お忍び不要な休日デート
――春休み。
期末総力戦の処理がおおよそ一段落し、本物のお嬢様こと
『というわけで――さっそくお出掛けしましょう、
端末を介した唐突なお誘い。いかにも楽しげな雰囲気を声に乗せながら、好奇心旺盛な彼女は(俺を置き去りにして)話を進める。
『わたし、どうしても行ってみたいスイーツのお店があるんです』
『
『嫌ですか?』
……さすがに、嫌なわけはない。
(強引っていうか積極的っていうか……
昨夜の通話を苦笑交じりに振り返る俺。
春休みの真っ只中、時刻はランチタイムを少し回った頃合いだ。羽衣が選んだスイーツショップはいわゆる超人気店で、見渡す限り全ての席が埋まっている。そのほとんどが女子のグループか、もしくはカップル。どこもかしこも華やかだ。
そして、
「ん~♪」
「美味しいです、とっても。クリームが甘くて幸せな気持ちになりますね」
俺の対面では、上品な金糸のお嬢様――羽衣紫音が頬を
普段は自由奔放かつ好奇心旺盛、どこか底知れない雰囲気も併せ持つ彼女だが、今日の印象は大きく違う。年相応というかあどけないというか、とにかく無邪気で可愛らしい少女という印象だ。
が、それも仕方ないというものだろう。何しろスイーツが美味すぎる。
「道理で人気も出るはずだよなぁ……」
チーズケーキの欠片を口へ運びつつ、
「
「ふふっ、そうですね」
「ですが……篠原さん?」
と、そこで対面の羽衣が不意に小さく首を
彼女は頬の近くで〝ピッ〟と人差し指を立てながら言う。
「今はわたしとのお出掛け中……もっと言うなら、
「そんな時に他の女の子の名前を出すなんて、マナー違反になってしまいますよ?」
「えっ」
「あ、ああ、それは悪かっ――」
「いいえ、ダメです。許しません」
「罰として……あーん、してください」
「!?」
聞き間違いかと思って耳を疑う俺だが、羽衣は右手に持っていたフォークでクリームたっぷりのパンケーキを切り分け、俺の方へと差し出している。
「や、ちょ、あーんって……」
不意打ち気味の所作にドキリとしつつ、俺はどうにか
「……どういう罰なんだよ、それ?」
「篠原さんならたくさん照れてくださるかな、と思いまして」
「それに……」
そこまで言った辺りで、羽衣が唐突にちらっと視線を〝後ろ〟へ向ける。
と――
『やばっ!? ユキ、しゃがんでしゃがんで!』
『声が大きいです、リナ。……見られていないことを祈るばかりですが』
「…………」
羽衣の背後。いくつか離れた席でばっと身を隠す、2つの見知った人影。
「ふふっ……」
ゆっくりと身体を戻しつつパンケーキを自分でぱくりと食べてから、羽衣はうっかり
「雪や莉奈とは濃い日々を過ごしてきましたが、2人から〝嫉妬〟されるのは生まれて初めてなので……」
「少し、楽しくなってしまって」
「……はいはい」
どこまでも強キャラ感の溢れる発言に、小さく肩を竦める俺だった。
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