異性の好きな仕草No.1

 とある休日の昼下がり、我が家のリビングにて。


「――ねえ篠原しのはら


 ひたすらに怠惰たいだな時間を過ごしていたところ、不意に対面から声が掛けられた。そこにいるのは豪奢な赤の髪を揺らす桜花おうかの《女帝》、彩園寺さいおんじ更紗さらさに他ならない。


「女の子の好きな仕草、って何かある?」


「……なんだよ、突然」


 暇潰しの質問にしても唐突だ。


 虚を突かれた俺が顔を上げると、彩園寺は返事の代わりに端末の画面を向けてきた。表示されていたのは島内SNSSTOC内の投稿動画。内容は好きな異性の仕草ランキング、らしい。


「こういうことされるとドキドキする、ってやつね」


 紅玉ルビーの瞳をこちらへ向けて、彩園寺がくすっと笑みを浮かべる。


「この際だから、篠原が変態なのかどうか見極めてあげるわ」


「……変態って」

「ランキングとズレてたら変態ってことか?」


「そういうわけじゃないけれど」

「とんでもなく破廉恥はれんちな答えが返ってくるかもしれないじゃない」


「…………」


 もし仮にそんな下心を秘めていたとして、堂々とバラすことはないと思うが。


「にしても、好きな仕草か……」


 急に言われるとなかなかに難しい。定番は上目遣いやらボディータッチに類するものやら、萌え袖なんかも入ってくるだろうか。


 あとは、


「髪をほどく仕草、とか?」


 ふと思い付いた言葉を口に出す。


「これも定番っちゃ定番だけど、教室の中じゃあんまり見ない場面だからな」

姫路ひめじがヘッドドレスを外して部屋着に着替える時もそうだけど……オフって感じがして、ちょっとドキドキする」


「……ユキのこと、狙ってる?」


「そ、そういうわけじゃないって」


 彩園寺のジト目にぶんぶんと首を横に振る俺。


「ふぅん……」


 そんな俺に対してしばし不審な表情を向けていた彩園寺だったが、やがて「まあいいわ」と静かに首を横に振った。それからおもむろに両手を持ち上げて、赤の髪を結わいていたリボンをそっと外す。


 ふわり――と、長い髪が俺の眼前で舞った。


「……へ?」


「な、何よ、篠原」

「あたしじゃドキドキしてくれないわけ?」


「い、いや……」


 髪を下ろした彩園寺。


 希少レア度で比べるのは失礼だが、一緒に暮らしている姫路と違って彩園寺のオフモードは滅多に見ない。普段よりも少しだけ幼く見えるというか、距離の近さを感じながらもほのかな色気を感じる雰囲気。


「正直」

「……めちゃくちゃ、ドキドキした」


「っ!?」

「そ、そう。……べ、別に? あんたにドキドキされても、嬉しくなんかないけれど」


 片手で頬杖を突いてそっぽを向いてしまう彩園寺――。


 その首筋は、いつしか真っ赤に染まっていた。

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