呆気なく黒い煙となって消えてしまうのだ。


 カロンっ、と魔石の落ちる音が心地良い。


 金多はそれを拾うと、


「ほら、リリィ、口を開けろ」

「ぅん、パパぁ……🖤」


 トロンとした貌で頬を染め、リリィはピンクの舌を出して口を開けた。金多はそこに魔石を乗せてやるのである。


「はむちゅっ🖤」


 リリィはついでにパパの指を吸って。


「ガリィッ、ゴリィッ……ゴリッ、ゴリィッ……ごっくん♪ んぁ、ほら、パパの、ぜぇんぶ呑み込めたんだから」


 リリィはお口を開け、ピンクの舌の上にはナニも乗っていないことを見せつけてきた。


 :エッッッッッッ!?

 :ふっ、ぐぅうっ、らめぇ、リリィたん、それはらめぇだよぉ……

 :ってかパパさんの今の……わ、私もヤってもらいたいぃ……

 :冴えない風貌なのにそのギップが……はぁっ、はぁっ……

 :私は全力で甘やかせてあげたいわぁ……🖤

 :ちょっとー、女子ー?


 ――あれ? なんか思ってた反応と違うくね?


「ほらぁ、パパぁ、もっとぉ🖤 あたしもっとパパのごっくんしたいのぉ🖤 はやくイこイこぉ🖤」

「お、おぅ……」


 その後、金多は手ずからオークを斃し、その魔石をリリィの小さなお口へとせっせと運んでやったのだ。

 その向こうで、




「破廉恥はいけません」


 そんな呟きを知りもせず。

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