お嬢様のナースコール

『もしもし、篠原しのはらさんですか?』

『あの、少しお願いがあって』


「お願い? どうしたんだ、羽衣はごろも


『はい』

『実は、昨日から少し体調を崩していて……微熱ですが、お医者様からは〝風邪だろう〟と』

『良かったら、看病しにきていただけないでしょうか?』


「は、羽衣が、風邪……!?」

「そんなことが本当にあるんだな」


『……あの、篠原さん?』

『とても驚いているように聞こえますが……もしかして、馬鹿は風邪を引かないはずなのに~、とでも言いたいのですか?』


「違う違う、むしろ逆だよ」

「最強のラスボスとか隊長リーダーキャラとかが風邪で倒れるシーンって、あんまり見たことないだろ?」


『篠原さんがわたしをどう認識しているのか理解できました』

『いいです、それなら1人で寂しく苦しんでいますから』

『わたし、強い子になるってお父様から太鼓判を押されたこともあるんですよ? これくらいの逆境は何でもありません』

『つーん、だ』


「いやいやいやいや」

「茶化して悪かったよ、羽衣。それに、行かないなんて言ってない」


『本当ですか?』

『今なら間違いなく、あられもない寝間着姿を篠原さんに見せることになってしまうのですが、それでも?』


「……なんで行きづらくなるような情報を足すんだよ」


『そもそも彩園寺家のお屋敷なのでお世話してくれる方はいらっしゃいますし、何なら莉奈リナも隣の部屋にいるのですが、それでも?』

『どうしても、弱り切ったわたしに会いたいと?』


「なんで行きづらくなるような情報を足すんだよ!」


『ふふっ』

『すみません、冗談です。……まあ、情報としてはどれも正しいのですが』

『珍しく気持ちが弱っているので――篠原さんに来ていただけたら、とっても嬉しいです』


「…………」

「ったく」

「だったら最初からそう言ってくれよ、お嬢様」

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