12、ハイ論破

 :おぉっとぉ? ここでリリィたんが呼び止めたぁ!

 :女の戦い、キターッ!

 :うちのパパにイチャモン付けといて、それで済ませるつもり? あんた、まさかあたしのママになるつもりじゃないでしょうね?

 :↑ちょっと、お話ししようか?

 :ナイトの奴がこのコメントでデカい顔するの鬱陶しいんだけど?


「………………」

「………………」


 リリィと姫織が睨み合った。

 桃色の火花と冷たい刃が鎬を削って、まるで見えない風が吹き荒れるよう。そこでリリィが紅い唇を開くのだ。


「覚悟をしておくって、今ここで何かはしないつもりぃ?」

「はい、そうですよ。私は辻斬りではありませんので。まずは警告をし、駄目ならば真っ当な手段で対応させていただきます」

「ふぅーんー……」


 真っ当な手段とは、モンスターでありながらもロリの風貌である彼女はカテゴリ:幼女であって、彼女のキワドイ衣装、性的表現は児童ポルノに該当し、モンスターであるからと言って飼育して戦わせるなど、社会的悪影響が懸念される事案として厳重注意および規制されるべき事案であって云々……。


 つまりはロリサキュバスを飼育して戦わせるなんて、エッチぃし変な性癖を刺激したりして社会敵悪影響が懸念(実際に因果関係が証明されているワケではない)されるだろ? じゃあ、金多のチャンネル、および二人の関係は不適切なものだ!


 と声を上げ、法的拘束力はないが社会的拘束力を発揮させることであった。

 何せ彼女は十万人を超える登録者数を誇る人気配信探索者だ。元登録者数一桁のゴミとは社会的影響力は比べものにならない。その結果起こることと言えば、……

 だが、


 ――クソが……。


 その予想に金多は反吐が出そうになる。

 確かに小さい子は護るべきものだとは思うし、社会的悪影響も否定はしきれない。が、リリィは脱法ロリであって、実際襲われているのはこちらであって、そして社会的悪影響は結局真似する奴が悪く、確かにきっかけかも知れないが、実際それまでの教育の失敗とそいつの性根がそうだったことの方が要因だろう。だが、それらしい理由に飛びついて燃やしたがるのが人間というものだ。


 そして影響力が大きいということは、余計なことをする人間にまで声が届くのである。

 身バレ、家凸などなど。


 幸いと言うべきか金多には省みる家族なんてものはない。だが、鬱陶しいことはこの上ないのである。しかしだからと言って配信を止めるつもりもリリィと別れるつもりもない。


 いや、最悪配信は止めても良いかも知れないがリリィと離れるなど出来る筈もない。何せリリィはうちの娘であって、そして、金多に夢も希望も思い出させてくれたロリサキュバスであったから。金多は拳を握りしめ、


「お前が何と言おうと、何をして来ようとも俺はリリィを手放さないぞ。お前の方こそ覚悟しやがれ」

「ふふっ、パパ格好良ぃ🖤」


 にこやかに微笑むリリィが抱きついて来てくれる。

 その体温と柔らかさに、金多は想いを強くするのである。


「破廉恥……」姫織はまるで破廉恥botのように繰り返す。


 と、リリィは姫織に向かって、


「ふふん、ま、あんたはそれしか言えないんでしょうね。あたしたちのことを羨ましく思っているむっつりのクセに。この、Mっつりがッ!」

「――は?」

「ッ!?」


 :ほほぅ、クールプリンセスがむっつりと。しかもM!?

 :リリィたんそこんとこ詳しく

 :まさかあれほど破廉恥嫌いのクールプリンセスがむっつりだったなんてそんなことががが、しかしそれはむしろ納得出来る話であって否、むしろそうであってくれると私はたいへん捗るという夢と理想と希望がむっちむっちに詰まった玉手箱であって……

 :落ち着くんだ同士、クールプリンスの破廉恥はむっちむちち……っ

 :おい、ナイトの奴がバグりだしてるぞ!

 :こらこら落ち着きなさい。クールプリンセスは実はむっつりだった。それに君はたいへんはぁはぁする。それを暴いたリリィたんサイコー。ほら、リポイートアフターミー。リリィたんサイコー

 :リリィたんサイコー!

 :リリィたんサイコー

 :洗脳完了Q.E.D.

 :いや、単にナイトの鎧の中身は俺らみたいなオークだっただけだろ?

