41、中層攻略

 ダンジョン中層攻略――、

 金多がCランクとして認められてから、金多パーティは中層攻略を目指すことにした。地道な鍛錬、リリィの強化によって、ここを突破出来るほどに金多たちは〝力〟を上げていたのである。


「ハァアアッ!」

「きゃーっ、行っけー、パパー♪」

「フッ」

「オラァ!」


 金多が剣を振るい、肩車のリリィがはしゃぎながら〝サキュバス弾〟を撃つ。姫織は冷気を纏った刀を振って、陽香は赤熱した拳を打ちつける。完全に攻撃力に振り切ったパーティであったが、攻撃は最大の防御なりと言うべきか、飛び出してくるマグマボールに、焔の蛇、色の黒いヤドカリじみたモンスター。溶岩流れる火山地帯に相応しい、焔や岩系のモンスターが次々と現われてきたのである。


 ――成程、確かにこれは陽香が言っていた通り、あの時の俺じゃあまだまだ進めないな。


 溶岩の流れる河から四方八方とモンスターたちは襲い来る。それだけならばまだ良かったかも知れないが、モンスターたちは溶岩の飛沫を上げ、金多自身も動いて避けなくては巻き込まれるのである。防御系のメンバーがいればまだ違っただろうが、残念ながら女性陣三人のバトルスタイルは、守りには不得手であった。だからこそ金多自身が強くなって、最低限身を守る力量が必要となったのである。


 ――だけどもう俺だって守られるだけじゃねぇんだぞ!


 斬ッ!


 やって来たマグマボールを切り捨てた。陽香も姫織も、流して大丈夫なモンスターは金多へと流してくれるのだ。その上で自分たちは、やはりより強いモンスターの相手をしている。苦戦らしい苦戦はしていないのだが、瞬殺出来るような相手ではなく、尚且ついやらしい動きで粘られる。


 AランクとBランクの二人でこれである。

 二人とも中層の最後である20階層までは行ったことがあるそうだったが、態々敵と戦うのではなくすり抜け、切り抜け、そして戦える時に戦いつつ20階層まで辿り着いたそう。

 姫織はそこまでであって、陽香は下層で活動していたらしいのだ。


 それほどの二人――それぞれソロでそこまで行ける実力者――であったが、リリィのパワーアップのためにもしっかりとモンスターを斃し、金多を守りながらであればこうなるのだろう。尤も、二人が戦うまでもないモンスターは金多に任せられ、尚且つ、


「そこッ! 〝サキュバス弾〟!」

「GIOOOッ!?」

「絶妙なタイミングでくれますね。夜と言い……、癪ですが頼もしいですね」

「ははっ、すっげぇやりやすいな!」


 リリィが司令塔として活躍していたのである。

 絶妙なタイミングで魔力弾を放って、金多に肩車をされながら前衛の二人の援護を行ってゆく。むろん金多に近寄るモンスターに牽制も行って、金多の援護も行う。

 確かに偏ったパーティではあったのだが、リリィの動きによって滑らかに、十分に連携と呼べるものにまで昇華されていたのであった。


 そうして無双や瞬殺ではないものの、順当に、あまりにも順当に進めば、金多たち一行は15階層にまでやって来ていたのであった。

 中層に入ってからは2階層ずつではなく、5階層ずつ同じ系統のフィールドが続く。


 15階層までは火山地帯の階層であって、一行は行きつ戻りつし、10階層で宿泊しつつ探索範囲を伸ばし、ようやく15階層まで到達できるようになっていた。


「おっし、金ちゃんの様子も良さそうだし、16階層に行けそうだな。それに姫織も強くなってるしな」

「はい」


 そう言う大正時代の学生服じみた袴姿の姫織は、凜とした姿で頷く。彼女はBランクの探索者ではあったが、最近は伸び悩んでもいたのである。それが今、殻を脱却しつつある手応えを得ていた。この火山地帯でこれならば、16階層からのフィールドであれば――、


