中二病魔王の進路相談
「あのね、あのね!」
「お兄ちゃん、ちょっと手伝って欲しいことがあるんだけど……」
激闘だった期末総力戦が終幕を迎えてしばし。
のんびりと穏やかな日々を過ごしていた俺に、おずおずとした声が投げ掛けられた。
「ん……?」
――
目に入るのは漆黒と深紅のオッドアイ。ひらひらのゴスロリドレスに身を包み、胸元にはケルベロスのぬいぐるみ(命名:ロイド)を抱いた中学生だ。ただし学校には通っておらず、
とと、っとこちらへ駆け寄ってきた椎名は、俺の目の前でさらさらの黒髪を揺らしながら話を切り出す。
「もし……もし、ね?」
「もし、わたしが学校に行くことになった場合……」
一言ずつ、迷いながらも紡がれる言葉。
(ああ……)
詳しいことを語り始めると長くなってしまうのだが――期末総力戦とそれに伴う諸々の事情で、来年度から
そして――もちろん、学校に行きたくなったというならそれもアリだ。
「……ん、と」
まだ日数はそれなりにあるが、既にその可能性を検討し始めているんだろう。
ロイドをぎゅっと抱き締めた椎名はしばし言葉に迷って――それから、勢い込んで頭を持ち上げた。
「――決めなきゃいけないの!」
「わたしが、どんな設定で地上の学校に通うことになったのか……って!」
「……うん?」
いまいちピンと来なくて首を傾げる俺。
が、それでも椎名はお構いなしだ。
「お兄ちゃんも知ってのとーり!」
「わたしは魔界の偉い王様で、
「そんな人がいきなり人間界の学校に行ったらちょっとだけ変だから……」
「だから、ビビッとくる説明が欲しいの!」
流れるようにそう言って、純真な瞳でこちらを覗き込んでくる椎名。
(……なるほど、な)
それを聞いた俺は、ようやくこの会話の意図に思い至る。
(要するに、背中を押して欲しいのか)
(学校に興味が出てきて、行ってみたいけど踏ん切りが付かなくて……だから、分かりやすい理由が欲しいんだ)
(なら……)
そんな彼女のSOSに応えるべく、俺は静かに思考を巡らせて。
ピン、と人差し指を立てつつ口を開く。
「じゃあ、たとえば――」
「椎名が統治してる魔界で大変なことが起きてて、勇者的なやつを探してるとか」
「おお!」
「それか、逆に……」
「勇者パーティーが強すぎるから魔王軍の味方を増やしたいとか」
「うんうんうん!」
「あとは、そうだな」
「封印級モンスターの呪いか何かに
「わぁ……! えへへ、すごいすごい!」
「お兄ちゃん、天才!?」
椅子に座った俺の膝に手を乗せて、嬉しそうにぴょんぴょん飛び跳ねる椎名。
100%の喜びと信頼を露わにした彼女は、そのまま上目遣いの体勢で尋ねてくる。
「じゃあ、じゃあ――」
「もしそうなったら、お兄ちゃんも一緒に行ってくれる!?」
「――……ああ」
「そりゃもちろん。手でも何でも繋いでやるよ、魔王様」
「! ……えへへぇ」
「お兄ちゃん、だいすき!」
ふにゃりと頬を緩めながら全身で飛び込んでくるゴスロリドレスの椎名紬。
彼女が〝後輩〟となる英明学園での学校生活は、もしかしたら夢物語じゃないのかもしれない――。
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