 :なんて説得力w


 切れ長の目を大きく見開いて丸くする姫織に、リリィはふふんと勝ち誇ったようにそのぺったんこな胸を張る。


 対して姫織は不機嫌そうな声音で、「何を勝手なこと言っているのですか、私は本心から破廉恥が嫌いです。社会に悪影響しか及ぼさず、そうした目を向けてくる男性のなんたる不潔なことか」


「だったらどうして配信者なんてやってるの? 本気で嫌だったら、破廉恥を絶対に許せないんだったらそもそも配信者なんてやらな――うぅん、そんなこともないかも知れないから言い換えるわ。どうしてあなたのファンにはちゃあんとナイトなんて言う拗らせ男性が多いのに、むしろ悦んで配信者なんてやっているのかしら?」

「そっ、それは彼らが私の理念に賛同してくれる紳士だからであって――」


「きゃははぁ! すっごぉい、おっもしろぉい! じゃあ今度聞いてみたら良いじゃない、私で一度でもシコった奴は、おっぱい見せてあげるから名乗り出なさいって、ほら、やってみなさいよ、ほらぁ!」


 ハイ論破ー。ねぇ、どんな気持ち? 今どんな気持ち? とばかりにリリィが煽り立てる一方では、


 :ブヒィイッ!(リリィたんでシコりました!)

 :ブヒィイッ!(リリィたんでシコりました!)

 :ブヒィイッ!(プリンセスたんでシコりました!)

 :ブヒィイッ!(リリィたんでシコりました!)

 :あっれー? キモキモリスナー(俺ら)もナイトの中の人も見分けがつかないぞぉ?


「くぅっ、シ、シコ……なっ、なんて破廉恥なことを! 邪悪です! 貴女は邪悪です! もはや一刻の猶予もありません! 幸いにも貴女はモンスター。ここで私が切り捨ててくれましょうっ!」

「あっれれー? 言葉で勝てないからってぼーりょくに訴えるのー? うわー、その方が社会に悪影響じゃないのー?」


 :流石はリリィたん。あたしのメスガキ力は53万です

 :うわー、クールプリンセスたんメスガキに言葉で勝てなかったからって刀を抜くのかー。俺、クールプリンセスたんのファン止め……いや、やっぱりなんかその小者的なところに惹かれなくもないのだが?

 :そんな、姫、姫のそんな小者臭漂うムーブ……むしろアリでござるぞ

 :やべぇな、やっぱうちのキモキモリスナーもナイトもどうしようもねぇぜ


 コメント欄が戦慄している前で、とうとう姫織は刀を抜き放ち、リリィに向けて構えてしまっているのである。


「ちょっ、止めろッ! 人のテイムモンスターに何しようとしてるんだよッ!」

「まさかあたしにナニをしようって言うの!? それをシていいのはパパだけよ!」

「なんでお前が答えるんだよ……」

「破廉恥な……、やはり邪悪……」


 いゃんいゃんと自分の小さな躰を抱きながらくねくねとするリリィに、ギリリと破を噛み締める姫織。

 端的に言ってカオスな状況で、リリィは、


「大丈夫だから、パパ、パパはそこで後方父親面して見てれば良いの。……悪いけど、パパじゃあのむっつりには勝てないよ」


 :確かにむっつりには勝てない

 :クールプリンセス「私のむっつり力は53万です」

 :ひゃっふぅうッ、メスガキ力53万とむっつり力53万の夢の対決だぜぇ!

 :歴恥に残る戦いが今はじまる!

 :誤字ではないw


 と、やはり三人ともが気が付いていないコメント欄は好き勝手言っていたが、むっつり云々は置いておき、金多が姫織に勝てないのは自明の理であった。何せ彼女は新進気鋭の冒険者であって、すでにBランクまで上り詰めた猛者なのだ。ちなみに金多はEランク。残念ながらもはや雲の上の人と言って良いほどに力量は隔絶していたのである。


 ――くそッ、確かに一人でオークを斃せるくらいにはなったけど、オークもEランクだもんな。リリィの御陰でステータスが上がったって言っても、まだまだ俺はよくてDランクくらい。……クソッ。


「ふふっ、パパ、悔しがれるならパパはまだまだ上がれるよ。だから、今は!」


 リリィは刀を構えた姫織に向かうとペロリと紅い唇を舐めた。



「このむっつりさん、分からせちゃって良いのよね?」



“:メスガキが言うのかよ!”


 その時、コメント欄は一つになったのだと言った。

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