「んじゃあ、行くか? 16階層」

「ああ!」


 陽香の言葉に、金多一行は力強く頷くのである。



   ◇◇◇



 15階層までが火山地帯であれば、16階層からは雪原地帯である。

 一面の雪景色に、時折容赦のない吹雪が襲いかかってくる。


「さむーい、パパ、くっついて温まろうー♪」

「おう……って、お前は肩車されたままじゃねぇか」


 確かにむっちりとしてきた太股はとても柔らかくて温かかったけれど。

 リリィは魔力で周囲の環境に対する耐性を持っていて、姫織は冷気で、陽香は熱気で対応できるのだと言った。逆のものは相殺するのだと思うが、同じものは中和させて対抗するのだと言っていた。流石は魔法であった。残念ながら金多のスキルは『身体強化』のみであったのだが、どうやら鍛えていくうちに耐性の面でも能力上昇が見込めたらしく――間違いなくリリィをテイムした恩恵だろう。それも〝力〟の上昇には含まれた――、火山地帯で過ごしているうちに徐々に環境の影響が少なくなっていることが感じられ、そうして訪れたこの雪原地帯でも同様の恩恵が感じられたのだ。


「良いな、金ちゃんちゃんと適応してきてるじゃねぇか」

「ああ、なんとかな」

「よっしゃ♪」


 ニカッと笑う陽香にはドキリとさせられた。元々姉御肌ではあったのだが、肌を重ねるようになるにつれ、彼女はなんというかオカン――ゴホン、ママみのようなものを醸すようにもなってきた。

 と、


「……痛いぞ、リリィ」

「パパがお姉ちゃんにデレデレしてるのが悪いんでしょー? ハーレムは許すけど嫉妬しないワケじゃあないんだから!」とリリィが柔らかい太股でギリギリと金多の首を締めつける。が、


「えっ、金ちゃん俺にデレデレしてたのかよ、まいったなぁ……(テレテレ)」

「照れると可愛いな、陽香」

「ぅえっ!?」

「あっ、いやっ、思わず……」

「お、思わず可愛いと思ってくれたのかよ……ゴクリ」

「その方法で温まるのは如何なものかと思います」


 破廉恥チェックが通ります。


 :ちょっとブラックコーヒー淹れてきます!

 :たぶん帰ってくるころには戦闘パートなんだよなぁ

 :姉御が幸せなのは良いけれど、これはちょっとキツいと感じるのは何故だろう?

 :あの姉御が牝の貌をしている。以前ならプークスクスだったのに魅力的に見えてきて色々とツラい

 :やべぇぞ、舎弟どもが何かに気づきはじめている!

 :祝福して送り出した筈の姉御が思っていた以上にイチャイチャデレデレしていて解釈が異なってじわじわとBSSっぽいダメージを受け始めている件

 :無駄に長いタイトルな件w


「ま、まあ、進もうぜ」


 と陽香が慌てたように促すと、一行は16階層の雪原地帯を進んで行くのである。雪原地帯では角の生えた巨大な兎や、雪だるま型のモンスター。白い狐なども存在していた。何気にBランクモンスターも出現し、金多も戦闘に加わりつつ探索を続けたのである。


「チッ、吹雪いてきたな……」

「こう言うときは裸になってお互いを……」


 とリリィが陽香に言えば、


 :全裸待機、全兵に告ぐ、全裸待機である

 :全裸待機、オーバ

 :全裸待機、どうぞ

 :全裸待機、全裸待ー機!

 :すげぇ、よく訓練されてやがるw


 ただし残念ながら情状酌量の余地なく垢BANされてしまうため、出来よう筈もない。

 と、


「あっ、2時の方角からモンスター」

「あいよ! オラァ!」

「GYAAAッ!」


 陽香が拳を振れば焔が飛んでゆき、向こうからはモンスターの悲鳴が聞こえた。


「良く分かるなぁ、リリィ」

「ふっふーん、もっと褒めてくれても良いのよ? 頭や太股の内側を撫でたりしてぇ♪」

「センシティブです!」


 あれ? 死んだ筈の破廉恥さんが転生した?


「ま、助かるわ。この視界だからな。オレも姫織も索敵できるけど、リリィの方が精度が良いもんな」


 そこにどうして金多が入らないものなのか。

 お察しだ。

 そうして時折現われるモンスターを次々と斃しながら、金多たち一行は吹雪の中を進んで行ったのである。


 ――こうしてみると、魔石の効率としては火山地帯の方が良かったのかもな。……っと、


 金多がそうボンヤリと思った時だった。


 ザァアアアッ!

 バサァアアッ!


「MOHUーーーNNッ」


 巨大な角の生えた兎のモンスターが、何匹も一斉に飛び出してきたではないか。


「一気に来やがったな」

「オッケー、金ちゃん一匹ぐらいやってみるか?」

「ああ、頼む!」

「ははっ、良いねぇ」


 陽香がベロリと唇を舐め、姫織もすらりと刀を抜いて駆けてゆく。

 金多はリリィを肩車したまま一匹を迎え撃って、彼らはとうとう、20階層にまで到達するのであった。

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