17、金多一家探索中
アカウント停止中、金多は精を出し、リリィと共にダンジョン探索に精を出していた。何故かクールプリンセスも共に。
「もう私は貴方にもらってもらうしかありませんから」
「手を出してきたのはお前の方だろうが! ってかなんでうちにも居座ってんだよ!」
「妻は夫を支えるものですから!」
「うわぁ……」
男性が女性を食い物にするのはいけないから破廉恥はイケナイ。そう言っているクセに女性は男性を支えるものだという一時代前の固定観念に支配されている。女性を守りたいのか男性優位なのか。これぞイドラの怪物――。
金多はもはやうわぁとしか言えないのである。
ちなみに最後まではシていない。リリィに煽られた彼女が一緒になって上のお口で……くらいであった。
――まあ、美人だし俺も良い思いはさせてもらったけど……。でもなぁ……。
うわぁには間違いなかった。
そのクールプリンセス――『氷侍』と書いてクールプリンセスと読む――こと氷川姫織は、相変わらずの腰まで届く艶やかな黒髪のパッツン姫カットで、眼鏡をかけた鋭く思える切れ長の瞳。玲瓏な美人で白磁の頬に紅い唇がやけに生々しく、それなりの胸の肢体を黒を基調としたまるで大正時代の女学生のような袴姿で包み込み、腰には黒い鞘に青、氷華の意匠が設えられた日本刀を佩く。
相変わらず一部好事家が好む出で立ちで同行していた。
「ふふっ、なんだか娘が出来たみたい」
と宣うのはロリサキュバスのリリィであって、姫織ママと言い出さないだけマシであったのか、自分をママ扱いするなら金多がパパで良いのか――いやもしかして普段彼女が言うパパとは父という意味ではなく夫としてのパパなのか。新たな疑問が生み出されてしまうのだが――ママだけに――、今は置いておいて。
今の彼女はラフなキャラものTシャツに黒のホットパンツと黒のニーハイ姿。胸に描かれたキャラはサキュバスのキャラである。サキュバスがサキュバスを着るとはこれ如何に。艶々としたショートカットの黒髪に、頭から生えた二本の小さな角。背中からは蝙蝠の羽にお尻からは先がハートマークになった悪魔の尻尾。むろん言葉に出来ないほど可愛らしい幼女であって、『俺、もうロリコンでいいや――』と見るものは言うに違いない。
その二人と共に行くのは見るからに冴えない青年であって――いや、いつもとは違って髪は解かされ、革鎧や剣は使い古したくたびれた様子だったが、その下に着込んでいる服は清潔に洗濯されていた。それは姫織が甲斐甲斐しく世話をしてくれたのだ。
うわぁだったがお世話をしてくれるのならば甘んじて受け止めておくことにした。
そしてなし崩し的にパーティを組むことになり、三人でダンジョンに潜るようにしていたのであった。
『おい、あれリリィたんとクールプリンセスじゃねぇのか?』
『マジかよ……、まさかクールプリンセスがリリィたんのママに!?』
『リリィたんのパパ死すべし死すべし……』
『同士よ! 今こそ立ち上がる時ぞ!』
とか不穏な声が聞こえてきたのであったが、
『何を言ってるのよ! あたしがママであって、この子はあたしの娘よ!』
〝『えぇえッ!?』〟
『……マジか、そう言う関係……』
『ママじゃなくって娘かぁ……』
『それなら……』
『尊ひ……』
『パパ、おじいちゃん、娘さんとお孫さんを俺にくださいっ!』
『我ナイト、ちょっとオハナシ、しようか?』
『クールプリンセスたんの平和は俺たちが守るッ!』
『だけど男の影があるのはなしっしょ(ぼそっ)』
おおむね受け入れられたようであって、まったく火種がないわけではなかったが、今のところ家族三人で平和に(?)ダンジョン探索を行えているのである。
そして三人は、Bランクの姫織をパーティに加えたこともあって、その活動範囲を広げていたのだった。
「ふふっ、パパも随分サマになって来たわね」
「旦那様、そろそろランクアップの申請をされては如何ですか?」
「うわぁ、妻気取りよ、このMっつりちゃん。まだ下のお口でもぐもぐしてないのに!」
「婚前交渉は御法度です! いえ、ですが旦那様が獣欲を抑えきれず無理矢理手籠めに……だ、駄目です旦那様、なんと破廉恥な!」
「破廉恥なのはお前だよ!」
姫織は生真面目なままその才能を開花させていた。
そんな三人は二階層の奥まで進んでいた。
ダンジョンは広い。
幸いなことに二階層も一階層と同じく地図が存在し、それに従えば基本的に迷うこともなく、比較的短時間で次の階層へと向かうことが出来る。一階層ではFランクのモンスターが出現し、二階層ではそれに加えてオークなどのEランクモンスターが混じりだす。
最近では金多も一人でそれなりにオークとは戦えるようになってきており、まだEランク冒険者の金多ですらそうなのだから、
「疾ッ」
スパンッ!
