9、リリィたんとパパのダンジョン探索

 配信時間となれば画面に冴えない風貌の青年が映り込んできた。使い古した皮の鎧に鉄の剣。まさしく装備を買い替えるまでの余裕がない底辺探索者の風貌だ。


「どぉーもぉー、アカウント停止の解けた金多のダンジョ……「やっぱりパパの挨拶気持ち悪いよ!」」


 彼に割り込むようにして、可愛らしい風貌の――しかし小悪魔チックな――美幼女が映り込んできた。普段着にしているパーカーとホットパンツ系列の、とても動きやすい服装の美幼女だ。艶々と濡れ光る漆黒のショートカットにクリクリとした黒目がちな瞳。頭には二本の角、背中には蝙蝠のような翼を羽を生やして、お尻からは先がハートマークになっているサキュバスの尻尾が伸びていた。その艶々とした紅いリップが艶めかしく蠢いて、気持ち悪いパパの代わりにタイトルコールを告げるのである。


「はぁーい、キモキモリスナーの皆ー、ちゃあんと服を脱ぎ脱ぎして正座で待っててくれたかなー? キャハハっ、きっきもぉおっ🖤 ま、パパのキモさには負けるけどぉ? ほんっと、エロの許容範囲が低い雑魚雑魚AI判定には困っちゃうわよね~、ね、パパもそう思うでしょー?」

「おまっ、こらリリィ、これは俺の配信チャンネルだ!」

「だけどパパじゃここまで登録者数伸びなかったでしょー? ほら、言ってごらんなさいよ。自分だけだったら登録者数は何人だったかしら?」

「ぐぎッ、ぐぬぬぬぬぬぬっ」

「きゃははっ、パパったらざぁーこざぁーこぉっ🖤」


 :雑魚助かる

 :パパのリリィたん以前の登録者数、たったの○か。ゴミめ

 :よっしゃ、俺は全裸で待ってたぜ!

 :開幕から飛ばすなぁ。いつ垢BANされるのか、オラワクワクすっぞぉ

 :と言うかパパさん、媚びようとしたのを娘に止められたけど、パパさんは媚びない方が良いと思います

 :はげどう

 :リリィたんとバチバチにやり合……やり籠められるのが面白い!


「このぉお……っ」

「きゃははっ、パパったら言われほうだーい。で・も、」


 とリリィはカメラに視線を向けると、少し〝圧〟のある視線を向けるのである。


「キモキモリスナーの皆ぁ? 好き勝手言うのは良いけれど、パパを罵っても虐めてもいいのは、あたしだけなんだから、それ、分かってるわよね?」


 :ひぇっ

 :ヒュッ

 :金玉キュッとなりました

 :その視線もっとぉおッ!

 :おぅふっ……ふぅ

 :このチャンネル、コメント欄もすっごく気持ち悪いよぉ!


「ふふっ、パパ、それじゃあダンジョン、イこっか🖤」

「お、おぅ……」


 ドローンカメラが追跡を開始し、そうして金多はふりふりと尻尾もお尻も揺らすリリィに付いていくのだが、今日の配信はダンジョンで行うことにしていた。あれから、リリィのご飯代どころではなくご飯を稼ぎ、そして彼女をテイムすることによって上がったステータスで金多はオークをそれなりに斃すことが出来るようになっていた。


 残念ながらまだリリィのように圧倒出来るほどではない。が、ようやく躰の動かし方が分かってきた様子で、オークの弱点を突くような立ち回り、狙いをするようになって、徐々に討伐タイムを縮められている。この様子なら十分に金を稼ぎ、一ランク上の装備に換装することで更に奧にまで進めるかも知れない。リリィさえいれば安全に進んで行けただろうが、金多としては娘(仮)におんぶに抱っこの狩りではいたたまれないのである。


 そうして稼ぎ、動いているうちにようようアカウントの停止が解けていた。

 そこで今回は、ようやく配信探索者らしく、ダンジョン探索を配信できることになったのであった。


 ――長かった……。こいつが生まれてからダンジョン配信が出来るまでが長かった……っ。


「んぅ? どうしたの、パパぁ、なんだか感慨深そうな顔をしてぇ」

「いや、なんでもない」


 :そらそうやろ

 :リリィたんが生まれてからはじめてのダンジョン配信やで

 :ようやく娘と一緒に!

