恋人(?)の作法
ある日、俺は――お洒落なカフェにいた。
内装もメニューも、明らかにカップル
「あーんして? ……ひろと」
わずかにたどたどしい名前呼び。
ほっそりとした左手は最初から俺の右手に重ねられていて、続けて上半身を器用に捻った彼女は空いた右手でケーキの上のイチゴを運んでくれる。
「どう? 美味しい?」
「あ、ああ……めちゃくちゃ美味い」
「そう。それなら、良かった……幸い中の、幸い」
表情こそ変わらないものの微かに嬉しそうな声音でそう言って、皆実は同じフォークを使って自分自身もケーキを食べる。
「! そ、それ、間接キスになっちまうんじゃ……」
「?」
「今さら……ひろとは、意外に
「そういうところも、可愛げ。母性を、くすぐりまくり……?」
「今さら、って……」
整った横顔を見ながら、彼女が繰り出した発言にドキリとする俺。今さら――そう、だったか? 俺と皆実にとって間接キスくらい普通のことなのか?
「それは、そう……」
俺の内心を読み取ったかの如く、青のショートヘアが前後に揺れる。
「わたしとひろとは、恋人同士だから……間接キスなんて、序の口も序の口」
「とっくに、一線も超えてる……違う?」
じ、っと俺の目を見つめながら淡々と囁く皆実。
記憶にはないが、彼女がそう言うなら――……
「むにゃ、ん…………って、へ?」
「あ」
――そこで、不意に目が覚めた。
とある休日。俺がいたのはお洒落なカフェでも何でもなく、駅前にあるごく普通のファミレスだ。テーブルに突っ伏して寝ていた俺の耳元に、対面の皆実(聖ロザリアの制服姿だ)が身を乗り出すような格好で唇を寄せているのが見て取れる。
「洗脳、失敗……」
ちょこんと座り直した彼女は、残念そうに青のショートヘアをさらりと揺らした。
「もう少しで、ストーカーさんをオトせるところだった。……惜しい」
「……何の話だ?」
「寝てるところに声を掛け続ければ、夢の中身を操作できる裏技……」
「ストーカーさんで、人体実験?」
「物騒な話だな、おい……」
軽く首を振りながら体勢を起こす俺。……だが、言われてみれば確かに有り得ないことが起こっていたような気はする。
さすがに全てが狙い通りだとは思えないが。
「ちなみに、俺にどんな夢を見せようとしたんだ?」
「? そんなの、愚問……決まってる」
「ストーカーさんが美少女に生まれ変わって、わたしとイチャイチャする夢」
「……見れた?」
「…………どう、だったかな」
美少女になっていたかどうかは定かじゃないが――。
皆実の持つ謎の夢操作スキル(?)に、改めて驚愕する俺だった。
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