ブヒィと悦ぶこともなくオークの首が飛んだ。巨体が黒い煙となって消え、Eランクの魔石が転がった。
「速ぇえな……」姫織が瞬時に抜刀斬首したのであって、リリィに遊ばれていたがBランク冒険者の面目躍如と言ったところ。
「この魔石は好きにしてください。リリィが食べますか?」
「わぁ、娘からのプレゼントね。ママ嬉しいわ」
「貴女なんて母ではありません!」
「ああ、これが反抗期なのね、よよよ……」
「楽しそうだなー、……二人とも。だけど姫織は良いのか? もらってしまって」
「ええ、問題ありません。この程度は端金ですから」
「おぉ、流石はBランク……」
「旦那様もすぐにこれくらい出来るようになります」
「お、おぅ……」
――なんか殊勝な態度をとられると慣れないな……。つってもそもそも出逢って全然時間も経ってないんだけど……。
まさかあの彼女がこうも態度を軟化させるとは。
――それだけリリィの説得? 煽り? が効いたってことなんだろうけど……。
それにしてもこの変わり様は信じられぬ。まあ、煽られてノってきたということは、元々Mっつりなのはそうだったのだろうが。
――……まあ、リリィにも俺にも危害を加えないでくれるのならば頼もしいけれど……。
「私の旦那様になるのならばこれくらい出来るようになってもらわなくては困りますし。私が旦那様をその高みまで連れて行ってあげます」
「あー、それはあたしの役目だからー。娘が出しゃばらないでくれるー?」
「妻は私です!」
「あたしがママよ!」
「うわぁ……」
このままでは金多がうわぁbotになってしまいそう。そしてこれがモテ期かと素直に悦べる筈もない。
と、
スッと二人共が離れ、姫織は刀を、リリィは拳を構える。
――何が……?
何かは分からなかったが金多も二人に倣って警戒を高める。
キィキィ、キィキィ……
――鳴き声……? いや、まさか!
ザザザザザ……
まるで潮騒のように空気を揺らし、大コウモリの大群が現われた。
Fランクモンスター大コウモリ。
小型犬ほどのコウモリであって、Fランクモンスターの中でも飛べる分上位に位置するが、群れとなった際は群れの大きさによってDランクに近いところまで危険度は跳ね上がる。
むろん姫織、リリィにとってはなんら脅威とはなり得ないのだったが、
――くっ、数は脅威って本当なんだな……っ。
洞窟型ダンジョンの向こうから黒々とした大コウモリの群れが寄せてくる。金多が身構えていれば、
「じゃあパパ、テキトウにヌけさせるから頑張って」
「旦那様ならば乗り越えられると信じています」
「――え?」
唖然としてしまう金多の前で、
「「ハァアアアッ!」」
リリィが拳を振るって姫織が刀を振るう。その隙間を大コウモリが何匹も抜けてきた。
「うぉおおおッ!?」
金多は咄嗟に剣を振るって切り捨てた。が、
「くぅうッ、次から、次へとっ」
斬り、落としても次から次へと大コウモリは抜けてきた。
「がぁーんばれっ、パパ、がぁーんばれぇっ♪」
「大丈夫です、旦那様ならば出来ます」
パァンッ! 斬ッ!
余裕綽々で穿ち、切り捨てる彼女たちに、
――死ぬぅっ! 死ぬってお前らぁっ! 俺はしがないEランク冒険者で、モンスターでもBランク冒険者でもないんだからなぁッ!?
必死で、必死で剣を振るった。
そしてその抜けてくる数は絶妙の数とタイミングなのである。
つまりは、死ぬ気でやればなんとかなる。
――ひぃッ! ひぃいいいッ! お前ら、覚悟しとけよぉ! 今夜……って、ヤられるのは俺の方だったわ……っと危ねっ!
「パパぁ、集中してやらないと駄目だからねー」
「旦那様、頑張れ、です」
「うぉおおおッ、コナクソォオオッ!」
金多は、ロリサキュバスとクールプリンセスのブートキャンプに、必死で腰ではなく剣を振るうのであった。
「ほらパパ、もっと腰を入れて!」
「ンのぉおおお~~~ッ!」
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