 :だけどアカウント停止中に二人で潜ってたの、知られてるんだよなぁ

 :しーっw


「よしっ、じゃあ、一階層はちゃちゃっと突破して、オークまで行っちまうか」

「うんっ、行こ行こー!」


 :よしっ、ブリーフ一枚になって待機だ!

 :よっしゃあぁっ! リリィたんに豚野郎と罵られながら殴ってもらえるぜ!

 :ヒャッハァアッ、俺らが汚物だぜぇ!

 :マジで目も当てられないほどの汚物w


「いやいや、ははは、嘘、だよな?」


 :そう思っていた時期も私にもありました

 :危険は予防してこそ、だ

 :さあおいで、裸の豚が君たちを待ち受ける


 ――今日は家に帰って雑談配信でも良いかもな?


 思わず金多は、半ば本気でそう思った。

 そして一階層は当然、


「キャハハハぁっ! 死んだゴブリンだけが良いゴブリンよ!」


 ボグン、バグン、と。


 :あれ? サキュバスって物理攻撃型だったっけ?

 :きっと進化種のグラップラーサキュバスなんだよ(震え)

 :見たまえ、ゴブリンがまるでザクロのようだ!

 :良かった、すぐに黒い煙になって消えてくれて本当に良かったっ!

 :ロリサキュバスが無双していると聞いて!


 ――うぉおっ、登録者数もぐんぐん伸びていく。流石はリリィだな。……ちょっとじゃなくって大分複雑な気持ちだけど……。


 タブレット端末に流れてゆくコメントを見ながら、金多は無双を繰り返すリリィに付いていった。そしてとうとう夢の四桁台を越えていた。これまでとは比べものにならないほどの反響はあったワケだが、残念ながらまだまだ一部そのスジの界隈でしか話題にはなっておらず、そして何よりもアカウント停止が響いていた。それがダンジョン配信を行うことで、テイムモンスター、しかもロリサキュバスという珍しく、華のある存在に、彼女がボグンバグンとゴブリンを殴り殺す俺TUEE無双系配信。ギャップ、見た目のインパクトも相まって、ぐんぐんと拡散されて登録者数も伸びていた。


 ――これ、夢のスパチャ解禁もくるんじゃねぇのか? うぇへへへ……。


 :うっわ、パパさんタブレット見ながらひでぇ顔してるぞ

 :これが娘に稼がせるパパの顔です

 :人間のすることじゃねぇよぉ

 :娘に稼いでもらった金で食べるご飯はさぞかし美味しいだろうなぁ!


 ――あれ? 俺ってもしかしなくてもクズ男……?


 ひょんなことから客観視出来てしまった金多は、


「あ、パパぁ、魔石ちゃんと拾ってるぅ?」

「お、おぅ、これは俺のじゃなくってリリィのだモンな、うん。リリィが手に入れたものを俺がネコババするワケがないじゃあないか、HAHAHA」


 :おっとぉ? ここに来て良いパパアピールですよ奥さん

 :もう手遅れなんだよなぁ

 :それにもう手を出してるもんな

 :そ・れ・だ!


「………………」


 ここで口を出してはならないだろうと、金多は沈黙を選ぶことにした。

 が、


「キャハハぁ! お代わり! あたしのご飯のお代わりもっとやって来なさい!」


 :え、まさかこの人娘に自分の食事代を稼がせてるんじゃあ……

 :稼いで来なかったら今日は飯抜きよ!

 :本性見せたなこのクズパパめ!

 :ちょっと俺SNSに行って拡散してきます!

 :リリィたん、そんな人のところなんて逃げ出して、新しいパパのお家に来ないかい? はぁはぁ


 ――ヤベェよ、人が増えたのは良いけれどもう完全にカオスだよ……はぁ。


 金多は弁明をすることを諦め、すでに♯リリィたんのパパはクズパパ ♯これがクズパパ活だ! と言う単語がトレンド入りした後で、一段落したリリィたんが魔石もぐもぐタイムをして弁明してくれたのである。

 そうして鎮火したのかどうかは、各人のご想像に任せたい。

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