44、VSダンジョン教徒
『GUOAAAッ!』
「ッ、こいつらッ!?」
20階層である雪原地帯で、魔変石を使ったダンジョン教信者たちはモンスターと化していた。以前にナイトの男がダーティーナイトに変貌したのと同じである。その姿はまるで黒色のオーガのよう。だが、
「我らが神に栄光あれ」
『栄光あれ』
「こいつら、理性が!?」
「これぞダンジョンの恩寵、我らの信仰心にダンジョンが応えてくれたのだ」
「ロクでもねぇなッ!」
金多が剣を抜けばすでに彼女たちは臨戦態勢。
「金ちゃん、オレはあっちのをやる! 金ちゃんたちは自分たちの身を守りつつこいつらの注意を惹き付けてくれ」
「あぁっ!」
「承知しました」
「おっけー……」
金多、姫織、リリィと承諾すると、陽香は相手のリーダーらしきモンスターへと飛びかかってゆく。
「GUOOOOOOッ!」
「オラァアッ!」
赤熱した陽香の鉄甲とモンスターの巨腕が激突した。
ビリビリと空気が振動し、陽香が忌々しそうに顔を顰める。
――こいつは厄介だな……。少なくともAランクだ……。これはヤベぇな……。
陽香の背には冷たい汗が流れていた。
「ハァッ!」
「シィイッ!」
金多が『身体強化』を使い、姫織が刀に鱗状の氷を 〝氷戦刃〟、蛇腹剣状にしてモンスターに斬りかかるのである。
「こいつら、強いっ」
「ええ、ですが以前のアイスダーティナイトほどではなさそうです。恐らくですが、理性を残している分凶化という点では緩いのでしょう。強いことに変わりはありませんが……」
言うならば彼らはAランク下位と言うところか。
そのモンスターたちの攻撃であったが、金多は相手の隙を見、攻撃を逸らし、その最中に姫織が攻撃を当ててゆく。金多がそれほどまでの動きが出来ているのは、むろんリリィの御陰ではあった。陽香の方も含めて絶妙なタイミング、位置でモンスターたちに〝サキュバス弾〟を当てることで、たとえ高位のモンスターであっても戦えるように場をコントロールしていたのである。
――でもダメね。このままじゃあ押し切られるわ。
だがリリィは現在の状況をそう正確に分析していた。
むろん、それは陽香だって。
――ヤベェぞ、こんな状況……、こいつらがヤベェやつらだってのは知ってたけど、まさか魔変石を使いこなして来やがるなんて……。
:おいおいおいおい、これヤベェやつじゃん
:通報しました
:ちょっ、近くにいる探索者はいねぇのかよ、20階層なんて協会もすぐには行けないぞ?
:殺されることはないんだろけど、あいつらの言い分だとテロリストが増えることに……
:縁起でもないことを言うんじゃねぇよ!
コメント欄が騒がしくなる前で彼らの戦いは続いていた。
金多は辛うじて攻撃を逸らしているが、疲労が蓄積して徐々に躰のキレが落ちて来ている。一撃でももらえば明らかにそれで終わりであろうモンスターの攻撃の前では、のし掛かる緊張感に精神がすり減らされる。姫織も健闘しているが、蛇腹剣で押え込む余力がない。金多とスイッチすれば良いと思われるかも知れないが、むしろそうすると金多が上手く加われなくなって、姫織が一人で相手をすることにも成りかねないのだ。金多が前に出てリリィがフォローをし、姫織が隙を突く。それこそが彼らが見つけ出したフォーメーションであって、だからこそすり潰されずに持っているのである。本来ならばそこに陽香が加わって相手を叩き潰すのだが、如何せん陽香は彼らのリーダー阻まれて動けない。
――これは、もうさっさとやっておくべきね。
以前の反省からリリィはすでに「成長」を使おうとしていた。今はそのタイミングを見計らって、
――今ッ!
「二人とも!」
「「ッ!」」
リリィの言葉に金多と姫織が反応し、咄嗟に道を空ければ少女 それも前よりも成長した姿のリリィがモンスターたちの前に立った。拳にはピンクのリボン状の魔力が巻き付いて、
「ラァアアアッ! サキュウッ!」
「GUOGAAッ!」
モンスターの一角が崩され、
「はぁッ! 〝氷戦刃〟ッ!」
姫織の氷の蛇腹剣がモンスターの腕をはね飛ばした。
「よしっ!」思わず金多は拳を握りしめる。
彼らは元は人であったし、人に戻れる可能性は十分にあった。が、今はもはや四の五の言ってられないのだ。生きていればそれでよし。金多は邪魔にならない場所に動き、姫織は空けてもらった射線で〝氷戦刃〟を振るう。
「GUOOOッ」
「GIIAAAッ」
:うわグロ画像……
:だけどまあインガオホー
:おほぉ!
:そこだけを抜き出すんじゃねぇよ!
コメント欄も俄に弛緩した。が、
「ぬぅ、流石は「種子」に選ばれた者たちか。我が神に栄光あれ!」
『栄光あれ!』
リーダーらしき者がそう叫べば、先ほどまで金多と戦っていたモンスターたちは萎れるようにして消え、後には魔変石が残された。その魔変石がリーダーらしきモンスターの元へと飛び、彼はそれを、
「ガリィッ、ボリィッ!」
「こいつッ!?」
:えっ? ってことはこいつ、仲間を喰ったんか!?
:ヒィイイイイイッ!
「GUUッ、OOOOOーーーーーッ!」
ミシメキと、彼はその体躯を大きくし、躰には血管のスジが浮き、湯気を上げて励起した。
「ッ、マジかよ……こんなの……」
陽香も思わず気圧される。
そこには、文字通りの化け物がいたのであった。……
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