43、チラッと下層へ行って戻ってみると……

「ははっ、姫織もちゃあんと強くなってんじゃあねぇか、これはオレもうかうかしてられねぇな。Bランクモンスターをソロ攻略したとなれば、Aランクも十分見えてるな」


 そう言って獰猛に破顔するのは陽香である。

 Aランク探索者はAランクモンスターを斃せなくてはならない。ということはない。モンスターのランクはだいたいパーティ単位で考えられる。そのため単身でBランクモンスター上位であった氷大蛇を斃せたのならば十分にAランク探索者の資格はあるのである。


 :姫織ちゃんはよう頑張った!

 :さすクールプリンセス!

 :流石は我が姫

 :↑あれ? 絶滅されたんじゃあ……


「戻ったら確認してみたらどうだ? どうせ専属配信探索者ってことで見てるんだろうしさ」

「そうですね、そのようにしてみます」


 刀を納めながら姫織が言う。

 が、


「それで、今日はこの先も行くのですよね?」

「ああ、そうさ、金ちゃん、覚悟は良いか?」


 と陽香が言う。

 金多は、


「ああ」と頷いて、「行こうか、リリィ、下層へ」

「ふふっ、そうね、ようやくね♪」


 そう言って彼女は妖しく微笑んでいるのであった。



   ◇◇◇



「ようこそ、下層へ」

「お姉ちゃんってこういう時すかさず格好をつけるわよね?」

「………………」


 金多たちが21階層に降り立った途端、すかさず陽香は両手を広げて言ってきた。そこにリリィから投げかけられた言葉で、お姉ちゃんは耳まで赤くしてしまうのだ。

 ちなみにリリィは、


『年を考えたら?』


 と付け加えようとして咄嗟に口を噤んでいたのである。

 セーフっ!


 と、陽香お姉ちゃんの可愛いところを見られたところで、降り立った21階層は、まさしく迷宮と言った様相の階層になっていた。

 壁は人工物と思えるものに変わって、古代の迷宮じみた印象を与えてくる。陽香の言葉によればここはまさしく迷宮であって、慎重にマッピングしながら進まなくては迷うのだそうだ。途中モンスターのやって来ないセーフティーゾーンもあるらしく、そこで泊まりつつ進み、陽香が辿り着けた最高階層は26階層なのだと言っていた。よくソロで辿り着けたものである。


 二十階層まではだいたい十階層を拠点とし、探索範囲を広げて、二十一階層のセーフティーゾーンに辿り着くまではこれと言った宿泊場所もなく強行軍となるのである。金多たちの予定としてはそこまで辿り着いて一泊し、下層の印象を感じてから一旦今回の探索は引き上げることとなっていた。

 ちなみに食糧は探索者協会推奨の携帯食を持ち込んでおり、途中、モンスターが落とすドロップ肉や採取された野草類を食しても来た。9、10階層の海の幸は最高だったと述べておく。


 と、金多たち一行が下層を進んでいれば、


「ッ、リビングアーマー……」

「ああ、Cランクのモンスターだな。金ちゃん、やってみるか?」

「ああ、やらせてくれ」

「良いわよ、パパだったらいつだってヤらせてあげてもー……イイエナンデモアリマセン」


 ギロリと陽香に睨まれれば、リリィは黙るのだ。


「ハァアアアッ!」


 金多はリビングアーマーと戦って、幾たびの剣戟の後に仕留めていた。同じCランクとは言えども、ただぶつかって来るマグマボールとは勝手が違う。だが、Cランク上位のリビングアーマーと言えども、金多は危なげなく勝利することが出来たのだ。


「うーん、この感じなら二、三体までならやれそうだな」

「そうだな、それくらいなら……」

「じゃあ、まだ最初の方はリビングアーマーくらいしか出て来ないから、金ちゃんメインでやってもらおうか。キリングドールが出たりしたら即替わるけどな?」

「ああ、それは頼む」

「おしっ」


 陽香が両手を打ち鳴らすと、金多一行は先へと進むのであった。

 それからは順調に進んで行けたと言えただろう。無事セーフティーゾーンへと辿り着いて、一夜を――ウン、四人で一夜を過ごして――、一行は帰路につくことにしたのである。


 そして20階層へと戻った時であった。


「あなたはぁ、ダンジョンをぉ信じますかぁ?」

「あっ、そう言うの結構なんで」


 思わず答えてしまったが、数人のローブを纏った黒づくめの男たちがいたのであった。


 :え、もしかしてこいつら、ダンジョン教……?

 :逃げた方が良いぞ、面倒臭いから

 :ま、襲いかかってきても返り討ちには出来るだろうけど

 :通報しました



   ◇◇◇



「我らはダンジョン教。ダンジョン様の試練に挑みダンジョン様の恩寵を受ける者なり」

「ダンジョンの試練に挑み踏破せよ」

「汝らには資格がある。我らとともにダンジョンを攻略すべし」


「うわぁ……」


 まるですでに呪文のように言い出した彼らに金多はドン引きしていた。が、

 陽香と姫織、そしてリリィは眸に剣呑な輝きを宿す。


「えっと、興味ないんで」

「ダンジョンにいると言うことは我らに賛同すると言うこと、それを裏切るのか」

「然り、愚か者にはダンジョンの代行者である我らが天罰を」

「或いはダンジョンの御子を置いてゆけ」

「マジかよ、話通じないのかよ……って、あ?」


 彼らの視線がリリィにも向けられていることに金多は気が付いた。それには何故か畏敬の念も含まれていたのである。


 ――もしかして、ダンジョンから生まれたモンスターだからリリィのことも神聖視してるってか? ……いや、こいつらダンジョンを試練って言ってたから、普通にモンスターは斃すんだよな? 攻略するってそう言うことだし……ま、兎に角、


「リリィをやるわけないだろ、リリィはうちの子だ」

「パパ……、そこは肉便器とか性奴隷って言ってくれた方が……」

「色々台無しだなぁ!?」


 陽香のように気取ったつもりはなかったが、そうまで台無しにしなくても良いではないかと金多は思うのだ。が、


「聞く耳もたず、愚かな」


 ダンジョン教信者はブーメランを放ってきた。


「ならば我らが天罰を下そう。その後に教化を行う」


 :それって洗脳って言うんじゃあ……

 :やっぱダンジョン教はクソ集団だよ!


「我らが神に栄光あれ」

『栄光あれ』


 そう言うと彼らは見覚えのある石を取り出すと、


「ッ、魔変石っ!?」


『GUOAAAッ!』


 そこには、数体のモンスターが現われるのであった。

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